26 ぎょうれつのできるおみせにならぶってたのしいようなきがします
お爺の整えたお庭だってドリューウェット城の庭園だって立派です。でも王城のこのお庭も結構立派なんじゃないでしょうか多分。以前夜会で訪れた時にテラスにも出ましたが、その時はあんまり興味なかったのでよく見てませんでした。ご馳走食べてて忙しかった。でも今はお爺が色々教えてくれたのでだいぶわかるようになったのです。
「旦那様!あの白くてふりふりしてるのはライラックのアグネススミスです!お屋敷にもありますっ」
「ほほぅ……あったか?」
「ありますっお爺に習いました!ライラックはいっぱい種類があるので、多分ここはライラックのお庭だと思います。人間はいっぱい色々「アビィー、アービー、ちゃんと前を見て歩こうな」はい!」
第二王妃にお招きされて王城に来たのですけど、夜会の時とは違う建物の回廊を旦那様にエスコートされて歩いています。その回廊から見えるお庭に咲く花で、お爺に習ったことのあるのを旦那様に教えてさしあげてました。人間はただ花や草を育てるだけじゃなくて色々変えてますので、そういうのは私にはわからなかったのです。でもお爺が教えてくれてかなり覚えました。人間のつくったお花はみんな苦いのばっかりです。なんで美味しくつくらないのでしょう。美味しくつくればいいのに。あ、でも去年食べたひまわりの種は美味しかった。
お城の侍女に先導されて着いた場所は、たくさんの薔薇に囲まれた庭の四阿でした。つんとした花びらがきりっとしてるバラや小さいけれどふりふりな木バラが、多分色ごととか種類ごとに配置されて、て、えっ?
バラのアーチの両側をお馬の形をした木が二頭、衛兵みたいに立ってます。二頭。二頭が偶然お馬の形、に?
「だ、旦那様旦那様。なんであの木はお馬の形に育ったのでしょう」
「――っ、あー、トピアリーだな。ああいう形に刈り込んだだけだ」
「ぉぉ」
「ぐっ……アビー、わかってるよな。今日はおすましだぞおすまし」
「お任せください」
旦那様が小声で今日の目標をもう一度耳打ちしてきましたので、ちゃんとお返事しました。できてます。
なのに旦那様はちょっとだけ眉を下げて前髪が触れそうな距離のまま囁き続けました。
「すまんな。君にはそのままで自由に過ごしてほしいんだが」
「……?群れのルールは大事ですので守ります」
群れから追い出されないために守らなきゃならないルールがあるのは魔物も動物も同じです。ただちょっとだけ人間のルールは意味がわからないの多くて難しい。魔物のルールも意味があるかといったらそうでもないのありますが、人間のルールはもっと複雑ですし。難しくてもできますけど。お勉強しましたから守れます。
城の方から近づく人の気配が感じられましたので視線を向けると、少し離れたところで待機していた侍女が礼をとりました。私たちも礼をとって待ちます。ゆったりとした歩みで現れたのが第二王妃なのでしょう。じっと待ちます。カーテシーをとった膝が震えそうですが頑張れます。
「よく来ました。楽になさって?」
四阿に入り腰かけた第二王妃にご挨拶した後で、私たちも促されて座りました。侍女たちが手際よくお茶や茶菓子をセットしていきます。親指の爪くらいの小さなローズクッキーで、白や薄紅色をしています。お爺がくれるクッキーはもっと大きくて真ん中にジャムがのってるからお爺のが好き。第二王妃がお茶とクッキーに手をつけるのを待ってから、ティーカップに口をつけ、あら?うっすらとバラの匂いします。バラ苦いのに……酸っぱい!これ酸っぱい!
「ああ、いい香りですね。見事なバラ園ですが、ここのバラを使用したローズヒップティーですか」
「ええ、昨年の秋バラの実やここのバラを使ってブレンドしましたの。ほら、ちょうど夫人の艶々した髪のように鮮やかな赤でしょう?」
予想外の酸っぱさにびっくりしました。でもおすましは崩しません。口を閉じたままのにっこりを第二王妃に返します。ちょっと瞬きが多くなってしまいましたが些細なことでしょう。あ、アフタヌーンティースタンドきました!一番下の段にあるサンドイッチは小さい丸とかお花の形にくり抜いてあります!一番上はちっちゃいスコーンで、真ん中にもちっちゃいケーキ、わあ、ケーキの上にきらきらとした蜘蛛の巣みたいな網が張ってあります!
「……美食家だと噂には聞いていましたがお口に合うといいのだけど。私的な場ですしマナーも気にせずお好きなものからどうぞ?」
サンドイッチからいただくのがマナーだとは知っています。でもこの場で一番偉いのは第二王妃です。旦那様をこっそり見上げましたら、旦那様も口角をきれいにあげたおすましのままでした。わかります。私は察しがよいのです。これはちょっとだけ悩んでる顔。どれも美味しそうですからね。迷うのも仕方ありません。
「すみません。私もこういった場は久しぶりで……普段武骨な者たちとしか関わっていませんので。寛大なご配慮ありがとうございます」
旦那様はそう言ってから、自分にチーズタルトを、私に木苺がひとつちょこんと載った上に金色の網がかぶさっている白いケーキをと、侍女に頼んでくれました。繊細な彫り物がされている銀の細いフォークでつつくと、軽い手ごたえとともに音もたてずに網が崩れました。飴!これ飴でした!細やかな網だからでしょうか。甘さが少し控えめに感じます。わずかにくっついてきたクリームと一緒にとろけて美味しい!やっぱりお城のケーキ!
「近頃人気の菓子店から取り寄せましたのよ。なんでも朝早くから行列ができてて、それでもなかなか手に入らないとか」
「お城のじゃなかった!」
だとしたらタバサと一緒に並んでもいいってことです!なんてこと!







