21 てっぺんにあるのはとくべつなのにだんなさまはいつもてっぺんにあるのをくれるのです
今夜は義父上と義母上も一緒に夜ごはんです。スチュアート様一家は別のお部屋です。
私は知らなかったのですけど、私たちの馬車とは別に、あのハギスを食べた町から羊をお城まで送っていたらしいです。それで、料理長が頑張ってハギスを作ってくれました。でももしかしてステラ様は匂いがだめかもしれないからって別々でお食事です。
そして運ばれてきたお皿には、ケーキのように丸く平らに整えられた段々の上に、ソースが細く波模様にかけられていて、この間宿で食べたものとは見た目が全然違います。三段に積み重なった一番下は茶色、真ん中は白、一番上はオレンジ色、違います、にんじん色です。これにんじんだってさっき料理長が言ってましたし。
「これハギスですか!?あ!ハギスでした!ちょっとだけハギスの匂いします!」
「……いつも思うけれど、アビゲイル、あなたその背すじ伸ばしたままの姿勢でよく匂いがわかるわね」
「はい!私は鼻もいいのです!」
宿で食べたのは熟して割れた木の実みたいになった胃袋に包まれたハギスで、そこからほぐした中身をお皿にとりわけてマッシュポテトを添えたものでした。でもこれは最初からケーキみたいになってます。ケーキの匂いしませんけど。お肉の匂いですけど。さすがお城の料理長です。見た目までとてもご馳走です。三色全部フォークにのるようにして口に運びました。美味しい!臭くない!
「旦那様旦那様!ほらやっぱりお城の料理長だから!」
「そうだな、うん。全然違うな」
お肉のところはほろほろふわふわしてて、でもしっかり内臓あたりのお肉の味がします。白いところはなめらかでもったりしたマッシュポテトで、お肉のほろほろを包んでて!それでにんじんも甘い!ソースは……ソースは食べたことない味?ぴりっと胡椒の味もして、なんか濃くて食べたことない味……ウイスキーソース!お料理の説明に来ていた料理長が、にこにこで教えてくれました。ウイスキーはお酒です!私飲んだことなかったから!
「旦那様!私お酒も」
「だいぶ違うからな。今度そのうちな」
ソースは美味しいのできっとお酒も美味しいです。今度そのうち飲みます。
「ふむ。私も私兵たちと一緒に食べたことがあったが、まるで別物だな」
「レバーパテの味わいですが、口当たりは軽いのに深みがありますわね」
義父上と義母上も満足そうです。そうでしょう。やっぱり料理長だから。料理長に頷いてみせようと視線を送りましたら、ものすごい笑顔だったので手を振りました。ちょっとびっくりしたので。
「これで魔力回復に少しでも役立つのであれば」
「あぁ、でも父上、手間はかなりかかったようですよ。鍋も匂いがついてほかの料理には使えなくなったとか」
「これ魔力もうないです」
「鍋くらい……んん?」
「美味しくなると魔力なくなるんですね!」
「お、おう……なるほど、な……そっかー」
料理長が少しぐらっとしたのを、義父上の家令がひじで支えました。旦那様は目を伏せて考えてるお顔です。
「料理長どうしましたか。頑張ったから疲れましたか。あとでハギス食べたらいいと思います。元気になる美味しいご馳走ですよ」
「……はは、手間をかけすぎたのでしょうかねぇ」
「そうだな。それと引き換えなんだろう。お城の料理長がつくったハギスの味は気に入ったか?アビゲイル」
「はい!さすが料理長です!」
「ならばいい。ほら」
旦那様はにっこりして、つけあわせの豆を食べさせてくれました。ちょうどよくしょっぱい豆はぷりっとして美味しい!
「そういえばアビゲイルはいつもお城はすごいって言うわねぇ」
「お城ですので!」
「王城じゃなくてもお城ならいいのでしょう?」
「お城に種類が……?」
義母上のお口が「あー……」って形になりました。え、お城って種類ありましたか。お城はお城では?もしやもっとすごいお城が?それがあるのはここから近いでしょうか。
「旦那様、帰りに寄れますか」
「大丈夫だぞ。お城はお城だ」
そうですよね。びっくりしました。どんな感じにすごいのかちょっと想像できなかったので。
「アビゲイルはどうしてそんなに城が好きなんだ?」
義父上にそう訊かれて、あら?どうしてだったでしょうと少しだけ考えて思い出しました。
「ロングハーストのお仕事をするようになって、執務室と書斎の本は読ませてもらえるようになったんですけど」
「……ほお?」
ぴたっと旦那様のスプーンを持つ手が止まりました。そのゼリー寄せは私の口にくる途中だったのではないでしょうか。見つめていたら、「お、おう」って、やっぱり私のとこにきました。美味しい!ちっちゃいエビとトマトです!お返しにちっちゃいコーンのところをあげました。
「ほんとにお前たちは……」
「身内だけの席ですし。で?」
義父上が何か言いかけてましたけど、旦那様は続きを促しますので続きです。
「資料とか教本ばっかりの中に、一冊だけ絵本があって、それは竜を倒した勇者がおっきくてつよそうなお城にいくと、すごいご馳走でおもてなししてもらえるお話でした」
「つよそうなおしろ」
「竜、そんなつよくないのに」
「……ん、んん?」
「そんなことしたくらいでご馳走でおもてなししてくれるなんてお城の人優しいです。やっぱりおっきなお城に住んでるくらいだから、すごい人間ばっかりなんでしょうって思ってたのですけど、当たりました」
「んー、その絵本のタイトル覚えてるか?」
「もちろんです!『魔王を倒した勇者と姫君』です!」
義父上は竜じゃないのかって呟いて、義母上は弱いそうですしって返して、旦那様はなぜか深呼吸を三回ほどして、それからゼリー寄せのてっぺんにある大きいエビをくれました。美味しかった!







