表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/131

21 てっぺんにあるのはとくべつなのにだんなさまはいつもてっぺんにあるのをくれるのです

 今夜は義父上と義母上も一緒に夜ごはんです。スチュアート様一家は別のお部屋です。

 私は知らなかったのですけど、私たちの馬車とは別に、あのハギスを食べた町から羊をお城まで送っていたらしいです。それで、料理長が頑張ってハギスを作ってくれました。でももしかしてステラ様は匂いがだめかもしれないからって別々でお食事です。


 そして運ばれてきたお皿には、ケーキのように丸く平らに整えられた段々の上に、ソースが細く波模様にかけられていて、この間宿で食べたものとは見た目が全然違います。三段に積み重なった一番下は茶色、真ん中は白、一番上はオレンジ色、違います、にんじん色です。これにんじんだってさっき料理長が言ってましたし。


「これハギスですか!?あ!ハギスでした!ちょっとだけハギスの匂いします!」

「……いつも思うけれど、アビゲイル、あなたその背すじ伸ばしたままの姿勢でよく匂いがわかるわね」

「はい!私は鼻もいいのです!」


 宿で食べたのは熟して割れた木の実みたいになった胃袋に包まれたハギスで、そこからほぐした中身をお皿にとりわけてマッシュポテトを添えたものでした。でもこれは最初からケーキみたいになってます。ケーキの匂いしませんけど。お肉の匂いですけど。さすがお城の料理長です。見た目までとてもご馳走です。三色全部フォークにのるようにして口に運びました。美味しい!臭くない!


「旦那様旦那様!ほらやっぱりお城の料理長だから!」

「そうだな、うん。全然違うな」


 お肉のところはほろほろふわふわしてて、でもしっかり内臓あたりのお肉の味がします。白いところはなめらかでもったりしたマッシュポテトで、お肉のほろほろを包んでて!それでにんじんも甘い!ソースは……ソースは食べたことない味?ぴりっと胡椒の味もして、なんか濃くて食べたことない味……ウイスキーソース!お料理の説明に来ていた料理長が、にこにこで教えてくれました。ウイスキーはお酒です!私飲んだことなかったから!


「旦那様!私お酒も」

「だいぶ違うからな。今度そのうちな」


 ソースは美味しいのできっとお酒も美味しいです。今度そのうち飲みます。


「ふむ。私も私兵たちと一緒に食べたことがあったが、まるで別物だな」

「レバーパテの味わいですが、口当たりは軽いのに深みがありますわね」


 義父上と義母上も満足そうです。そうでしょう。やっぱり料理長だから。料理長に頷いてみせようと視線を送りましたら、ものすごい笑顔だったので手を振りました。ちょっとびっくりしたので。


「これで魔力回復に少しでも役立つのであれば」

「あぁ、でも父上、手間はかなりかかったようですよ。鍋も匂いがついてほかの料理には使えなくなったとか」

「これ魔力もうないです」

「鍋くらい……んん?」

「美味しくなると魔力なくなるんですね!」

「お、おう……なるほど、な……そっかー」


 料理長が少しぐらっとしたのを、義父上の家令がひじで支えました。旦那様は目を伏せて考えてるお顔です。


「料理長どうしましたか。頑張ったから疲れましたか。あとでハギス食べたらいいと思います。元気になる美味しいご馳走ですよ」

「……はは、手間をかけすぎたのでしょうかねぇ」

「そうだな。それと引き換えなんだろう。お城の料理長がつくったハギスの味は気に入ったか?アビゲイル」

「はい!さすが料理長です!」

「ならばいい。ほら」


 旦那様はにっこりして、つけあわせの豆を食べさせてくれました。ちょうどよくしょっぱい豆はぷりっとして美味しい!


「そういえばアビゲイルはいつもお城はすごいって言うわねぇ」

「お城ですので!」

「王城じゃなくてもお城ならいいのでしょう?」

「お城に種類が……?」


 義母上のお口が「あー……」って形になりました。え、お城って種類ありましたか。お城はお城では?もしやもっとすごいお城が?それがあるのはここから近いでしょうか。


「旦那様、帰りに寄れますか」

「大丈夫だぞ。お城はお城だ」


 そうですよね。びっくりしました。どんな感じにすごいのかちょっと想像できなかったので。


「アビゲイルはどうしてそんなに城が好きなんだ?」


 義父上にそう訊かれて、あら?どうしてだったでしょうと少しだけ考えて思い出しました。


「ロングハーストのお仕事をするようになって、執務室と書斎の本は読ませてもらえるようになったんですけど」

「……ほお?」


 ぴたっと旦那様のスプーンを持つ手が止まりました。そのゼリー寄せは私の口にくる途中だったのではないでしょうか。見つめていたら、「お、おう」って、やっぱり私のとこにきました。美味しい!ちっちゃいエビとトマトです!お返しにちっちゃいコーンのところをあげました。


「ほんとにお前たちは……」

「身内だけの席ですし。で?」


 義父上が何か言いかけてましたけど、旦那様は続きを促しますので続きです。


「資料とか教本ばっかりの中に、一冊だけ絵本があって、それは竜を倒した勇者がおっきくてつよそうなお城にいくと、すごいご馳走でおもてなししてもらえるお話でした」

「つよそうなおしろ」

「竜、そんなつよくないのに」

「……ん、んん?」

「そんなことしたくらいでご馳走でおもてなししてくれるなんてお城の人優しいです。やっぱりおっきなお城に住んでるくらいだから、すごい人間ばっかりなんでしょうって思ってたのですけど、当たりました」

「んー、その絵本のタイトル覚えてるか?」

「もちろんです!『魔王を倒した勇者と姫君』です!」


 義父上は竜じゃないのかって呟いて、義母上は弱いそうですしって返して、旦那様はなぜか深呼吸を三回ほどして、それからゼリー寄せのてっぺんにある大きいエビをくれました。美味しかった!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

うすかわいちまいむこうがわ 1 ~婚約破棄された二度目の人生もぱっとしませんが、あやかしが視える目で最強軍人を導きます!~


さつき1 2025年7月25日発売!



↓発売中の書籍化作品はこちら!画像クリックで特設ページにとびます。

完結! 給食のおばちゃん異世界を行く3


給食表紙帯付き



愛さないといわれましても ~元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる~5


アビー5



― 新着の感想 ―
その勇者は果たして、その魔王が秋の収穫祭で弱ってたと知っているのだろうか…
[一言] 魔力そのものがアクとかえぐ味の原因だったかもしれないなあ。それを抜いちゃったら美味しくなるけど魔力も抜けるよねそりゃ
[一言] 義母上のアビー適応力が思ってたより高くて笑う( *´艸`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ