3 くるっとしてぴって!みておぼえるのはとくいです!
今日はドリューウェットのお城でお披露目です。
王都でのお披露目は、ドリューウェット家とお付き合いのある貴族と、旦那様とお仕事を一緒にされている軍の方たちが中心でした。今日はドリューウェットの親族や、領に拠点を置く商家とかの有力者が中心です。ちゃんと招待客リストは全部覚えました。だからこの目の前にいる人たちのことも覚えています。さっきご挨拶もしましたし。
「ふぅん……」
私より少し背の高いこの方は、パティ・グレン子爵令嬢です。義母上の妹の娘だから、旦那様の従妹だと聞きました。義母上よりも薄い色の金髪で、つんっておすまししながら私を頭からつま先まで何度も視線を往復させています。パティ様の後ろでは令嬢がお二人、男爵令嬢と商家の令嬢がくすくす笑いをしてますけど、何がおかしいのかはちょっとわかりません。というか、さっきご挨拶したのになんでこんなにまたじっくり見るのでしょう。目が悪いですか。
今日のドレスはエンパイアドレスですし、コルセットだってタバサがしてくれましたから、私はとても元気です。お花のお肉も大きなケーキも食べて、果実水も少し飲みすぎちゃってお手洗いにきたくらいなのです。だからおかしいとこはないはずです。
なのに温室のある大広間に戻ろうと廊下を進んでいるところで、お出迎えをされました。口元を隠して広げた扇の上で、パティ様の目が弓なりに細められます。
「ジェラルド兄様もおかわいそうに。政略とはいえ、ねぇ?」
パティ様は確か十九歳で、旦那様のみっつ年下です。だから兄様なのでしょうか。でも旦那様とはあんまり似ていませんし、レンガ色の瞳にも魔力の多さは見て取れません。私の方が強いです。
「まあ、政略といっても?没落したのでしょう?伯爵令嬢とはいえ、元、ではねぇ」
この廊下も温室も窓が大きいので、ここから温室の中が見えます。大広間と温室の間はガラス戸で普段は仕切られていますけど、今は解放されているので大広間までもよく見えるのです。旦那様の背中も見えました。お年を召した男性とお話しているようです。あれは確か領都で人気のレストランオーナーだったと思います。旦那様のちょっと後ろで控えてるロドニーと目が合いました。小さく手を振ってくれたので振り返します。
「聞いてらっしゃる!?」
「はい」
お話は聞いてますけども、私のお返事が欲しそうでもなかったから黙ってましたのに駄目だったみたいです。
最近気が付いたのですが、もしかして私は社交での会話術というのがあんまり上手ではないのかもしれません。タバサや義母上とはちゃんとお話しできるので、できてると思ってました。いえ、でも義母上と仲の良いご婦人たちとも上手にお話できるから、きっと会話術はとても難しいのでしょう。パティ様もまだお勉強中なのではないでしょうか。
「難しいですよね」
「何がよ!」
あら?ロドニーが左手に持った小皿を、手のひらを上にした右手で示してにっこりしてます。
……お肉?
王都でのお披露目でお出しした料理は全部味見をしましたけれど、ここでのお料理はステラ様が選んでくださいました。だから全部は私も知らないのです。あれはなんでしょうか。一口サイズのお肉だと、あ!断面に白い丸と黄色の丸!あれはゆで卵だけど、小さいゆで卵!小さいゆで卵の入ったミートローフだと思います!
あれはさっきテーブルにありませんでした。小さい卵だからいっぱいないのかもしれません。大変です。ここは中座するときの上手な文句を言うところです。習いました!
「没落した以上、ねぇ?わきまえたらいかがかと思いますのよ?」
「あのっ、私ちょっとお花を摘みに」
「あなた今戻ってきたところでしょう!わかりやすすぎではなくて!?」
パティ様がぐいっと身を乗り出したので、ロドニーが見えなくなりました。ロドニーならきっとあのお皿はとっておいてくれてると思うのですけど。でも美味しそうだったし。パティ様は何を言いたいのかよくわかりませんし。
廊下は広いですから、令嬢が三人並んでいても横をすり抜けることはできます。でもそれはお行儀悪いでしょうか。どうしましょうかと見上げると、パティ様はふふんと鼻で笑いました。振り向いてみましたけど、廊下にはほかに誰もいません。
「ジェラルド兄様はね、昔から私をかわいがってくださってたの。もう政略の意味もなくなったのですもの。すぐにでも私を妻としてお迎えになりたいに決まってますわ」
あら?第二夫人を迎えられるのは王族と公爵だけだと習いました。だから義母は私の実母が亡くなるまではお妾だったはずです。
「パティ様は旦那様のお妾になりたいのですか?」
「はぁ!?あっあなた」
パティ様は硬直したせいか、ふらりと後じさりして、あ!いい感じに隙間できました!
「わかりました!旦那様にきいてみます!」
「ちょっ」
おすましとにっこりで、するりとパティ様たちの横を通り過ぎます。やりました。これで問題なく広間に戻れるので――あ。
何かが足首にあたりました。勢いがついてしまっていたのか、ぐんっと床が近づいてきます。でも大丈夫。将軍閣下と旦那様が訓練で手合わせしていたところが脳裏に浮かびました。
くいっと肩を抱きこむように丸めて!体も丸めて!膝も抱えて!――勢いはそのままに、流れるように!
ぴたっとしゃがんだ姿勢で止まると、目の前にぴかぴかのブーツの先が見えました。
顔を上げたら、目を丸くした旦那様とロドニーが。
「できました!」
「すごいな!?」
 







