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【書籍5巻3/10発売】愛さないといわれましても~元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる【つぎラノランクイン】  作者: 豆田 麦
第二章

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2 ほっぺのおいしいうしはみるくのおいしいうしとはちがううしらしいです

 王都でのお披露目はちょっと失敗しました。

 旦那様は失敗じゃないって言ってくださいましたからいいのですけど、やっぱりちょっとだけ失敗だったと思います。本当なら領地でのお披露目のために義父上たちと一緒に向かうはずだったのに、おなかを痛くしてしまったばかりに私たちだけ一日出発を遅らせたのですから。

 今度コルセットをタバサ以外が締める時は、ふんっておなかに力を入れることにします。私は同じ失敗をしないのです。


 前にドリューウェット領へ向かった時は金色だった麦畑も、見渡す限り春の緑色です。

 予定より一日遅れてしまいましたけれど、ちゃんとお披露目の日までゆとりはあるので、前と同じにゆっくり馬車で向かっています。旦那様と二人一緒の馬車で、ロドニーとタバサは別の馬車です。家令のイーサンは今回もお留守番で残念ですが、お土産を持って帰ろうって旦那様が言うのでそうしようと思います。何がいいかちゃんと帰るまでに考えなければなりません。

 向かいの座席に足をのせて寛ぐ旦那様の膝の上から眺める窓の向こうは、麦畑から草原へと変わっていきます。

 なんだか四角い感じの動物がたくさんいて、それらはのんびりと草を食んでいるようでした。図鑑でみたことあります。あれはもしかして。


「旦那様!あれ!あれが牛ですか!?白黒のと茶色のがいます!」

「牛だな」

「ほっぺの美味しい牛ですか」

「えーっと、多分、茶色のがそう、かな。確か……」

「茶色がほっぺの美味しい牛……色で違うんですね……さすが人間の牛。角もちっちゃい」

「何と比べてる。牛っぽい魔物ってなにかいたか……?」

泥蝸牛(マッドコクリア)います」

「大きくくくったな!?……角の形は似てるかもしれない、か?」


 泥蝸牛は沼地にいる六つ足の魔物です。大きな角や背骨が大きく飛び出てて、背中に岩をいくつも乗せたみたいになってますけど、体の他の部分はぬるぬるしてるのです。あれはぐにぐにしてて美味しくありません。牛ならイーサンも好きでしょうか。


「旦那様旦那様」

「おう」

「お土産に牛はどうでしょう」

「おみやげにうし」


 旦那様は馬車の窓の外に目を向けて、それからまた私を見て。


「お披露目の後は新婚旅行だ。王都に戻るまでに時間もたっぷりある。ゆっくり考えて選ぶといい。他にもきっと色々あるぞ」


 確かにその通りです。新婚旅行はドリューウェット領都から馬車で三日ほどの港町で過ごすのです。初めての海ですし、きっと見たことないものもたくさんあるに違いありません。

 窓の外にみえる牛たちの動きはとてものんびりとしています。飼われているからでしょうか。野生ならすぐに食べられてしまうにきまってます。


「はい。牛は歩くの遅そうですから帰りにします」

「やっぱり一頭まるごとか。うん、じっくりよく考えてくれ」




 ドリューウェットのお城まで馬車で六日の予定ですから、途中は宿場町でお泊りします。前に行った時にも寄ったこの町は、酪農で栄えてると習いました。さっき見た牛たちもこの町の牛だそうです。


 ロングハーストも豊かな領だったはずですが、ドリューウェットより小さな土地でしたので、酪農はそれほど盛んになりませんでした。といいますか、あそこは領地面積こそ伯爵領としてそこそこの広さはありましたけど、魔王の森が大きく占めていて、人間の手が入っている部分はさほど大きくないのです。他領に比べて人口も少ないですし。

 畑の大きさの割に多い収穫量が豊かさの理由です。あと小さめの鉱山もありました。領地経営のお手伝いしてましたからね。知ってます。


 ドリューウェットは土地もたくさんあるし、海もあるし、人間もいっぱいいるそうです。だからきっと色々なものがあちこちにあるのでしょう。葡萄とかサーモンジャーキーとか。


 今日お泊りする宿は一階が食堂ですが、前にお泊りしたときはお部屋でご飯を食べました。食堂は平民が多くて賑やかすぎるからって。ちょっと遅い時間の到着だったからでしょうか。本当に賑やかです。香ばしいスパイスや脂の焼ける匂いがこもっています。美味しそうな匂い。


「旦那様旦那様あれはなんですか」

「ピザのことか?あー、そういえば屋敷で出たことなかったか」


 ホールからカウンター越しに厨房が見えるのです。料理人がぽーんぽーんって白いタオルみたいなのを空中で回してます。なぜ厨房でタオル干しますか。あ、くるくるってしました!くるくるって!え、あのタオルどんどん大きくなる!


 気が付いたら厨房のよく見えるテーブルについてました。いつの間に。旦那様がもう注文もしてくださったみたいです。傷だらけだけど磨かれてがっしりとした丸テーブルの向かいではなく、私の横に座った旦那様が「食べたいんだろう?」と笑いました。タバサたちは違うテーブルにいます。


「タオルです」

「ピザだ」


 タオルじゃないらしいです。あれはピザ。パンの薄い奴だって教えてくださいました。

 葉っぱがしゃきしゃきのサラダと、玉ねぎのスープをいただきながら、ピザが来るのを待ってると、旦那様の両手でも隠れないくらい大きな木のお皿が来ました。え、大きい。あ、でも薄い。ほかほかで湯気が立っています。薄黄色のはチーズ?チーズの匂い!とろとろに広がったチーズの下から覗いている赤いのはきっとトマトで、あっ、ベーコンもある!

 テーブルの真ん中におかれたピザの上に、金属の丸い車輪を旦那様がころころと滑らせます。なんですかそれ!カッター?転がるそれをじっと見ていたら、私にもやらせてもらえました。でも切れてるんでしょうか。車輪型の刃が通り過ぎたところにまたチーズが流れて、切れてるのかどうかわかりません。教えられた通りに車輪を滑らせ終えると、旦那様は私の取り皿に一切れ取り分けて、わあ、チーズがとろーんって伸びます!切れてました!


「手で持って食べていいぞ」


 三角になったピザをぱくりと食べて見せてくれた旦那様は、な?と親指で口元を拭います。お行儀は気にしなくていいってことです。湯気も収まったのできっと熱くないだろうと、私もピザを持っ……あっあっチーズがっチーズが落ちます!慌ててピザの先から口に入れたのですけど、伸びます。ピザと口の間のチーズが伸びます。これ、どうやったらこの伸びたチーズを口に入れられるでしょうか……。


 動けなくなっていましたら、横を向いて震えてた旦那様が、伸びたチーズをフォークですくってくれました。そのチーズはそのまま私の口に入ります。美味しい!とろとろだったのに、ぎゅっとした歯ごたえもあります。トマトはドライトマトですね、濃い甘みでほっぺがきゅうってして、ベーコンの脂でまろやか!トマトソースは多分色々スパイスとかハーブはいってます。にんにくが入ってるのはわかりました。


「美味いか」

「ふぁい!」


 もう一枚きっと食べられると思いますって言ったら、「デザートのアップルパイが入らなくなるぞ」って、それは!とても困ります!

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愛さないといわれましても ~元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる~5


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― 新着の感想 ―
[一言] そりゃこんなリアクションされたら餌付けがくせになるのも仕方ないw
[良い点] あびーちゃんがかわいい [気になる点] あびーちゃんのかわいさ [一言] あびーちゃんかわいい
[一言] もう二人で漫才デビューしても良いのでは
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