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30 タバサのところにいったらきっとおちつくとおもったのです

「……アビゲイル?どうした」


 旦那様が左腕にサミュエル様をのせて、怪訝そうな顔をされました。

 どうしたといわれましても……どうしたのでしょう。旦那様の左腕から目を離せません。





 サミュエル様は、アビーちゃんの髪と同じといってこの花壇に連れてきてくださいました。きて!きて!って手を引っ張られるままに、サミュエル様の隣にしゃがみます。ネリネというそのお花の花びらは、つやつやぴかぴかする真っ赤な色で確かに私の髪の色とよく似ています。


「きれー、ね!かーわい!」


 ……きらきらとかぴかぴかとかは私も好きです。多分。でも綺麗とかかわいいとかはちょっとよくわからないのです。きらきらでぴかぴかがサミュエル様には綺麗でかわいいってことでいいのでしょうか。


「あっ、むしです!」


 花と花の隙間から見える土の上を這う虫に、サミュエル様が気づきました。え、なんでくっついてくるのですか。え、ちっちゃいにんげん踏んじゃ……いえ、踏みません。間違えました。私今人間でした。動けなくなってる私をよそに、サミュエル様は私にくっつきながらも、首を前に一生懸命のばして虫を覗き込みます。なんかぐらんぐらんしてます。ぐらんぐらんしながら、ちっちゃな手を伸ばしては引っ込めてとしてますので、もしかして触りたいのでしょうか。


「……これおいしくないですよ」

「かまないですか。おかあさまや乳母(ナニー)のメグは、きゃーってします」

「……?これダンゴ虫(ロリポリ)だからかまないです。ほら」

「お、おおお……」


 つんと指でつつくと、くるんって丸まったダンゴ虫(ロリポリ)に、サミュエル様はまた私にぴとってくっつきました。アビーちゃんもっとって強請られて、つんつんつんつんってし続けてたら、けたけた笑い出すサミュエル様。なんで。ちょっとびっくりしたと同時に、私を呼ぶ旦那様の声がしました。


 ちっちゃいのに走った!よちよちしてるけど走ってる!よちよちなのに!ってまたびっくりしてたら、サミュエル様が旦那様の足元にぎゅって抱きつきました。なんで。両手をうんと伸ばして抱っこを強請って、そしたら旦那様がサミュエル様をひょいって抱っこしました。なんで。


 旦那様の右腕は、剣をとるほうです。だからふさいじゃいけないので、そしたら私を抱っこする腕がないです。魔王なら腕いっぱいありましたけど、旦那様はふたつしかないですし。




「どうしたアビゲイル……何持ってる?――お、おう、やっぱりそういうのか」


 私の目の前まで来てしゃがんだ旦那様に、持ってたダンゴ虫(ロリポリ)を見せました。

 地面に帰してあげなさいと言われたので、戻してあげます。サミュエル様はもう地面に足をつけてますけど、まだ旦那様の首に腕をまわしていて抱えられたままです。


「おじうえ!おじうえ!けんのおけいこしたいです!」


 ――けん!けんって剣ですか!?おけいこって練習ですよね!?旦那様と!?


「あー、後でなって……アビゲイル?」


 なんでしょう。なんだかとても落ち着かないです。


「タバサはどこにいますか」

「さっきは城の侍女長室の近くにいたが――本当にどうし」


 タバサはすごいのです。だからきっとタバサのところにいけば落ち着くと思います。



◆◆◆



 すっくと立ちあがって城のほうへと向かうアビゲイル。サミュエルはステラ義姉上に渡したが、おじうえおじうえとじたばたしていた。王都で何度か顔を合わせたくらいなのに、何故か妙に懐いてるんだよな……。


(あるじ)っ!主!早く早くっほらっ奥様行っちゃいますよ!」


 満面の笑顔でロドニーが追い立ててくる。お前なんでそんな楽しそうなんだ。わかってるわかってる。今追いかけるところだろ!ほんと足速いな!早歩きのフォームでなぜそんな速い!


 そうはいっても追いつかないわけがない。城内へ入る前に隣に並んだ。


「アビゲイル?」

「はい」


 声がいまひとつ元気がないし、なにより歩く速度が変わらない。それでも見上げてきた顔には、出会った頃の淡々とした表情にみえてどこか困惑しているような頼りないような色が浮かんでいた。


「……アビー?おいで」


 すくい上げるように左腕にのせると、はじめてレモネードを飲ませたときみたいな顔をして、額を俺の肩にすりよせてくる。……なんだこれどうした。ロドニーがものすごくにやにやしてるんだが。


「タバサに用があるのか?」

「落ち着かないのです」

「ふむ」


 とりあえずタバサを最後に見かけたあたりに向かって歩きだした。


「サミュエル、あー、子どもは苦手か?」

「……よくわかりません」

「そうか」

「なにいってるかときどきわからないし、ちっちゃくて踏んじゃいそうだし」

「お、おう」

「つぎになにするかわからなくてびっくりするし」

「――っ、そ、そうだな」


 ぐっとロドニーが喉を詰まらせた音が後ろからした。やめろ。うつる。


「旦那様と剣のおけいこするっていうし」

「んん?」

「私にはしなくていいっていうのに」

「う、うん?」

「旦那様、腕二つしかないのに」


 背後の気配が騒がしい。音はしないのに騒がしい空気だけが伝わってくる。うるさい。


「サミュエル様抱っこしたら私を抱っこできないですし」

「――っ」


 なんだこれどうした!一気に脳天まで熱くなったぞ!

 これあれか!やきもちか!このアビゲイルがか!倒れそうになるなおい!

 (あるじ)っしっかりっとロドニーが囁き声で叫んでる。ほんとうるさい。


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― 新着の感想 ―
アビーちゃん、可愛すぎる。。。
[良い点] ちゃんと気付ける旦那様って最高だよな()
[一言] なんというか・・・欲しい。 こういうのが家に一人(一匹?)欲しい。
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