16 つまのおしごとだってできるようになりました
ドリューウェットは、王都を挟んでロングハーストの反対側あたりにあります。旦那様はお休みをたくさんとってくださいました。大体馬車で数日のところをのんびり行くからなって、六日かけてドリューウェットに到着したのです。
前にロングハーストから王都のノエル子爵邸まで馬車できたときには、外は見えないようにカーテンを引かれていました。だから知らない風景を見ながらの旅は初めてで楽しかったです。広い広い麦畑で収穫する人たちと、そのお手伝いをする子どもたちでしょうか。手を振ってくれたので振り返したりもしました。
ずうっと遠くに大きな山が見えて、きっとあれがキンジャー山だと思ったら違うと言われました。馬車に乗ってるとちょっと方向がわからなくなるのかもしれません。
そう、野盗!野盗もいました!護衛の方は五人いて、そこに旦那様とロドニーが加わってあっというまに成敗してしまったのです。イーサンは王都でお留守番です。私はタバサに捕まえられて馬車から出してもらえませんでした。みなさんお強かったですけれどやっぱり旦那様が一番お強かったです。馬車に戻ってきた旦那様にそう伝えると、見てたのかってしかめっ面してしまいました。怖くなんてありませんのに。いざとなれば私がお役に立ってみせるのですから。妻ですので。
それにしてもお強かった。私も剣を習ってみたらどうでしょう。魔法は駄目って言われてるのでちょうどいいんじゃないかと。そう思って道中もよさげな棒を拾いましたら、タバサにとりあげられました。
「君は妙に運動神経がいいからな。下手な護身を覚える方が危険だ。いざという時はとにかく走って逃げろ。走れるだけの体力をつけるためにもっと食べられるようになりなさい」
そういうことではありません!ってタバサに旦那様が怒られていました。
ドリューウェットでは旦那様の本家というのでしょうか。旦那様はご自分の武功で子爵に叙爵されたので分家と言うわけではないと思います。だから……実家?多分そんな感じです。きっと。そのドリューウェット侯爵家に滞在することになりました。領都の宿をとると最初おっしゃってたのですけど、侯爵夫人に却下されたそうです。
ちゃんとご挨拶しようと思ってたのですが、馬車の中で眠ってしまったらしく、気がついたら侯爵家の客室のベッドでした。客室は旦那様が侯爵家で過ごされていたお部屋から離れているらしいのです。目が覚めたら側にいてくれていたタバサが教えてくれました。やっぱりちゃんと起きていたらよかった。失敗です。
「アビゲイル、起きたならこれから……なんで元気ないんだ?具合でも悪いのか」
旦那様が旅装から平服に着替えてお部屋に来てくださいました。
「……おはようございます」
「おはよう。顔色は悪くないが、どうした」
旦那様はベッドの端に腰かけて、私の額に手を当てて熱をはかってくださいます。熱ないです。
「眠ってしまいました。ちゃんと起きていたら旦那様と同じお部屋にしてくださいってお願いできたのに」
「あーっと、俺の部屋じゃ女性の身支度に不自由だから……」
「だってお屋敷ではお隣でした。お部屋とお部屋だって扉で繋がってましたし、私旦那様の近くがいいです」
「――っ、わ、わかったから。俺がこの部屋の隣の部屋を使う。それでいいな」
「はい!」
何故か旦那様はぱたんと私の横に倒れて枕に顔を埋めてしまいましたけど、やりました。旦那様がお隣にきてくれます。タバサがとってもにこにこしてます。
このドリューウェット領の収穫祭のお話を最初に聞いた日の次の朝、起きたら旦那様がお隣で眠っていました。同じベッドでです。それからは時々旦那様のベッドで一緒に寝るようになったのです。ちょっと以前習ったお話とは違う気がしますけど、一緒のベッドで寝るのだから多分誤差だと思います。妻ですので!妻のお仕事をできるようになったのです!
「さあさあ、主様、奥様に城を案内なさるのでしょう?お支度をしますから一度お戻りになってくださいな」
タバサが旦那様をお部屋から出るよう急き立てて、廊下にいたらしき誰かに隣の部屋の準備をお願いしました。
あら?お城?お城ってタバサは今言いました?
「旦那様」
「なんだ」
「お城です!侯爵家に滞在するっておっしゃってましたのにお城です!」
「まあ、王城より小さいけど確かに城は城だな。侯爵家だぞ」
旦那様が夕食前に案内してくれるといって、食堂とかホールとか画廊とか見て回っていたときも随分広いような気がしていましたが、お城だったのです!中庭に出て見上げたらお城でした!
尖った塔の先が見えないくらいに高くて、見上げてたら後ろに倒れかけたところを旦那様が支えてくれました。
「お城だから大きかった……!旦那様!旦那様はロドニーと一緒に育ったって」
「ん?そりゃ乳兄弟だからな。ロドニーもここで育った」
「だからロドニーのお茶は美味しい!すごい!ロドニーもお城の人でした!」
「もしかして城なら王城でなくてもよかったのか……?」
……すると旦那様もタバサもイーサンもお城の人ということです。
「もしかして旦那様」
「俺は御馳走も作れないし美味い茶も淹れられん」
あ、きっと旦那様がお強いのはお城の人だったからです。多分そうです。







