12 くりのとげとげはたべないとこだったみたいです
計画通りテーブルの端から端まで順番にお料理をとってもらいました。小さな卵を中に隠してるお肉も、ぴりっとするソーセージも、ひき肉が絡んだパスタもみんな美味しかった。お屋敷の御馳走だって負けないくらい美味しいけど、お城の御馳走はきらきらしてるのです。そう言ったら旦那様は「うちの料理人は見栄えより味重視だからなぁ。そこがよくて雇ったから」と答えてくれました。美味しいのでいいと思います。
タバサとの約束通り、お野菜だってちゃんと食べました。くるくるねじった形のおいもとか。
旦那様が寄こせというので、全部一口食べたら後は分けて差し上げたのです。だからまだ食べられます。
「旦那様旦那様、あれはなんですか」
二回目の質問です。さっき聞いたら、後でなって言われたのです。もう端から端まで全部食べられたので次のテーブルに行ってもいいと思います。もう後なのです。
「……なんだったか、あー、名前出てこないな。まあ、シュークリームだな。よく見てみろ」
「シュークリームは食べたこと、あ!小さいです。小さいシュークリームがいっぱいでした!」
お山のように積み上げられた小さなシュークリームはそれぞれ銀色のつぶつぶがのってたり、ピンクの細長い何かがのってたりしてちょっとずつ違います。違う色のもあります。
「おおきいお山みたいです……ちょっとだけ無理かもしれません」
「ぶふっ」
肩を震わせながら旦那様が頼むと、給仕の人は山を崩さないように小さなシュークリームをふたつ小皿にとってくれました。シュークリーム同士はくっついてなかったみたいです。あれ、でも今お山のどこからとってきたのでしょう。お山がさっきのまま変わらない。
「さすがお城の人……」
「ほんとどこでそんな信頼感もらってきたんだ」
くしゅっと口の中で潰れたシュークリームから、あ、あ、これはお屋敷で食べたクリームと違います!こんなに小さいのに二種類もクリームが!
「旦那様旦那様、これ、これ食べてください。こんなに小さいのに!」
お皿に残ったもうひとつのシュークリームを旦那様に勧めました。
「うん、生クリームとカスタードか。……甘いな」
「……こんなに小さいのにふたつも……旦那様」
色んな小さなケーキがいっぱい並んでるお皿に、黄色くてうにょうにょしてるのがのってるケーキがあります。ケーキ?動いてはいないですけど……。
「旦那様、あのうにょうにょのあれは」
「ん?モンブランケーキか?」
「旦那様、お城では虫も「違うぞ」」
栗でした。あのもそもそした実がこんな滑らかなクリームに!
「もそもそしてるか?栗って」
「魔王の時たべました。とげとげしてるしもそもそしてました」
「丸ごとか、そうか……確かになぁ……」
美味しい……栗って美味しい……にんげんでよかったぁ。
気がついたら広間の端にあるソファに座っていました。私の手にあったお皿を、旦那様がハーブティに変えてくれます。あ。
「旦那様、ハーブティはロドニーが淹れてくれたののほうが美味しいです!」
「それはロドニーが喜ぶな。帰ったら教えてやるといい」
「ロドニー、お城の人よりすごいなんて……なんてすごい……」
「――アビゲイル」
「はい、旦那様。ロドニーはとてもいいお仕事をしたのでシュークリームを」
見上げると旦那様が人差し指を唇に当ててみせてから、すっと私の前に立って背中を向けました。シュークリームじゃ駄目でしょうか。帰るときに潰れちゃうからですか。
「久しいな。ジェラルド」
「あなた、ちっとも帰ってこないのですもの。結婚だってお式もあげずにさっさと進めちゃうし」
ご夫婦らしきお二人が、旦那様の向こう側にいらっしゃったようです。男性は張りのあるお声で、女性はちょっと掠れたお声です。
「連絡はいれてます。昨夜も伝令鳥を送ったでしょう」
「あれはロドニーからじゃない。しかも業務連絡!」
随分と親し気な気がするのですが、旦那様はどこかイラっとしてる匂いがします。ちょっと覗いてみてもいいでしょうか。……覗こうとしたら同時に旦那様が一歩左に動いて覗けませんでした。旦那様こっち向いてないのになんで。
「私たちの義娘だろう。紹介くらいしなさい」
「そうよ。私たちも楽しみにしてきたのですから」
ということは、旦那様のおとうさまとおかあさまでしょうか。そういえばお会いしたことありません。多分ないと思います。旦那様が、ちって舌打ちしました。タバサに怒られるのに。
旦那様はドリューウェットのご家族とあまり仲がよくないと聞いたことがあります。どうよくないのかはちょっとわかりません。でも旦那様は私が地鳴り鳥のこととかお知らせすると領に伝令鳥を飛ばすのです。えらいと思います。お役に立つとほめてくださるのですけど、旦那様のほうがうれしそうですし。
「楽しみも何も領から出てくるとも聞いてませんでしたし。というか今ここにいるってことは昨日はもう領にいなかったんじゃないですか」
「領からは今朝王都邸に連絡が来たのよ。だってあなた先に言ったら逃げちゃうじゃない。私の侍女まで貸したのよ。これは絶対に夜会は欠席しないだろうしって思ったのだもの」
「別に逃げやしませんよ……アビゲイル。俺の父と母だ」
やっと旦那様が振り返って手を差し出してくださいましたので、その手をとって立ち上がり、タバサに教えられたカーテシーをしました。ロングハーストの家庭教師より何回も優しく教えてくれたやつです。……さっき旦那様は、しーってしました。ご挨拶はしてもいいのでしょうか。
「まあ、綺麗な礼だこと。お顔を見せて頂戴」
褒められました!タバサ!褒められました!
旦那様を窺うと頷いてくれたのでご挨拶もします。
「お初にお目にかかりま「あらあらなんて可愛らしい。いいのよ堅苦しい挨拶なんて」」
ご挨拶、途中までしかできませんでした。侯爵夫人は私の手を両手でとってにっこりしてくださいます。旦那様はその手をやんわりとほどかせて、私の肩を抱いて引き寄せました。
ドリューウェット侯爵は旦那様と同じ青い目を驚いたように見開いてます。同じ青ですけど、旦那様のほうが濃淡と揺れと輝きが強いので旦那様の勝ちです。夫人は面白がるように緑色の目を細めました。夫人は魔力量普通ですね。
「――妻のアビゲイルです。では」
「いやいやいや待て待て待て」
いやいやまてまて!!旦那様もよくおっしゃいます!侯爵様は旦那様にそっくりです!
朝の更新に間に合いました!
毎日一回の更新狙ってますけど、あがらなかったら、なるほどねーっと受け流してください。







