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3 おにくのなかのおにくです

 明日はやっと王都に着くので、今夜の宿がこの旅最後のお泊りとなります。

 王都に近いこの街にはそれなりに大きな宿があって、だからそれまでとは違い第四王子と一緒の宿でした。第四王子の一行と私たちノエル家を合わせるととても大勢なので、道中はほとんど別の宿だったのです。……行きもこの宿だったと思うのですけど、そのときはどうだったでしょう。確かお部屋で食事をしたはずです。おいものダンプリングが美味しかった。潰してお団子にしたおいものなかにお肉がはいってて、みちみちなお肉の濃い味がもちもちのおいもで柔らかくなって美味しいのに一個しか食べられなくて……そのとき第四王子はいなかった気がします。多分。

 今度は食堂でごはんです。全部貸し切りだから楽にしていいよって第四王子は言いましたけれど、私にはタバサや旦那様がいてくれるからいつも楽です。


「予定より短く終えたはずなのに、なんだか長かったような不思議な感じがするよ」

「予定より短かったんだから短いでしょう」

「そういうことじゃなくてー」


 テーブルの上には大皿に載ったお料理がいっぱい並んでいます。こういうときはタバサがいつも私の食べられる分だけをサーブしてくれるのですけど、今は周りに第四王子の従者しかいないので旦那様がしてくれました。タバサとロドニーはちょっと離れたテーブルで食事しています。


「週に一度でいいから。ね? ね?」

「なぜ譲歩の言い回しなんですか。お断りします」

「僕だってせめてこの帰りの道のりで済ませようと思ってたんだよ?でもさ」


 また第四王子は旦那様におねだりをしています。道中、顔を合わせるたびにおねだりしてましたけど断られています。第四王子諦めない。うさぎのシチューは食べ終わりました。お肉もにんじんも大きかったのですが旦那様が少し持ってってくれたから、他のもまだ食べられます。あのトマトで煮込んだお肉、あれはなんでしょう。すごくまん丸です。トマトがたっぷり絡んだまん丸のお肉が山盛りです。肉団子かなって思いましたけど、表面がすごくお肉だから違う。どうしてあんなまん丸……。


「全然相談どころかお話もできないじゃない。昼寝しちゃってるんだもの!」

「あの地でかなり疲れがたまったようですからね。アビー、別にこういう形の肉なわけじゃないからな」


 まん丸お肉が来ました!ころんとしたお肉の表面には焦げる直前の焼き目がついてます。

 転がらないようにフォークを刺してナイフをいれ――なんてこと!表面のお肉と中のお肉が違います!肉団子を普通のお肉でぐるぐる巻きにしてるのです!


「体が弱いとは聞いてたけどさ」

「私はつよいです」

「こまめな休息が必要なので城勤めなどとても。大体領地管理なら優秀な者はもっと城にはいるでしょう」


 一口頬張ると、表面のお肉は薄くてもしっかりとした歯ごたえがあって、それからじゅわっと肉汁があふれる肉団子がほろりとほどけます。こってりとした脂が、トマトの風味ですぐにさらっと流れました。美味しい!


「そりゃそうだけどさ。かろうじて持ち出した資料だってまるで系統立てされていないし」

「旦那様」

「ブラジオリだな。妻のおかげで主要なものは選別して持ち出せたはずですよ」

「ブラジオリ……お肉の中のお肉です」

「こふっ」

「あとは専門家にお任せしたらどうです。気に入ったなら料理長にも伝えておこうな」

「はい!」


 美味しいものを料理長にお知らせしておくと、もっと美味しくなって出てくるのです。本当はもう一個食べたいけど、我慢します。この前はおいものダンプリングでおなかいっぱいになっちゃってデザートが食べられなかったし、料理長にお願いしたらまた作ってもらえるのですし。

 旦那様は丸いパンを半分にしてくれたので、それにブラジオリのソースをつけて食べます。パンも表面がぱりっとして中はふかっとして美味しい!


「それだよ。それ。そりゃ専門の文官だっていっぱいいるさ。だけど夫人ってば資料のどこに何があるのかも覚えてるし、意味ばかりか計算だって一目でわかっちゃうじゃないか!聞いてないよそんなの!ってまた舌打ちするー!」

「アビー、ほらデザートが来たぞ。前は食べられなかっただろう」

「はい!これです!カンノーリ!」

「文官に引き継いでくれるだけでいいからー!」


 生成り色の薄い生地がくるりと巻いていて、その両端からこぼれそうなクリームには赤みがかった黄色の果実が混ぜてあります。


「あっ旦那様!丸ごと食べれます!大丈夫です!」


 半分に切り分けようとする旦那様を止めました。このくらいなら食べれるのです。そうしたら旦那様はご自分のお皿にあるカンノーリのクリームが見えるように向きを変えてにっこりしました。


「こっちのクリームはナッツが入ってるぞ。両方じゃなくていいのか?」

「半分にします!」


 まさか種類が違うだなんて!

 よし、とうなずいた旦那様は、さくりとふたつ切り分けて半分ずつを私のお皿においてくれました。


「ねえ、夫人ってば。お願い聞いてよ。っていうか、夫人って小食だけどしょっちゅうおやつしてるよね」


 この生地は焼いたのと違う!ふわっとさくっとしてる!クリームもチーズクリームかと思いましたけど、これ違う。リコッタチーズ!なめらか!あんずのシロップ漬けの甘さとちょうどいい感じです。


「一度の量が少ないんで回数を増やしてるんです。美味いか」

「はい!」

「そっかー……」


 第四王子の眉がちょっと下がりましたけど、旦那様は知らんぷりだぞって前に言ってたので知らんぷりでいいのです。

 ナッツのほうはピスタチオって豆とカスタードクリームでした。こっちも美味しかった!

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― 新着の感想 ―
[一言] 旦那様のマルチワークっぷりが半端ないなw 元々優秀だと解っていたけど
[一言] カンノーリ美味そうで、近くで買えるとこ探した 今度行ってみます
[一言] すごい会話術^_^
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