第9話 土台不足
──メラメラと輝く恒星が1日の半分を渡りきった頃、昔話は切ない締めで幕を閉じた。
過去を振り返る事によってその時の自らの無力さを再認識し、悔いるように拳を強く握りしめる大男の姿がそこにはあった。
出合い頭に見せつけられたあの別次元の圧迫感は焦燥へと様相を変え、オレはどう声をかけたらいいのかわからなかった。
沈黙が数10秒続きそれを先に破ったのは魔王だった。
「儂の独りよがりな戦闘スタイルのせいでこのような事態を招いてしまった」
「魔王さん、あんたは元々肉弾のみでの戦闘が得意だったのか?」
「いや、得意というよりはそれしか出来る事がなかったのじゃ」
その事実を恥じているのかやや俯いて煙たくしている。
異世界テンプレだと例えどの種族でも攻撃手段は魔法系を使用すると思っていたのだが。
その中でも魔王なんて火力の高い術とか使ってそうなのに、物凄く意外だ。
「魔法の類いはからっきしって感じなのか?」
「何も出来ない訳ではない、ただどれも低レベルで使うに値しないのじゃ」
「なるほどね、ちなみに具体的な魔法レベルの基準は存在するのか?」
「もちろんじゃ、1〜10までの階位魔法が各属性ごとにある、ちなみに儂は5で限界だ」
話疲れたのか近くの地面に転げていた焦げ茶色のアンティーク仕様の椅子を立てるとそこに座った。
その動作に便乗してオレもその場で胡座をかく事にした。
「気になった事があるんだけどさ、属性はどうやれば調べられる?」
「それは簡単じゃ、そこの噴水に自分の意識を向けるのじゃ」
「それだけでいいのか?んじゃまあやってみるけど」
正直、無機質な噴水を意識しろと言われても中々難しい。
これが好きな異性を意識しろだったら楽勝だったのが。
いや、やめよう…せっかく忘れようとしているのにまた思い出しそうだ、一点集中。
気持ちが乗りやすいよう前方へ手の平を伸ばして噴水をガン見し続けた。
すると勢い良く出ていた水は球体になり宙へ浮かんでいる。
まるで生命を宿しているかのようにあたり周辺をウロウロする。
「この反応はどうなんの?」
オレはやや興奮気味で属性について尋ねた。
そんな様子を哀れむように塩らしい顔を見せながら答えた魔王。
「おめでとう……無属性じゃ…」
無の頭文字を聞いた瞬間、それまで熱量を帯びていた瞳はウルウルと情けない風貌に変わった。
「ちょっと待ってくれよ!今、無っていったのか!?」
「そうじゃ」
「無敵のむってことだよな!?」
「そう思いたいならそう思えばいいじゃろう」
「じゃ、じゃあ、、無垢、、のむは!?」
「お主が純粋な心の持ち主と自負したいなら好きにせい…」
「そんなぁ〜」
普通こういう時はチート級でカッコいい属性に選ばれるんじゃないのか、光とか炎属性とかーいくらなんでも序盤から無能力者は詰んでるって。
「あーちがうちがう、無能という訳ではない、しっかりと能力はある、表記上紛らわしいがな」
あまりの絶望に目からはハイライトが消えかかりかけたがその一声で明かりを一気に取り戻した。
「もうーー驚かせないでくれよ〜第2の人生が早くも終わりを告げたのかと焦ったじゃんかよーー」
「ただのう、お前さんが今後どうしたいかは知らんがもし冒険者で食って行くとなると難儀な経験を積むじゃろうな」
「なんで?」
躊躇い気味になりながらも咳払いを挟んで答えてくれた。
「無属性というのは他の特殊魔法を扱う属性の類とは異なり、自身の腕力に依存して力を振るうモノじゃ」
それでなんとなく説明は分かったけどもうひと押し。
「つまり拳で語れってことか?」
「そういうことじゃ」
「なんだ戦う手段はちゃんとあるんだ」
「ただ防御に関してもそうじゃが、守りに転じる際も自身の体で耐え切るしかないのう、ガード出来る物で対抗してもよいが長くは持たんよ」
いざ戦闘で頼りになるのは自分の体の頑丈さ、そして腕力か。
属性を聞いている限り大体というか無属性以外はきっちり特殊魔法で力を発揮するモノらしいから正直悔しい。
けどなってしまったものはしょうがない。
「冷静に考えたんだけどさ、今こうして平和的に魔王さんと話ができてる、だったらこの世界に脅威というか倒すべき巨悪の存在はいないのかな?」
「現状おらんな、少し人間達の動向には気になる所はあるがこちらから攻撃しない限りは心配はいらんじゃろ」
と、少し高い目線から腕組みをしながら太鼓判を押した。
ホントに大丈夫だろうか?また怒りの勇者みたいなテロを起こす輩がいるかもしれない。
まあ、魔王が言うのだから大丈夫なのだろう。
それよりもこれからこの未知の異世界で生きていくには強さはもちろん食料がいる。
近くにモンスターやら食用の植物が生い茂るエリアがあるといいが。
大まかな世界の仕組みについて話も聞けたのでお礼を言って立ち上がり、自然のありそうな方へ踵を返そうとしたら引き止められた。
「おいおい、何処に行くつもりじゃ?」
「何処ってとりあえず食べるモンがないから食料調達しに行こうかと…」
「今のつんつるてんお主の実力では自殺行為に等しいぞ」
「だけど今何も持ってないから自分から狩りにいかないとそのうち餓死しちまうよ」
不満を言うと、眉間に皺を寄せて首を傾けながら考え始めた。
1分の間を用して手の平にグーをパチんとするポーズをするとこう提案してきた。
「お主はまだ戦闘のせの字も全然知らんはずじゃ、そこでどうじゃろう?儂の元で戦闘の訓練を積みながら暮らすというのは!?」




