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魔王娘の護衛に配属された!??  作者: うなぎ昇再
第6章 模合の休日
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第51話 尋奈辺コウ

──麗亡捜索から約一年が経過した。




 肌に心地のよい芝生の丘でかつてのクラスメイト二人、寝そべりながら思い出話を繰り広げていた。ただ、その内容は決して静穏で済まされるムードではなかった。



 当然だ、いきなり前触れもなく自殺したのだから。自分の過ちのせいでどれだけ周りの人間に迷惑、心配をかけたのか。想像するだけで頭が上がらない。

 だからこそ予期しなかったこの再会で誠心誠意、謝罪しなければ。

 隣でスズメバチのように容赦なく黒い眼を向けてくる色黒な元長距離部になんとか怯まぬよう見つめ返す。


 「黒泉さんから大体の動向は聞いたよ、本当にわるかったな……オレがこっちにいる間にお前に負担かけちまってさ…」


 「そんで生き返れない以上、この先もずっと俺達の記憶の中で迷惑をかけ続けるんだよな」


 「ごめんな…」


 「そう言ってれば済むと思ってる?あーあ、ホント馬鹿だよな、こんな人の気持ちを省みない奴を尊敬し続けたなんて一生の恥だわ」


 「ごめん…」


 「消えた事実に耐えられなくなって後追いしたアホなホラーヲタクもいたし。アイツ教室でもグランドでもお前にべったりだったから、惚れてんのもバレバレ、そんな心底好いてくれる奴も死なせた、いや、お前が殺したようなもんだな」


 「……ご、ごめ──」


 ”ゴスッ”


 左頬に鈍痛が駆け抜け、勢いに耐えられなかった肉体はアウト濃厚なランナーみたく無様なヘッスラを噛ましていた。





 友人に暴力を振るわれた。





 だからどうした?それくらいでは全然生温いだろ。手加減はいらない、容赦ない罵詈雑言もどんな暴状もこの腰抜けにぶつけたらいい。

 なんなら自前のナイフを貸し出すよ、限りある命を安々と捨てちまえる男の全てをどうにかする資格がお前にはある。さあ──


 「ごめん、ごめんって、馬鹿の一つ覚えにみたいに謝ってよ、定期で喋るBOTかよテメェっ!!いくとこまで罰せられればいいんでしょ?みたいなふて腐れた態度がムカつくんだよっ!!さあ立てよ、拳の骨が砕けるまでサンドバッグにしてやんよっ!!」


 一発出たら、もう一発、そんな自動販売機で7777を当てる感覚でオレを支える躯体は拳の嵐に当てられた。

 




──もうかれこれ千発は到達しただろうか。痛覚がかなりなくなってきた、殴られて痛いのはこちらのはずなのに相手の拳からは憂苦を含んだ悲しみが滲み出ている。


 「クラスメイトだけでは飽き足らず妹も泣かせたっ!時々心配でお前の家に遊びに行ってやると陽気にじゃれついてくるよっ!あれからだいぶ経って元気にきゃっきゃしてるけど、それでもやっぱり兄貴のいない寂しさを時折見せるんだよっ!!」


 「……ごめん…」


 ”ゴスッ”


 口内では鉄棒を頬張った時に似た、血の味が舌状に生温かく浸透していく。自分でも人生最初で最後の愚行だったと思う、大切な人が目の前で自殺したからその事実を認めたくなくて逝った。それはあまりにも躊躇がなく本能的で、あたかも生まれる前からプログラムされていたかのような自然な感覚。


 「なあ…?俺に理解できるように説明してくれよ、周囲を不幸にしてまで何がしたかったんだ??」


 「……いきなり…好きな…子が屋上か…ら飛び降りて、パニッ…クになったの…かな?」


 「俺が知るわけ……っねだろぉーがっ!!」


 ”ドスッ!ガスッ!…ドッドスッ”


 



──暗転する前触れと言わんばかりに視界が点滅信号に切り替わり始めた頃、頭の片隅にある記憶の欠片達を名残惜しく反芻していた。





 ……もう、そろそろ限界かな………




 

 …………くっ…





 …………っ…っ…




 『懐鬼ごめんな、中長距離部のまとめ役任せちゃって。ホントにタメかよって思うくらい大人びてるからさ、ついつい頼りにしちまうんだよ。

 地方大会の件は残念だったけど最後まできっと諦めなかっただろうな、オレがあげた無駄に効力のありそうなお守りはあんまし役に立たなかったのかもな』


 「尋ぉぉっ──」





 『日比ごめんな、学校でマドンナ的存在のお前がまさかオレみたいな石ころに、特別な感情を抱いていたことに全然気づいてやれなかった。

 だからこそ、たくさん振り回したと思う。

 お前んちにホラー映画見に行ったり、学校での異常な距離感を仲良しだからの一言で片付けていたり、色々許容し過ぎた。気持ちに答えられない以上、友人としてきっぱり言ってあげるべきだった。

 上から目線のつもりは断じてないが、オレには好きな人がいた、いや、今もこの世界の何処かにいるはずだ。ケジメじゃないけどあのコに再会することが今の使命だと思ってる』


 「奈ぁぁっ──」





 『模合ごめんな、一緒に夢の舞台に行こうって毎日飽きもせずに口にしてたよな。改めてインターハイ優勝おめでとう。

 表立って言わなかったけどお守りの中の紙に目標書いてたのはもうバレてるかもな、あれだけやる気満々に宣言しておいてこのザマだ。詐欺師もドン引きの嘘つきだなオレは。

 妹のこと気にかけてくれてありがとう。

 アイツ家で寛いでるとやたらわーきゃー絡んでくるから忙しなかったろう?

 一見陰鬱とは無縁に思えるけど全然そんなことなくて、湿っぽくてヒドく甘えん坊な奴だ。話を聞く限りお前に心を許してるみたいだから今後も安心して任せられる…』


 「辺ぇぇっ──」


 ヒステリックな叫びと共にボロボロな一発が顎に命中し、瞼がゆっくりと幕を下ろした。





 



──悪い夢を見てたのかもしれない。こんなに寝覚めがいいのだから、目を開けて初めに飛び込んでくるのは勝手知ったる我が家の黄ばんだ天井に決まってる。

 意識を覚醒させ刮目せよ、どうだ!?



 ……残念ながら視界には気絶する前と同じ澄んだ青空が広がっていた。淡い期待を溜息に込めて吐き、周囲の様子を窺うと一人の女の子の存在を確認する。どこか親しみがあるな。

 特徴は髪型がショートボブ、パッチリで愛くるしい瞳、そして何と言っても好物はミルクティーでしょっちゅう我が家のコーナーソファで奪い合いを………っ!?っ!


 「お兄ちゃぁーーーっんっ!!!っ」


 「!っ!っ?っれいなぁぁぁーーーっ!!!っ」


 全力疾走で目標へ、辿り着けば互いの実体をこれでもかと強く抱きしめ、人肌の温かみを噛みしめる。

 麗亡だっ!オレの麗亡だっ!世界でたった一人の妹だぁっ、これも黒泉さんの計らいかっ?やっと出会えたぁ、もう二度と会えないって諦めてたのにぃ…

 あぁああああぁーーあいぃうえおぅーーああっあああっーーー嬉しいぃぃっ、あかさたな百万回言えるくらい嬉しいよ……


 「お兄ちゃん…痛いよぉ…」


 「おっ、ごめんな、嬉しくてつい力が入っちまって」


 「えへへ、私も…」


 麗亡と会ったのはいつぶりだろう。見ない間に少し背も伸びたみたいだがまだまだ頭を撫でやすい高さだな。模合もまだいんのかな?もう一回ちゃんと謝んなきゃな。

 まあひとまず、久々に兄妹水入らずで積もる話もあることだしじっくり満喫しよう。

 脱力したひょっとこのように顔を綻ばせていると、人懐っこい眼差しをこちらへ向け麗亡が口を開いた。


 「じゃがじゃん!ここでお兄ちゃんに重大発表がありますっ!」


 「おー!なんだ!なんだ?兄ちゃん気になります!」


 「ドロロロロロロロロロロロロォ…パァンッ!」


 「ずいぶん焦らすじゃないか、ワクワクっ!」


 「…麗亡は………お兄ちゃんと…………オソロになりましたっ!」


 「………ん?どゆこと?」


 「だぁ〜かぁ〜らぁ〜お兄ちゃん学校の屋上でバンジージャンプしたでしょ?だから私も真似してみたの!柵乗り越えて飛び降りるのすっごく怖かったけど、ジェットコースターみたいにスリル満点ですっごく面白かったよ!」





 え、と、とと、あっそうだ!妹の学校ではもしかするとそれが体育科目の一部なんだ。そうだ、そうだよ!俺みたいな自殺者が出ないように命の大切さを学ばせる授業の一環なんだよ、絶対そうに決まってる。

 けどまあ、もしものもしものもしも、それこそ百パーに近い確率であり得ないけど一応確認しておかないとな。


 「命綱はつけてやったんだよな?」


 「つけてないよ」





…………………………… … ……………… ……





……………………………  ……… …





…       …   …





 「………麗亡……ここはふざけていい場面じゃない、嘘をつかないでくれ」


 「なんで私が嘘をつかないといけないの?ずっとずっと寂しくてどうしたらお兄ちゃんに会えるかなって考えてたんだよ。

 それで思いついたの、お兄ちゃんと同じやり方で死ねばまた会えるんじゃないかなって!」


 妹は悪びれる素振りを見せないどころか頭に拳をごっつんこしてテヘペロを放つ。

 ああ、妹はきっとイカれてたんだ。オレが先立った事実を知ったその瞬間からイカれ腐ってたんだ。模合にさっき鬼の形相でフルボッコにされたのは麗亡が現実世界で命を絶ったから。









 つまり、オレが殺したんだ。性懲りもなく、また。そんなつもりもないのに日比に続いて妹まで魅了して、死へと引きずり込んだ。

 









 なあ神様?質問いいかな?オレには地獄の方がお似合いか?………





…     ……  …





…………………… …………っ……っ!






…っ!!っっっっ……………っっつ!!?っ









「あああああああーっ!あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーあぁーああああああああああああああああああああああああああぁーーーーーーーっああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁっっーーーっ!!!っ??ーっっ!!!!!」

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