第49話 死に急ぐオマエら
男の子が言うにはこのネグレクトじみた施設の有様はとある目的を狙ってのことらしい。その全ての元凶は一人一日一枚のハンコ(この世界のよくわからん食べ物)を届けてくれる一人の女性が絡んでいて、子供達は彼女を゛ママボ゛と呼ぶ。
由来はここの管理者の立場からまずマミー(普通マザーじゃね?まあ、これも幼児語だからギリギリありっちゃありか…)ともう一つは箱に書籍をパンパンに詰めたような体型から英語のボックス、これらを組み合わせて頭文字を取ると、マミーマミーボックス→ママボとなるわけだ(こいつらそいつのこと絶対嫌いじゃん、マミーをわざわざ二回使用するのにも悪意を感じるぞ…)。
それになんか親近感の湧く略称だと思ったら、こっちの世界で販売されてるあの球型チョコレート菓子を縮めた呼び方に似てるんだ!くえっくえっくえっ♪チョ──っと危ない、危ないっ、もう少しで商品名を口遊む所だった。頭ん中シリアスに切り替えないとな。
脱線した話を戻すと、どうやら人の手が行き届いていない劣悪な環境に身を置かせることに意味があるらしい。ママボから提供される最低限の食料にも空腹状態を維持させて、負の感情を維持するという企みがある。
今更だが施設にいる子供達は親から虐待されて逃げてきたり、身寄りのない境遇者の集まり、つまり仮にも此処は孤児院だ。
この世で一番負の連鎖に囚われ、絶望した者だけに切なく美しい結晶が顕現する。
「えっとつまり、世界一不幸なヤツをこの施設で生み出すためにわざと手抜きな世話を焼いて、その稀有な結晶とやらを手に入れたいってわけか」
「あ…ああ…他にっ行く…当てもない…かからっ…ここでっ大人しくっ……犬死すっ…しか、、ない…」
「まじかよ…なんとかなんねえのかよ」
「無駄…だっ、、抗うだけ…体力をっ、悪戯に消費す、するっだけだ…」
こいつの表情と声色には感情がかなり欠如していて、気持ちを読み取り辛いがこれが孤児院たちを代表した声なのだと悟った。
別に俺はこの世界の麗亡と会って話すだけで目的を果たせるからそんなことどうでもいい、気の毒には思うけど助ける義理はない、さっさと居場所を聞き出してこんな胸クソ悪いとこからお暇させていただこう。
「──諦めるにはまだ早過ぎるんじゃねえの?ここから出られるよう協力してやるから、簡単に死ぬとかいうなよ」
「ほんとに…っ…どした、んだおまっえ?!人がっ変わっだ、みたいに…」
予想外の前向きな提案にほぼ無機質だった顔が当惑の色を見せる。
ここでぞんざいな扱いを受けてるこいつらを見捨てるのは簡単だ、でももし目の前に自殺しようとする親友がいたら俺は大人しく傍観するのか?そんなこと絶対あり得ない。あの時死に急ぐあいつをその場で止めてやれなかった自分を呪ったくらいだ、身近なヤツがいなくなるのはもうごめんだ、だから何としてでも助ける。
とりあえずこの世界の麗亡の居場所を聞き出して、会えたらあっちの世界に戻してもらって麗亡を探す、発見次第またこっちに来ればいい。
てか麗亡何回いうんだよ、パラレルワールドあるあるだなこれ。
「あれ?言わなかっけ?今日はすこぶる調子がいい日なんだって!」
「いづもと……落差っ、あり過ぎ、、だろ…」
「細かいこと気にすんなって!それよりさこういう聞き方変だと思うんだけど俺と一番親しい子この施設の中にいたりしない?たぶん女の子だ」
「やっぱ…ボケてっは、いるんだっな……それならたぶ…んっ図書し、つにいる…はずだ」
「サンキュー、あーでも場所忘れたから案内してもらってもいいか?」
「仕方な、いなっ…」
図書室まで先導してもらうことになり後について行くがあまりにも覚束ない足取りだったので途中で肩を貸して歩いた。
──なんとか図書室前まで辿り着くと、まず初めに荒れた掲示物が目についた。
室名札には【図書室】と表記されていたみたいだが「書」の字から斜め半分に切り裂かれている、そこから視点を少し下げると【読書週間】の張り出しがあり、新書の入荷予定も一緒に掲載されていた。期間には「魔暦2030年4月15日〜5月15日」と見慣れない年代表記で記されている。恐らく張りっぱなしなんだろうな。
木製の引き戸には所々白カビが繁殖していて素手で触れるのを躊躇ってしまう、何か物を使って開けようと試みるが、どこもかしこもカビ塗れなこの劣悪環境に衛生的な物体は存在しない。
せめてもの抵抗で人差し指と中指を取っ手の溝にかけながら素早く戸を開けた。




