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魔王娘の護衛に配属された!??  作者: うなぎ昇再
第6章 模合の休日
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第44話 一番乗り大作戦

 辺りは靄がかかってまるで何処かの秘境に一人、迷い込んだ気分になる。体全体もだいぶ火照ってきて思考も上手く働かない。ただ、頭の中では同じ光景が何度も再生されている。そりゃあもう、うんざりするほどに。これが日本一を切望した反動なんだろうか、何も考えない時は決まってそれだ。史上最高の快挙に酔いしれるのもそろそろやめにして、もっと世の中の娯楽に触れていこう。先約もあることだし。

 つい昨日、我が家に遊びに来た麗亡から今度二人でどこかへいきたいと誘われた。既に出かけるスポットの目星はついているらしい。

 まずは毎度、開店前にも関わらず長蛇の列を作るクレープ専門店【ティシュリジャモイ】へ行く。店名はフランス語の略称で『甘く伸ばした織物』という意味らしい、そのまんまだな。

 デザートをぱくついた後は今SNSで話題沸騰中の占い師に会いに行く。女性層の割合が多いみたいで居づらいが、少女がお供してくれれば兄妹っぽく見えて少しはリラックスしていられ…………やべっ…マジで頭ぼぉーとしてきたからよろっと上がろう……

 のろい動作でシャワーヘッドまでいくと温度調節ハンドルを限界まで下げて水浴びをする。



 「つめてぇっ!」



熱を帯びた体にひんやりと刺激が入り、一気に意識が覚醒した。





──日曜、午前6時20分頃、久々の早出にちょっと億劫になりつつも、朝食を済まし身支度を整えると足早に家を出た。歩いて約10分くらいの所に御殿場駅があり、そこで麗亡と待ち合わせをしている。一緒に国府津行きの各停に乗り下曽根駅で降りる予定だ。あっちには大体7時前に到着してクレープ屋に行列ができる前に並ぶ算段となっている。とはいっても9時からしか開店しないけど。

 駅に到着し階段を駆け上るとすぐ真横にある切符売り場で目的駅までの切符を購入。改札を通り軽快な足取りでホームへ続く階段を下っていくと、背中合せベンチに猫背の少女が一人座っていた。今日は珍しく髪の毛をツインテールに結っている、そこに誰かの意図を感じるのは気のせいか?まあ似合ってるし、よしとしよう。



 「おはよーー!麗亡ちゃ〜ん、モアイお兄さんだお〜!」


 

 ニコッと体操のお兄さんさながらの挨拶を繰り出してみた。どうだ?目も覚めるようなこの爽やかさ、おまけに語尾も可愛さてんこ盛りにしてやったぜ。女の子らしくキャピキャピ反応してくれてもいいんだぞ!

 すると俯いた顔をこっち向けてくれたが、あら不思議、ゴミを見るような目なんだけど……

可愛さはお呼びじゃないか………だったら…



 「実は先週パチンコで大損こいたんだわーーでっ!金貸してくんない?絶対倍にして返すからぁーーー!だ・か・ら、なっ??俺、ギャンブルに妥協とかしたくないんだよーーーー!」



 エアー鷲掴みで右手首を誇らしげに回し、胡麻を擂ってみる。負けたって何度も挑戦し続けるんだ!勝負は負かされた場所で勝つまで…いや、俺のリールは一生回り続ける。極上のギャンブラーに「働けばいいじゃん」は禁句だ。

 そんなニヒルを気取って様子を窺ってみると……なんということでしょう~さっきまで生気のあった瞳から、綺麗さっぱりハイライトが消え去りました!ヤバいな、このままだとあとのトークに支障が出てしまう、なんとかこの場を温めなければ。クズもお呼びじゃないなら、あとはまだいるか?ウケがよさそうなキャラ。っ!あるじゃんか一番ベタなヤツが。



 「あっち向いてぇ〜……アゴケツっ!」



 掛け声と共に左手の人差し指を右へ向け、右手の親指と人差し指で顎を摘んでケツ顎を作る。顔も同様に右へ向けながら目線だけ正面に引っ張ってみると、僅かにハイライトが戻っていた。いいぞ、さらにここから畳みかけよう。



 「考える人!(エロい妄想しているver)」


 「……っ!」



 口元の水平線が崩れた、あと少し…



 「なあ母さんや、どうやらスマホを失くしてしまったらしいんじゃが、見かけなかったかの?探す方法をスマホで調べておるが、いい案が見つからなくての。えっ?今、手に持ってるって?フォフォフォっ!たくっ母さんは何を言っておるんじゃっ!」


 「………」



 あれれ、また死んだ魚の目みたくなってる、ボケネタはイマイチか?それとも尺が長すぎたのか、じゃあこれはどうだ……





──下曽根駅に到着しホームへ進むと、すぐに俺から離れて階段を一段一段跳ねてから早く来るように催促された。麗亡のテンションは順調に上がっている。電車に乗車してから既にいつも通りの感じで話していたけど、逆にそこに至るまでの俺のメンタルは砕けそうだった。気持ちが沈み気味の朝に笑いを取るつもりで臨んだのに、チキショーめ、これがスランプか。



 「モアイおっそーい!せっかく早く来たんだから一番先頭で買うの!はーやーくっ!」


 「ちょっ待てよ、自画自賛のギャグが受けなかった俺に走る気力はないんだよ」


 「まだそんなこといってるの?大丈夫だって、ちゃんと面白かったってば!一発屋にはきっとなれるよ!」


 「最後の一言で台無しだなっ!」



 階段を降りて外へ出るとすぐ斜め向かいに【ヘイロード】という商店街の入口を見つける。今日の目的地二つはこの通りに存在し、クレープ屋は入って数百メートル辺りの廃れたシャッター店舗エリアにあるらしい。辺り一帯を回視すれば風情のあるレトロな雰囲気が漂っていた。バリエーションに富んだ居酒屋、全国チェーンのカラオケ店、妖しいお品書きを玄関ドア横の椅子に据え置いたスナック店など充実のラインナップだ。そんな感じで感心していると一歩先に進んだ所で麗亡が固まっていて、それに気付かずぶつかってしまう。



 「わり、久々に来たもんだからよそ見してたよ」


 「…モアイ……あれ…」



 言葉を失う彼女の語気に異変を察し、指差す方へ顔を向けると飛び込んできた光景に思わず絶句した。



 「嘘…だろ……」

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