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魔王娘の護衛に配属された!??  作者: うなぎ昇再
第1章 安楽心中
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第4話 恋に落ちる音

練習メニューを終えると時刻は17時前くらいだ。


ポイント練の日はこうはいかなくて、脚に優しい素材のタータンが使用されている競技場に行かなくてはならないのだ。


そこまで徒歩で歩いて行ける距離ではなく電車に乗らないといけなくて、練習メニューを熟す時間を含めて往復すると19時過ぎになっていることがザラにある。


今日は早めに練習を切り上げる事ができるから憂鬱な気持ちにならなくて済む。


あとは帰るのみと一通りやる事を終えて気楽にまず部室に荷物を取りに行った。


扉を開けて中に入ると先に来ていた2人の生徒が丁度着替えている最中だった。


「お?噂をすりゃあ王子様のお出ましだ!」


いきなり甲高い声で出迎えてくれたのが3年1組の革上ケイト、身長171センチ、学力平凡、運動神経そこそこ、趣味は編み物で最近は動物をモチーフにしたポンポンキーホルダーを作って欲しい人達にランダムで配っているらしい。


「だからそういうんじゃないって何度も言ってるだろ」


からかいの声に若干むかっ腹が立ったのでそう答えた。


なぜ王子様呼ばわりされているのか、それには理由がある。


それは部活動でお馴染みの光景であり、人目を憚らずにベタベタしてくる日比の日頃の行いが原因だった。


それを羨んだ生徒達が何時からか【王子様】という呼称を使うようになった。


(いやいや、あれは何ていうか気まぐれというか、冷静に考えてあんな学校中を魅了する女神さんがこんな道端に落ちてる石っころと大差ないオレなんかを好きになる訳ないだろ)


と釣り合わない宣言を心で叫んだ。


「マジかよ流石に冗談キツいって、あれだけ距離感近くてまだ自分には気がないとか思ってんのかよ」


「当たり前だろ、アイ…じゃなかった…日比にはパーソナルスペースってモノが存在しないんだよ」


「そんなヤツはいないよ、人様に腹見せてゴロみゃー鳴いてる猫じゃないんだからさ、誰しも干渉されたくない領域はあるだろ」


「言ってることはわからなくはないが決めつけが過ぎる」


「それで十分な証拠になると思うけどね、それにたまにだけど自宅に呼ばれたりしてるんだろ?もうそれ決まりだろ」


こんな風に部室で革上と鉢合わせると問答するはめになるからホント勘弁して欲しい。


そんな困っている姿を見ていたもう1人の部員が見かねて助け舟を出してくれた。


「ナベチそろっと帰らないとじゃね?確か今日妹さんのお守りだろ?」


「え?」

 

 一瞬、革上とのダルいやり取りに全集中していたオレは怯んだが、彼の意味深なウインクを受けて状況を理解した。


「あー!すっかり忘れてた!?もう行かなきゃ、お前らじゃあな!!」


そう言い残すと荷物を持って一目散に部室から飛び出した。


(恩に着るよショー、あの調子だと何時まで付き合わされるか未知だったから超助かった!今度商店街の絶品コロッケ奢ってやるからな!)


彼の名は懐鬼ショウ、クラスは3年4組、身長177センチ、成績優秀、運動神経そこそこ、趣味は料理作り、筋トレだ。


あと逸話も持っていて我が校の歴代バレンタインチョコ所持数超えを果たした偉業者である。


その実績を裏付ける要因は誰にでも分け隔てなく接したり、悩み事があるならそれに尽力したりとそういう真摯的な姿勢からくるものだろう。

 

日が落ち始め淡いオレンジ色の空が顔を出す頃、駆け足で帰路に就いて校門を抜けようとしていると小さな声で呼び止められた。


予想だにしていなかった人物の登場にスムーズに動いていた脚はバランスを崩し少しよろけて止まる形になる。


視線を上に向けるとそこに居たのは俯き気味の3年3組のクラスメイト頑和冷華だった。


「あ、あのね、、尋奈辺くん…ごめんね急に話しかけて…」


彼女は申し訳なさそうにそう言ってきたがオレはただ早く家に帰って休みたくて走っていただけなので気にする必要はない。


さっきの部室内でショウが言ってくれた妹のお守りというのもその場をいち早く抜けるための口実だった訳だし。


「おう、別にいいよ、それよりどうしたの?」


「先週の金曜の朝、私達色々あったね」

 

「そ、そーだったな…」


それを聞いてバツが悪くつい棒読み気味で相槌を打ってしまう。


そして居ても立っても居られず勢いよくこう続けた。


「あの時は本当にごめんっ!目の前であんな暴力を働いて恐い思いさせて!」


言葉だけではなく誠意も込めて深々と頭を下げる。


すると目の前でそれを見ていた彼女は両手を小刻みに振ってあたふたしていた。


「ち、違うのっ別に謝ってほしくてこの話を振った訳じゃないの、だから頭を上げて」


意外な言葉にきょとんとした顔をしつつ前を向いた。


「私、殴られた後は頭の中真っ白で正直どうしたらいいのかわからなかったの、でも尋奈辺くんが来て助けてくれたから凄く感謝してるんだよ」


「助けたなんてそんな大層な事はしてない、オレがやった事といえば怒りに任せてひたすら殴っただけだし」


どんよりとしたトーンで話す様子を見て彼女は何故かニコっと笑みを浮かべた。


「尋奈辺くんは謙虚なんだね、通りがかったのが君でホントに良かった」


「そう言ってもらえると救われるけど」


こうして面と向かって話すのは始めてだけど朗らかな表情もできるんだなと新たな一面を発見して関心した。


すると頑和がそっぽを向いて言葉を紡いだ。


「それに私、嬉しかったんだ…あの時言ってくれた言葉が」


「そんな立派セリフ言ったっけ?」


「女の子に手出しするなんて最低だ!」


「うーん、全然覚えてないな先週起こった事だし…」


「女の子に手出しするなんてさ──」


「やめてくれっそんな熱くリピートされると流石にうる覚えでも恥ずかしいからっ!」


当時の熱弁を真似されて小っ恥ずかしくなったので急いでそれを制した。


彼女は焦っている姿を見てクスクスと笑っている。


暫くそんな他愛もないやり取りをしていると気づけば辺りは薄暗くなっていた。


「わり、そろっと帰らないとだ」


「そうだね、帰ろうか」


お互いの進路方向は逆なのでここでお別れだ。

 

「じゃまた」


「うん、またね」


別れの挨拶を終えて歩き始めて数歩の所で再び呼ばれた。


「尋奈辺くん!」


「うん?」


少々言いづらそうにしていたが思い切ってこう言ってきた。


「またピンチになったら助けに来てね!」


そう言うと屈託のない小動物のような笑顔で微笑み、手を振って帰って行った。


手を振り返して見送ったオレの心の中には今まで感じた事のない感覚がその時芽生えていた。

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