第39話 インターハイ前日
インターハイへ出場するにもまずは地区大会へエントリーしなければ話にならない。そこから二つの予選会を経て、やっと頂上決戦に加われるのだ。計4大会の気が遠くなるような競争率。俺にはもろ関係ないけど。
既に歴代高校記録3位の走力を持つ立場からすればインターハイ以外は前座にしかならない。タータンに横一列に並ぶ、号砲の乾いた音、目まぐるしく入れ替わる位置取り、ゴール。その全ての時間を合わせてもほんの一瞬の感覚に思えてしまう、それだけの余裕がある。
ひとまず腐りかけた陸上競技へのモチベは完全に回復し、地区大会当日、決勝が始まろうとしている。
「予選とはいえ16分台か、いくらなんでも遅すぎじゃ」
「もしかして調子よくないんじゃね?」
「可能性大だな!膝の辺りしきりにイジってたし、ケガ明けだなあれは!」
「アイツ抜いたらおれ達有名人じゃん!やったな!」
おひさま真っ盛りのお昼、競技場の対角線上にある内の第1ゲートにて5000mの招集が行われている。イベントテント内にはベンチが規則正しく置いてあり、選手はゼッケンをユニフォームに留めたり、レース用シューズに履き替えたりと忙しない。
そんな中でばか騒ぎする声がうるさく響いてくる。ああやって目立つことばかりしか考えていない浅はかな輩はいつだっている。俺のルーティンを故障の名残りだとか勝手に勘違いして、頭ぱんぱかぱーんだなほんと。
「さてウォーミングアップしますかー」
普段やってるジョグと同じかそれ以下のペースに我慢できず、ラスト1000mからギアを数段上げて後続をあっという間に引き剥がす。最後のラップは60秒、100mに換算すると15秒だ。
急激なスピード変化に、僅かの間、息切れするが全然余力を残していた。全選手がトラックを走り終えると、しばらくしてから得賞歌が流れ始める。そのBGMを聴くととレースの完走を強く実感した。
──その後に繋がる県大会、地方大会も順当に1位通過し、残すはトップに思い焦がれたあの頂上決戦のみ。そんな忘我に囚われそうなレースを明日に控えて、今日は最後のポイント練習だ。いつも通りの使い慣れた競技場に到着すると、早速2階のコンコースにてストレッチを開始する。
そう、なんと今年は地元開催でバスの移動も全くない。その点では地方大会が一番億劫だった。マイホーム万歳。
あらかた体を解し終わりウォームアップに取り掛かろうとすると、階段側の柵から一人の少女がこちらを凝視するのに気付く。こっちの視線を確認し、柵を両手で握って激しく揺らす。
その姿は愛くるしいが目は笑ってない。まるで某フリーゲームのブルーベリーの怪物のような佇まい。ここに不協和音を織り込んだBGMもあれば──伝われ。
「あのー麗亡さん?……もしもーし?」
「おひさっさーモアイ、ジャージ姿カッコいいね!」
「そりゃあどーも」
せめて褒めるときくらい、その再現度を緩めてくれ。洋館で怪物と鬼ごっこしてるみたいな気分になるじゃないか。




