第36話 負の連鎖加速
1週間の内に3人も生徒が命を落としている。これはあまりにも異常だ。まるで何かよからぬ力に引っ張られてるみたいな、そんな謎の影響力が存在すると疑いたくなる。
話す覚悟を決め、そばで不安そうな面持ちの妹に体をできる限り向かい合わせた。
「お兄ちゃん無理してたのかな?」
「それはないな、週明け絡んだけどいつものツッコミ健在だったし」
「上手く隠してたのかも」
「ないない、お兄さんはそんなに器用じゃないよ」
「馬鹿にしないでよ〜」
眉と口元を歪めて反論してくる。まるで馬の足に装着する蹄鉄みたいな口角だ、何気にすごいな。やや前のめりになる妹の額を宥めるようにやんわりと接する。
「してないよ、そういう丸見えな所がいいと思うし」
「絶対ウソ、言葉に悪意があるもん」
「ほらほら、そんなにしかめっ面ばっかりしてると近い将来、シワシワのお婆ちゃんになるぞ」
「むぅ〜麗亡は現在進行系でピチピチだよ!これからだってそう!」
「だったら笑顔を増やさないとな」
「仕方ないな〜じゃあもう1つ目標を付け加えるよ。男の子が好きな体に発育するとか!」
「健全な目標にしなさい」
シリアスな展開に中々なれない。この妹の砕けたエキスの10分の1でもナベチに分け与えていれば、もっと楽に生きられたのではないかと遅ればせながら思う。冗談はさておき。
月曜にナベチと生徒会長が屋上から飛び降り自殺、死亡推定時刻はほぼ同じらしい。どうにも心中っぽいんだよな。今はだいぶ自分の意思を表に出すようになったけど、昔のお人好しだった頃を思い出すとその説が濃厚な気がする。
あらかた死ぬ間際に「私、君となら死んでもいい」とかか弱いセリフでも吹き込まれたのかも。今でも頼られると弱そうだもんな。
生徒会長側も教室で意味深な視線を送ってたな。けど、決して近づけない。身近にナベチに想いを寄せる強敵がいるからね。恋が叶わないと悟って強行策に出たってところか。
そして今度はその恋敵が電気刺激機に接触して感電死した。ことの発端はとある生徒が自殺願望者を募ったらしい。改造された機器を4つ用意して、その中からくじ運感覚で死者を選んだとかなんとか。提案といい、行動といい病み過ぎだろ。
そんな惨事について一通り話し終えると、麗亡は不自然にキレのある動作でソファから立ち上がって「何か飲む?」と聞いてきた。なんでもいいと答えると足早に台所へ向かった。客にもてなしをしていないのに気づいたか、それとも気持ちの整理をするための時間を設けたのか、答えはそのくすんだ気配でバレバレ。
「大丈夫か?」
「うん、へーき」
「そっか……まあーなんだ…手伝えることもあるだろうから…困った時は言えよ」
「どうしたのモアイ?悪いゲテモノでも食べた?」
「俺が紳士になるのはそんなにおかしいか」
「かなりミスマッチかも、控えめに言って」
「へいへい、そーですかい」
イジケた声色を漏らすとピンクと青色のマグカップをそれぞれ持ってにっこりとする麗亡。慎重な足取りで隣めがけて持ってくる。口縁からはゆらゆらと湯気が漂い、密の甘く優しい香りが鼻腔をくすぐる。ダージリンだろうか?悪くない。
あとはテーブルに置いて座るだけの手順だったが──




