第30話 獣人のおやつ
辺り一面から眩さが去り、急激な負荷に当てられた目には残光の余韻が訪れた。
視界がハッキリしてくると目の前に異形の化物がいる事に気づく。
それは厳然とした佇まいでありながら、何故か寂しい目つきで見つめてきた。
ならず者であるからこそお宝奪取のために幾度と修羅場を潜ってきていたが、この非日常的な光景から潜在意識が語りかけてくる。
1つ行いを誤れば命はないと。
「バケモンだ…」
『グルルル……………………………………カエリタイ…』
「え?おまっ…今喋ったのか?」
『アッタカ…イ…ワガヤガ……マッテイルゥウ…』
「既聴感のある歌だな、この世界では聴けないヤツだ、転生人が確か口ずさんでたな…」
得体の知れない怪物との意思疎通を図る様子が耳に入り、拘束された手首と足を駆使して何とか真反対へ向こうと体を回転させるキハリ。
「な、なあ?お前さっきのガキだよな?」
『ガキィ…?ダレノコトダ?』
眠気に囚われているのか、大きな口を全開にして欠伸をする。
同時に刃物のような鋭い犬歯が顔を出した。
「あのよお…その頼もしい風貌を見込んで頼みたい事があんだけどよぉ…」
『ナンダ?』
「実はウチのボスから奴隷を探してくるついでに秘宝も見つけてこいと頼まれてんだ…」
『キョウリョクシロト?』
「そうさあ!なあいいだろぉ?もちろんタダでとは言わないからさあ」
尋奈辺を相手にしてた時とは全く違い胡麻を擂った態度だ。
体全体を2人のいる方へ向けた少女の目には既視感のある姿が映っていた。
「あれが魔王様が言ってた獣化…似てる…」
呆然と成り行きを見守る事しか出来ない。
禍々しい雰囲気に口出しするのは憚られた。
獣化は無属性のみが扱える自身の肉体に著しく依存した力。
魔法の方も第1〜10階位に至るまで身体強化等に関連した術構成になる。
階位をいくつまで取得できるかどうかは当人の才能次第だ。
「ボスによればこの洞窟の何処かに隠し階段があって、下っていくと世界の四気色秘宝の1つを宿した怪物が眠っているらしいんだよぉ〜
そいつをアンタにぶっ倒してもらいたくて〜」
『イマスグカエリタイ…トウサン…カアサン…レイナ……』
「えっと…俺の話聞いてる?…」
『ウルサイ…コレカラニホンへカエル』
「なんだとぅ?」
怪物は果てしなく奥へ続く闇を見て、歩き出す。
自らの協力提案をおざなりに否定された黒ローブ男は頭にきて、隙だらけの背中へ襲いかかった。
瞬きを挟むと何時の間にか顔が柔らかな感触に包まれている。
そしてそれ以上に激痛が側頭部に響いた。
「うぐう、なぶぅっ、ずうっ」
『ソウイエバハラガヘッタナ…』
頭を鷲掴みにした掌は小型の穴へ食料を運び、牙を立てて引き千切った。




