第28話 奴隷攫い
むくむくと太った黒ローブ服の男が目の前で目を輝かせている。
胸部の中心には円形のエンブレムが付けられている。
そこには獣に首輪が嵌められたデザインが印されていた。
「男の方はどうでもいい、女は中々イケるな」
下卑た笑みを浮かべて男は舐め回すようにキハリの全身を見る。
「あんた誰?」
聞くと男は目線をオレの方へ向けてノロノロと歩み寄ってきた。
「こりゃあー挨拶が遅れたな、俺様はスレパラダ団員のロワクラ=リファビってんだ。
よろしく……なぁっ!」
短い自己紹介が終わると同時に腹パンされた。
手加減なしの威力に思わず腹を抱えて膝を着く。
「くっ…」
「ナベチっ!」
「言ったよな、男はどーでもいいんだわ。
これから商品になるお前に喋る権利はない。
そしてそこの女もだ!」
指を指して満足そうにニタニタ笑っている。
と思ったら急に思案顔になった。
(容赦なく入れやがってクソ……今商品って言ったのか?もしかしてコイツ…)
「人攫いなのか?」
「正解と言いたいがそこに限定すんなやぁっ!」
「うっ…」
「やめてっ!」
腹の次は顎を躊躇なく蹴られた。
あまりの衝撃に脳が震え、仰向けに倒れる。
戦闘不能状態に陥ると標的が切り替えられた。
「男の癖に情けねえなー、それでも玉ちゃん付いてんのかぁ?
さてさてぇ〜ゲヒヒヒ、おんなぁ〜
商人に渡しちまう前に野外でたっぷり楽しんでやんよぉ〜」
打鍵するようなやらしい手付きで襲いかかろうとする。
無抵抗で捕まるわけもなく掌をローブ服の男へ向ける。
「アングマ・シャイン!」
地の利を利用した目眩ましかつダメージも与えられる攻撃、やったか?
視界が晴れると男は何食わぬ顔でチョップの構えをしていた。
「あん?なんですかいこれはぁ〜?新手の手揉みマッサージか何かかな〜?
ド素人みたいな手際だなぁ〜?どれ、優しいお兄さんが手本を見せてやろう〜なぁ?」
「や、やめろっ…!」
頭への響きはだいぶ治まったが思った以上に腹に受けたダメージが大きい。
通る声も出せない程に。
落ち着け、考えるんだ。岩人形を倒した時にキハリが言っていた事を思い出せ。
確か第1階位魔法はあのクソサイコ(魔王)と同じ属性だからイメージも同じでいい。
いや、それだけじゃ足りない。
ついさっき第1階位があの男に無意味だったのは目の前で証明されたばかりだろ。
これにもう1つプラスαで決め手になる力があれば……っ!…
そういえば魔王に連れてこられた荒野でカバみたいなモンスターを相手取った時。
一瞬だったけど目覚めたよな。




