第27話 温泉の香り
洞窟へ入ってから数十分は経っただろうか…
とりわけトラブルも無く平和に進行していた。
現時点でこれと言った特徴はないが強いて言うなら入口で見た蛍光色の岩肌が伽藍堂を丸ごと染めている。
そのため灯りを照らすと光が前後左右から反射して返ってくる。
「出力もうちょっと下げられないか」
「これ以上は無理、微調整しようとすると頭痛くなるから」
空洞内は当然ながら真っ暗。
ここでもキハリのダイバーシティスキルの1つが活躍している。
あと長ったらしいから今後「ダイスキ」と略させてもらう。
これ前も言ったような…
「あれっきりモンスターと鉢合わせしないな」
「そうね、さっきのミドールから素材もドロップしなかったし、黒潜石だけ集めてもね」
黒潜石とはモンスターの原動力となる核であり、魔力のレベルアップに欠かせない。
これは食べる事が可能だがそのままだと甘すぎてとても食えたものではない。
だから主にスイーツ作りに役立てられ、甘さ加減も自分好みに調節して食べやすくするらしい。
しばらく退屈して歩いていると開けた場所に出た。
ドーム型に空洞化していて解放的な空間になっているが依然変わった事は……ん?
地面から何やらにょろにょろとした煙が立ち籠めてくる。
1度意識し始めると匂いも敏感に。
前世で嗅いだことのある茹卵が腐ったような臭いがする。
「私この臭い嫌いなんだ、昔ナベチと温泉にい──」
「オレと?」
問いただすと慌てふためいて掌をパタパタと仰ぐキハリ。
「じゃなくて!ええっと、、、あっ!そうそう、温泉施設で鍋パした事したことあったなあって!?」
ジト目で見つめるとにこやかに見つめ返してくる。
どこかぎこちない笑顔だけど…まあいいっか。
「へえ!鍋パか、いいなー。久々にやってみてえな!」
話題が盛り上がる様を見てホッと胸を撫で下ろしたようだ。
それにしても鍋と名前間違われたのはアイツ以来だな。
元気にしてるかな、ホラー映画借りっぱなしだから怒ってるかもな。
懐かしい気分に浸っていると徐々に辺りが振動しだす。
どこからか騒音が響き、何かが近付いてくる。
「モンスターかな?この暴れっぷりからして結構ヤバそう」
「逃げた方がよくね?」
天井の岩が砕け飛び散り、砂塵が舞うと何かが目の前に現れた。
シルエットが晴れていき、正体が明らかになっていく。
どうやらモンスターではなく人のようだ。
「ふぅーやっと獲物を見つけたぜ、しかも2匹もいやがる。
これで食料4ヶ月半分は約束されたぜ!」




