第25話 肩叩きの虜
──拠点を出発して60分くらい経っただろうか、風景は変わり映えせず今の所は長閑な道のりになっている。
暖かい陽気に包まれた草原、柔らかな風に煽られてゆらゆらと揺れている。
深緑色の鮮やかな絨毯が寝心地良さそうで思わず飛び込んでしまいたくなる。
なんというか退屈だ、これでは前世で日課にしていた散歩とてんで差がない。
少々トラウマではあるけどモンスターにも出てきてもらわないと張り合いもない。
そんな気だるさに負けずに手元にある弁当箱の中身について聞いてみる。
「黙って見てたけどこれ団子?」
「そ」
「何団子?」
「団子は団子よ、もしかして名前にオリジナリティがあった方がよかった?
じゃあ……白団子で」
「どうでもよ過ぎだろ、聞きたいのはそういうことじゃなくて包餡した中には何が入ってるのかだ」
「何も入れてないよ、強いて言うなら愛かな」
ウィンクをし、指同士でハートマークを作りこちらを標的にアピールしてきた。
「1ミリもいらねえ」
「素っ気ないな、そんなんだと頑和ちゃんに愛想つかされるよ?」
拠点前でリフォームについて長々算段をつけていたのも影響し、もう昼も近い。
小腹が空いたな。
蓋を開けて5つ並んだ白団子から1つ摘んでパクつく。
ほんのりとした甘さと赤ちゃんのほっぺを突いたような弾力が舌上で踊る。
「問題ないさ、このぶっきらぼうさを含めて好きになってもらえたからな。
初めての告白シチュはさ、下駄箱に入った手紙から呼び出されて屋上で告られたんだ。
典型的な告られ展開だけどあの日を思い出す度に思う。
また、あの笑顔に触れたい」
頬をモゴモゴしながら儚げな笑みを携えて、歩く度に大きくなる真っ暗な大穴を見つめる。
「ふーん…でもそれも今だけよ……」
「ちょっとクセェなこの辺り。
ん?何か言ったか?」
「ううん、何でもないよ。
それよりも入口もうすぐだから用心して行きましょ、モンスターが岩陰に潜んでるかもしれないから」
足元には無数の砕石が転がっている。
一つひとつのサイズがあまりにも不均一だから砂利ではない。
つまり人為的に砕かれた物、生命が遠からず営みをしている可能性がある。
洞窟の目の前まで来ると尚一層際立つ岩肌、トラック400mを駆け抜けたくなる蛍光色。
ごめん、唐突な個人的陸上トークだ、シューズの色の好み。
「デケえな、エホーツリー丸ごと咥えられるくらいあるなこの洞長。
硫黄でも含んでんのか、壁もクセえのかな…
オッッ!?」
興味津々で岩壁に鼻をくっつけようとすると岩に鼻を摘まれた。
正確にはか細い岩が2本突起して挟まれている状況。
「どうしたのっ!?大丈夫??」
突然起きた奇妙な自然のイタズラは心配する瞳の中で鈍く等身大にまで膨らんでいく。
やがて顔面が形成され流暢に物申す。
「無断で触った、対価をよこせ」
「ふへぇ岩が喋った、鼻息が出来ねえ、何あげたら離してくれる?」
「ドロドロな披瀝」
「え?ドロドロなヒレ?鮮度の落ちた魚が好きなのか?物好きだな」
「ドロドロなヒィレェーキィー!!!」
ヒステリックに咆哮し片腕をぐるぐる回し、鼻をロックされて身動きが取れない体に襲いかかる。
「あがっ、ぐほっっ、うごっ、これはっ!」
「やめてぇー!待ってて今助けるから!!」
「ちょいタンマ!」
後ろ手に待てのジェスチャーをし、臨戦態勢のキハリを制する。
「やべえよ!すっげえ気持ちいい、これ!」
「は?」
「とんだハイテク肩叩き棒もあったもんだ!
我が家で愛用してた相棒もこれで御役御免だな!」
勉学で凝り固まった肩にダイレクトに強過ぎず弱過ぎずの刺激で安らぎに見舞われた。
「じゃ、ごゆっくりー」
呆れた様子で溜息を吐くと、襲われている仲間をスルーして洞窟の先へ進もうとする。
「行かないでくれ!頼む!あと10分でいいから!」




