第24話 リフォーム
ひとまず恋人(仮)の生存に希望の光が差したので部屋を出た。
扉の先には石材で加工された無機質なキッチン、そこに面したすぐ側に平坦な玄関がある。
床は丸石が一面に顔を覗かせて裸足に絶妙な塩梅で刺激をくれる。
「なあ、思ったんだけどさ…魔王放ってここに来て良かったの?ぶっちゃけヤバくね、お前アイツの執事なんだろ?」
動揺する事なくキッチンの前に立つキハリ。
ワークトップで何やら料理器具を準備しだし、白い粉と熱湯をボウルに投入する。
「いいの、路頭に迷ってた私を拾ってくれた恩はあるけどあなたが殺されかけた。
理由はそれだけで十分よ、それにあそこから離れた場所で暮らしてみたかったし」
「もしかしてあの短時間で恋しちゃったこのオレに?
んーーー困ったな、前にも言ったけど彼女がいるからその気持ちには答えら──」
「ちゃうわ!」
生粋の関西弁が跳ね返って来た、まさか寝ている間に大阪まで移動したのではないか?
だとしたらとんでもないガッツだ。
次は同化した白濁液を手で揉みほぐし始めた。
「元々、仕えてからあの人の残忍っぷりは何度も目撃してきた。
いずれは私にもその矛が向くんじゃないかって恐かった。
だから今回は丁度いい機会だったのよ」
「殺されかけた日をターニングポイントみたいに言うな」
マジでクソ痛かったからな、雑に手引っこ抜きやがってアイツ。
絶対許さん。
さっきまで液状だった物が形を成し、それを木のまな板上に置いて両手で細長く伸ばしていく。
「離れてると言ったけど具体的にどのくらい神殿とはあるんだ?」
「馬車並みの速度で1日ぶっ通しで走ったから100キロは到達してるかな」
「どういう脚力してるんだよ、化物か」
「エターソの説明の時に言ったでしょ、普段の生活で役立つ便利スキルを持ってるって。
光属性なら序盤で扱える魔法よ、ダイバーシティスキルね。
今回は移動手段が欲しくて転生者から聞いた話から自転車を創造したの」
「ああ、牽引するタイプのヤツか。
てか物を0から作れるのは凄えな」
この世界にガスコンロはなく薪ストーブを使い、鍋に湯を貼った中に10等分した真ん丸を投入していく。
ここまで工程が進めば流石に何の料理を作っているのか誰でも想像はつくだろう。
「創造できるサイズには制限があるけどね、
この料理器具も全部そう。
それで話を戻すと漕いでも漕いでも一帯は草原ばっかりだったけどぽつんと建ってるこのお家を発見したわけ。
それで外見を見て思ったんだ、リフォームしたいなって」
「住む気満々だな、さっきから調理してるそれはお出かけ用の間食なんだな」
「鋭いねコウ!そう、ここは全体的にボロいんだけど特に壁がスッカスカで風が入ってくるの。
東南の方角に洞窟があるみたいだからそこで材料調達しに行くの」
足で三三七拍子を刻みながら楽しげにしている。
真ん丸が浮き上がった所で別に用意していた冷水を入れたボウルにドパッとした。
もうほぼ完成だな。
「その洞窟に良質な骨材と結合剤が揃ってるのか?」
「うん、マドイーモンを倒せば手に入るよ」
また魔物と戦闘しないといけないのか、嫌だな。
そう辟易としていた手に真ん丸を詰め込んだ弁当箱が手渡され、背中を押されて出発を促される。
囲いから脱した視界は澄み渡る新緑に包まれた。
「拠点があると安心だしな、気合い入れて行くか!」