第21話 嫉妬の優等生
長方形の木机が2つ合わさっていて対面してなら6人は座れる場に2人、マイペースに食事を続けていた。
誘いがなければ滅多に食堂に脚を運ばないコウコは弁当を持参している。
しかもちゃんと朝早起きで手作りしていて、中身の具材にはどことなく春を感じさせる緑を貴重とした彩り。
春を告げる野鳥メジロをモチーフに胡瓜、ゆで卵、米、胡麻をバランス良く組み合わせた一品。
でももうちょっと肉系入れようよ、料理した事ない私が言うのもなんだけど。
あとこれはキャラ弁では無く鳥弁と言い張っている、具材に鶏肉が採用されていない以上、前者かな。
ちなみにさっき席取りをした際に私のマリン海鮮麺だけを買って、自分は何にも買わなかったみたいだ。
人の物だけ注文させて席まで持ってきてもらったとか罪悪感あるな、今度誘う時は私が奢るから許して欲しい。
何なら1番高いメニューでもいいし。
別にこれみよがしに本人から責められたわけではないけどね。
そんな風に他愛もない事を思いながらラーメン丼ごと持ち上げて豪快にスープを喉へ注ぎ込んでいく。
全てを飲み込み、丼を静かに下ろすとおしぼりで口周りを拭い、話し出した。
「私さ、ナベチは嵌められたと思うんだ」
と憶測で発言したら疑問を孕んだ目つきが向けられる。
「えっ、どういう事?自殺じゃないの?」
「違う、絶対に違うよ、彼の内面について知る由もないけど少なくともいくら辛かろうが自ら命を絶つほど愚かではないわ」
「そこまで言い切れる根拠はあるの?」
「病的なくらいお人好しなんだよね、地元のボランティア実行委員長推められたり、クラスメイトから宿題押し付けられたりしても嫌な顔一つしないで引き受けるの」
「そうだったっけ?やりたくない事はハッキリ言う人だと思ってたけど」
3分の1程中身が残された牛乳瓶を指でコツコツと突きながら話を続ける。
「今はそうだけど、前は…特に小学生まではその傾向が強くて当時よく呆れてたもん」
「例えば?」
「クラスにガキ大将的なポジションの子がいて再三イジメられててね、必ず1日に1回無茶振りを押し付けてくるの。
最初はそれこそ可愛いいたずら程度だったけどその内容は徐々にエスカレートしていって挙げ句には人殺しをさせようとしたわ」
そのショックな提案に少々蒼白した顔と何ら意味のない声を漏らすコウコ。
恐る恐る次の展開を訊ねてきた。
「まさか人…殺してないよね?…」
「……なんとか未遂で済ませた、放っといたら本気でやりかねなかったから私が止めた」
「嘘…」
「ホントよ、昔のナベチは良くも悪くも無垢だったの、人から必要とされる事にただ喜びを感じていた。
そのためなら躊躇いなく何でも熟しちゃうの、だから人生詰まないように私が独占して彼を必要とするようにした」
牛乳も一滴残らずラッパ飲みするとおぼんに乗せて立ち上がる。
「昔程ではないにしても人の本質はそう簡単に変えられるものではないから私は嵌められたと思ってる……器片してくるね…」
「うん…」
もうすぐ予鈴が鳴る危機感から現実に引き戻され、心が凍えていくのを実感する。
今更ベラベラと真相を解き明かした所で虚しいだけ、彼とはもう2度と会えないのだから。
そんな事はわかってる、じゃあこのモヤモヤした行き場のない感情をどうしたらいいの?
頑和…アンタさえ生きていれば問い詰めて聞き出せたのに。
ろくに生徒会も務まらない低スペックが私に内緒で何してくれちゃってんの?
ナベチは私が居なくちゃだめなの、ずっと一緒にいて支えてあげないと…………
支えたい……今すぐ……そうだ…そう……しよう…
弱々しく寂しい笑顔を携えて、生産性のない未来を企んだ。