第20話 唯一の親友
2人が自殺したその日、ナベチは部活動に姿を現さなかった。
教室内では用があると事前に話もなかったから部活動に行く最中に何かあったんじゃないかと
気が気でなかった。
本当なら抜け出して探しに行きたかったけど顧問の先生がそれを許可してくれない。
なら、部活が終わってからとも思ったけどその日はバイトで遅れる訳にはいかなかった。
そんな不運が重なった結果、彼を守れず永遠の別れになるとは。
──悲惨な事故が発生してから2日目。
4限を終えて只今昼休み突入、終わりを告げ るチャイムが鳴ると教科書等を机の引き出しにしまい立ち上がる。
1限から続く授業内容は耳から情報が侵入し、右から左へ流れるばかりで全然に頭に入ってこない。
そりゃそうだ、つい一昨日までこのクラスの生徒として共に勉学、部活動に励んでいたのだから。
そんな身近な存在が消えてしまっては動揺は計り知れない。
当たり前というのは奇跡の集まりだと、失ってから気付くのだから人間はこの上なく愚かだ。
喧嘩した後に一時の意地っ張りでもう2度と会って話したりが不可能になって一生後悔する人だっている。
今週の土曜にお家デートで彼と会う約束をしていた私も似たような感じ。
デートと意識してるのはこっちだけかもしれないけどいつか…、いや、高校卒業するまでにはこの心音の騒がしさの理由を彼に告白するつもりだった。
だけどもうそれは叶わなくなっちゃった。
君が居なくなったら将来とどう向き合っていけばいいの?
俯きながら自分の席の前で畑を守るカカシの如く佇んでいたら、1人の生徒が憂わしげな顔で急に手を握ってくる。
「へかち大丈夫?」
「うん…平気、あっそうだ!お腹空いたから食堂行かない?
今日弁当持ってきてなくて、新メニューのマリン海鮮麺食べようよ!」
心配してくれた彼女の名前は愛墜コウコ。
おかっぱ、身長145cm、部活動美術部、人見知り激しめで少し地味な女の子。
人を警戒し過ぎるあまり目つきが常に半開き、ジト目を無意識に他者へ向けてしまう。
でも気を許した相手にはモモンガみたく愛くるしい瞳なってしまう、可愛い。
女子で唯一の親友という事もあって私にもその表情で接してくれる。
将来は偉大な画家になり世にハシビロコウの良さを広めるのだとか、なんかマニアック。
──食堂室の引き戸の隣には自動販売機が4個設置してある。
缶ジュース専用2種、紙パック、ビン専用がそれぞれ1種類ずつだ。
値段もワンコインで買えるため学生の財布には優しい。
沢山バリエーションはあるが生憎、飲み物は毎度同じ王冠牛乳に決まっている。
だけど新たな境地を堪能したくて別の種類に手を伸ばそうともしたり、しなかったりで余計に時間がかかる。
牛乳ばかりを選ぶ理由は給食の名残とでも言っておこう。
取り出し口から冷え冷えのビンを取ると、コウコが場所取りしてくれている席まで急いだ。
引き戸を開けてから目を凝らして探すと1番奥の注文窓口側に座っていた。
てくてくと軽い足取りで歩いていく。
「お待たせ」
「ちょっと遅くない?もう冷めたかも」
「だって牛乳いっぱいあるんだもん、選ぶのに苦戦しちゃって」
「牛乳でそんなに味って違うの?」
「他のと比較して飲んだ事ないからよくわかんない」
「もうずっと同じのでいいじゃん」
「だーめなーのー」
左胸ポケットから秘密道具でも出してくれそうな濁音混じりの声で答えるとくすっと笑うコウコ。
会話をしつつ目の前にある出来立てから遠ざかったマリン海鮮麺に手をつける。
麺が伸びてしまわない内にと豪快にすすって牛乳で流し込んでいく。
その活発な仕草に頬を緩ませて子を見守る母のような視線を浴びている。
「でもちょっと安心した」
「ゔんっゔ?」
「元気なかったから、昨日通話してる時もほぼオウム返しだったし」
「ご、ごめんゔゴホッゴホッ」
「ほらちゃんとよく噛んで飲み込んでから話してってば」
「ゔっはぁ、ひっひっふーごめんね…どうしても信じられなくて口に出ちゃってたね…」
「いや、そんな妊婦さんみたいな呼吸の整え方してからシリアスになられても…」
やんわりと欲しい突っ込みをくれる、ホントいいコだな。
「ずっと授業中考えてたんだよね、どうしたらこの胸が締め付けられる寂しさから解放されるのかなって…」
「へかち…」
少し重い空気が流れて麺の喉越しが悪くなった。




