第2話 通りすがりパンチ
──1ヶ月前の中間テスト翌日、オレは寝相でベットから豪快に落ちた状態で堂々と寝坊をかましていた。
何せ昨日まで3 日間連続ブッ通しで徹夜してテスト勉強に勤しんでいたのだから。
けどまあ自業自得なんだけどね……普段から真面目に積み重ねて勉強に取り組むわけもなくその日のテンションで生きてるし。
友達にカラオケやら新シューズを選びに行きたいやらで誘われたりで(部活の後だから尚更)家に帰宅するのも当然遅くなるしな。
帰ってから勉強すればいい話だけどそんな気力は微塵もない、You Cube見て風呂入って寝る。
それが中学から一貫して身についた生活リズムだからそう簡単に変えられる訳もなく今日に至っちゃった。
登校時間のリミットが迫っていてもどこ吹く風で寝ているとベット上の本棚スペースに置いた目覚ましが甘い声で語りかけてきた。
``私の悩殺…ハ・厶♡``
「うぅ…はあぁー朝か……いま何時?」
欠伸をしながら時刻を確認すると焦りと共に一気に意識が覚醒した。
「はあっ!?何でアラームが7時40分に設定されてんだよっ!」
(常に7時ジャストでかけていた筈なのになぜだ?まさか弟の仕業か?)
そんな責任転嫁をやってる暇はなく急いで制服に着換えショルダーバッグを背負った。
居間のテーブルに置いてあったバターロールを口に三つほど咥えて家を飛び出し学校へ向う。
学校までの道のりは約3キロあって徒歩だと40分くらいかかり余裕で遅刻コースだ。
そんなのは勿論ごめんなのでここで部活の成果を見せる時がきたみたいだ。
部活動は陸上長距離部に所属していてそれなりに脚力には自信がある。
地区大会で入賞出来ないレベルだけど、、
無茶なペースで走り出したオレは曲がり角で人と衝突しないか細心の注意を払いながらスムーズな足運びで目的地へ向かう。
──校門から50m前までなんとか辿り着いたが極度の疲労感でもう走れず、激しく息切れしていた。
「はぁ…はぁ……なんとか5分前に間に合ったぞ…てかもうUターンしたい…」
ここまでノンステップで飛ばしてきたためYシャツの中は汗びっしょりで正直気持ち悪い。
それに体力も限界に近いし今日の授業一通りぐっすりタイムだろう。
そんな風に倦怠感たっぷりに思っていると校門前に立っている2人の人物が視界に入った。
1人は身長180cm前後の男子、目が釣り上がっていて、髪型は金髪オールバック、耳にはピーナッツをモチーフにした可愛らしいキャラのピアスをしている。
(ギャップ狙ってんのかな?てか絶対関わんねえ方がいいな)
そしてもう一人140cm代くらいで小柄な女子、髪型は黒髪ツインテール、あとなんか童顔でーつぶらな瞳でーめちゃこう…可愛い、控えめに言って付き合いた…コホンっとそんな場合じゃなかった。
そんな呑気な事を思いながら学校に行こうと近づいてみるとなんだか言い争っている声が聞こえてくる。
「あのさ〜いいじゃん別にピアスくらいしたってさ〜」
金髪ピーナッツピアス男が少しイラついた声でそう言った。
「だ、だからっ校則上…そ、それは違反に当たるので外してくください…」
黒髪ツインテの可愛い子ちゃんは怯えながら彼の校則違反に対してそう指摘した。
(こういう問題児の相手をするのも生徒会の仕事か、この子には気の毒だけど急がないとだからさ…じゃ……)
2人のやり取りを横目に校門を通り過ぎようとした瞬間バチッと何かを叩くような音が聞こえた。
まさかと思い後ろを振り返るとそこには尻餅をついて涙を浮かべている生徒会長とそれを気に食わない目つきで見下ろす不良の姿があった。
その刹那、オレの頭の中は灰色になり気づいたら不良を殴り飛ばしていた。
「おまえっ!今この子に何をしたっ!」
仰向けに倒れていた不良は立ち上がりニヤけた面でこっちを見てきた。
「……てぇな…いきなり何すんだよ、このアホ介、ソイツが外せだの違反だのうるせぇから粛清しただけだろうが」
まったく否を認めない態度が更に怒りに拍車をかけた。
「何すんだよはおまえの方だろっ?学校の基本ルールも守らないでわがまま通してよっ!その挙げ句に女の子に手出しするなんて最低だっ!」
軽蔑するようにそう言うとオレは不良男の所まで走りグーパンで倒し馬乗りの体勢で殴り始めた。
するとそれを見かねた生徒会長がすかさず止めに入る。
「それ以上はやめてっ!お願いっっ」
真正面で必死な表情で庇っている生徒会長を見てオレは我に返った。
「ご、ごめん」
理性を取り戻してからやっちまったと後悔し彼女の顔を見るのが気まずくなる。
殴り続けた不良は既にノサれていて、さっきまでの自らの奔放加減の反省とその場を逃げたい気持ちが溢れたから不良に肩を貸して保健室へ連れて行く事にした。
「オレが手出したからせめてコイツは責任持って保健室に連れて行くよ」
``ずさっ``
自分より背の高い人を支えながら持っていくのはそこそこしんどいが四の五の言わずにやるしかない。
今度こそ校内に入れると罪悪感たっぷりで歩みを始めた途端、背後から再び声をこけられた。
「……ラシ…」
正直、何て言われたのか良く聞こえなかったけど大体は予想は出来る。
語尾から推測するに恥晒し、荒らしとか?
(ま、何言われてもしょうがないと思うし言い訳する気力もないよ)
やけっぱちな気分でそう思いながらもう向き直る事はせず校門を後にした。