第18話 ブルーシートの悲劇
民家の周囲には中〜高木の常緑樹が視線に晒すまいと生い茂っている。
アスファルトを上機嫌でステップしていると前方に1台の車が走行してきた。
私とすれ違うまでもうすぐの距離。
大体70mに差し掛かった辺りで突然、野原から曇り一つない毛色の白猫が車道超えて向こうの空き地へ飛び出そうと駆けてくる。
「だめっ!そこで止まってっ!!」
途端に視界に入ってきたイレギュラーな生物に慌てて運転者はブレーキを踏む。
タイヤが地面を抉るように擦る音を響かせる。
「そんな…」
車体の前方にはさっきまで躍動していた猫が嘘のように横たわっていた。
何故朝からこんな不幸な光景を見なければいけないのだろう。
ウキウキを返してよ、ホント最悪。
ミニサイズのシャベルが丁度突き刺さっていたので拝借する。
放って置けず純白の体躯を抱え込むとすぐ側に
ある空き地へ埋めてきた。
穴掘りに地味に時間を取られたため急いで学校へ走り始める。
荷物を持ちながら強靭な体幹で地面を一歩一歩蹴り上げていく。
──持ち前のスピード持久力を発揮し校門まで辿り着いた。
校舎の3階中央に設置されている時計の時刻を確認すると7時50分だ。
「ちょっと汗かいちゃったな、あれ?なんか人が集まってるけど何かあったのかな」
校舎前には明らかにいつもと違う人集りが出来ていた。
何か嫌な胸騒ぎがする。
人の壁を掻き分けて前へ進んでいくと【立入禁止】の標識テープが張り巡らされている。
その奥にはブルーシートに包まれた何かが2つずつ置かれていた。
ここで犠牲者が出た、それは瞬時に理解したけど一体誰が。
そんな疑問に答えるが如く近くの生徒達の噂声が聞こえてきた。
「まさかこの学校から自殺者が出るなんてね、そんな素振りまったく見せなかったのに」
「案外そういうものかも、大丈夫そうに見えて1人で闇を抱えてたりさ」
「彼はもちろん可哀想だけど、クラスメイトで1番ショックを受けるのはたぶん日比さんだよね」
「うん、休み時間にもちょくちょく話しに席に行ったり、部活動中は特に恋人かってくらいの距離で接してたみたいだしね」
それを聞いた瞬間、一気に血の気が引いた。
体に力が入らなくなるのを感じたが気にせず自殺者の正体を仄めかしていた2人の生徒に問い詰める。
「ねえ、どうしてその人が死んだら私が困るの?」
「ひっ、日比さんっ!?」
「誰なの?」
「そ、それは……」
歯切れ悪くそれから先の言葉を紡ごうとしない様子に苛立つ。
「早く答えなさいよっ!」
「ひぃっ……」
「日比さん落ち着いて!」
「だったらささっと言いなさいよっ!」
そんな取り乱す姿に周囲の生徒も気付き始め、何かを察したかのように哀れみの視線を向ける。
収集がつかなくなりそうな所に背後から誰かが
肩に手を乗っけて宥めてきた。
「へいか、気持ちは分かるがとりあえず頭を冷やすんだ、辛いのはみんな一緒だからさ」
そこには同じ部活動でタメの懐鬼ショウが立っていた。
何もかも見透かしたような優しい目をしている。
正体が気になって仕方がない、ないはずなのにその穏やかな声に諭され平常心を取り戻す。
「じゃあ……教えてよ…ショウ」
躊躇しかけたが一呼吸置いて真剣な面持ちで口を開く。
「ナベチと頑和さんだ」