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魔王娘の護衛に配属された!??  作者: うなぎ昇再
第2章 仮初め魔王野郎
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第16話 嘘つき魔王野郎

地面から這い出てきた何かを中心に砂塵が辺り一帯に舞う中、見覚えのあるシルエットが視界に入る。


頭の上部にはクルミに酷似した小さな耳、眼はクリっとした青色、噂をすればだ。


突発的な突進に反応ができない刹那、一発喰らうと覚悟したが、目の前間近に迫った辺りで横合いから張りてをもらって無理矢理回避させられた。


うーん…ぶっ飛ばされた箇所の腕がクソ痛い、だけどまともに受けていたら間違いなく致命傷、下手したら死んでいたかもしれない。


命には変えられない以上贅沢は言ってられない。


「小僧、油断するな!相手は儂だけではない、この荒野に生息する野生のハーヒポにも意識を向けろ!」


お相撲さんさながらのポーズで静止しながら魔王がそう注意を促す。


「注意してたってあの速さじゃ躱しようがないだろ、戦闘未経験の素人に務まる訳ないだろ」


「ついさっきまで散々、拳を交わしあったじゃろ?甘えた事を言うでない」


「野生動物相手じゃ本気で殺しにかかってくるだろうが!死んだらどうすんだよ!」


「それが貴様の運命であるなら仕方あるまい、どうなろうと助太刀はせんぞ…」


「てぇ…てめぇ〜っ!!」


信じられねえ、初めて会った時は話すのに躊躇いはあったが、戦い方、寝床を与えてくれた親切心から悪いヤツじゃないと感じ始めてたのに。


あんたを見損なったよ、こうなったら何が何でもやるしかねえ。


攻撃が空回りし、体勢を崩していたハーヒポは数秒の間に臨戦態勢を取り、照準を再び合わせてきた。


目が合うと待ったなしでこちらに重低音を響かせながら向かってくる。


猛攻を回避するまで猶予は5m弱。


(冷静になれ、とりあえず虎のイメージを研ぎ澄ますんだ…きっと気持ちの問題なんだこれは…)


ちょびっと黒い耳にオレンジ色の体毛……残り約3m。


獲物を威圧する眼力、体中に映える黒い縞模様………残り約1m…キタ!!


あと少し手を伸ばされたら当たりそうな位置で全身からマリーゴールドの柔らかな光が溢れ出した。


フッと一瞬で眩さが去るとそこにいたのは人ではなかった。


黒髪アシンメトリー白メッシュ。


それは虎を人型に留めた異形な様相である。


「この漲るパワーはなんだ…今なら何でもやれそうな気がす…うっ…?!??」


今まで体感した事のない肉体の活性ぶりに高揚し、カウンターを狙おうとしたその時だった。


”ズシャアッ”


敵対していた標的とは別方向から鋭利な刃先が脇腹を抉る。


回転速度は竜巻を彷彿とさせ、凄まじい遠心力で現在地から遥か向こうへぶっ飛ばされた。


「ゴホッゴホッ…どうい…うつも…だ…?」


突然起こった悲劇に戸惑いながらもなんとか激痛に耐え、奇行を行った本人に問いただす。


「がっはっはっ惜しかったな、最後の最後に念願の獣人化を果たせたんじゃ、思い残す事はなかろう?」


「お前の…目的は何なんだ?おかげで頭はちんぷんかん…ぷんだ…」


「まず聞いておいて欲しい話があっての、貴様が血眼で探そうとしている娘はこの世にはおらんよ」


「は?どうい…う事だ…?」


魔王は突き刺した手先を脇腹から強引に引き抜き、血の噴水を作り上げた。


容赦のない醜行に意識という名の電池が切れそうになるが既の所を精神力で保つ。


「よろっと目がイッちゃいそうじゃから、死ぬ前に貴様史上最凶のお知らせをしてやろう!」


顔に付着した雨模様で鉄味の液体を汚らしく口の周りを舐め回す魔王。


「儂の昔話ぜーんぶウソぴょーん★この間抜けが!


本当に父の後を継いで魔族達を導いたと思うのか?


ごちゃごちゃいて目障りじゃったから皆殺しにしたわい。


今、ハイハー村に誰もいないのはそのせいじゃ。


魔族達を脅かす勇者が本当に実在したと思うか?


そんな人間いてたまるか、そのうえ天然高剛性のライリーフォードラゴンを倒して不老不死になるなどどう語ろうと絵空事じゃ。


神魔獣化競技大会はかつて確かにあった。


世に数人生まれるという稀有な天属性(奇矯属性)を発掘するために毎年開かれておった。


世の理では確か世界に3人は現れると言われていた。


その中で最も発現する可能性があったのは我ら魔族じゃ。


それを競う大会なのじゃがウチの娘とは無関係の話であった。


儂に似て無能だと確信し、すぐに首を絞め息の根を止めてあげたのじゃ。


どうだ、最高の救済措置じゃろ?」


魔王を今まで象徴していた厳格さは見る影もなく気色悪い佇まいで殺気を放っている。


(…………コイツは狂っている、それはまるでスキンケアに扱う保湿クリームの代わりにうんこを塗りたくって満足しているレベルだ)


「ちく、くしょ…」


瞼がゆっくりと幕を下ろし、侘びしい闇に閉ざされた。

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