第14話 生まれ変わり
イメージしたのはこんな愛くるしい動物じゃない。
たしかに…確かにだよ、同じネコ科ではあるけれどもそこにはかけ離れた迫力の差がある。
「なんじゃ、ひ弱そうな姿じゃの」
等身大の姿見を片手でこちらへ向けて支える魔王がニヤニヤした。
「全然イメージしたのと違うんだが」
「体現する力が足りんのじゃ、それを補うにはやはり魔力量の増加が不可欠なようじゃ」
「どうすれば増やせる?」
「なーにそのために儂がおるのじゃ、では構えよ」
まずは実力を確認するべく組み手をやるらしい。
戦闘の心得とか素人の尋奈辺さんにはわからないが、まあまずは経験だよな。
とよれよれのフォームで構え、互いの視線が衝突に備え集中力を増す。
「ゆくぞ!」
「こい!」
「問題っ!とある魔族が別の魔族と仲が良かったです。
暫くすると一方はもう一人を意識してしょうがなくなります。
これは何という現象でしょう?」
「そんなの簡単だろ、答えは……っては?」
何を言ってるんだこのおっさんはふざけているのか?
これから拳やらで力を測るんじゃないのか、ふざけるな一刻も早く頑和を探さなくちゃいけないのに。
「なんじゃ?解らぬか」
「なんじゃはこっちのセリフだ、あんたはオレに戦い方を教えてくれるんじゃないのか?」
怪訝な様子で問い詰めると魔王は悪魔らしい闇に塗れた顔で嘲笑する。
首の周辺の筋肉をほぐすように回し、話始める。
「訓練とは戦闘についてではない、もちろん魔力増加のためでもない、この世界を生きていく上で役立つ雑学じゃ」
「そんなものは冒険をしていく中で幾らでも身につくものだろ」
「どうじゃろな?1人の主観で得られる知識は限られるのではないかの」
「いいからさっさっと教えろっ!」
イライラの沸点が最高潮になり思わず対象に飛びかかる。
拳による打撃を軽々受け流され、2人の肉弾戦が幕を開けた。
「恋だっ!答えは恋!」
「正解!なんじゃ答える気になったのかの」
「問答が鬱陶しいから答えただけだ、これで戦いに力を割ける」
「何を言っとる、クイズはこれからじゃよ」
「ぬかせっ!」
語気と共に打撃の重さに拍車がかかっていく。
それから問題を数十問出され続け攻防を繰り広げながら正解していく。
だけど何故だろう、時間が経てば経つほど体の隅々からパワーが溢れてくるような気がする。
そして問題数は大台へ突入。
「問題100、儂の娘の好きな生き物は何でしょう?」
それは今までとは明らかに違い、異彩を放った問いだった。
「そんな個人的な情報知るわけがないだろ」
「貴様と関連のある事なのだがな」
「何だと?」
関連がある?まだこっち来て間もないのに魔王一家の詳細など皆目検討もつくはずがない。
それでも情報源を無理矢理漁るなら噴水の前で口にした勇者を道連れにした息子の昔話にヒントがあるのではないか。
クラス内では決して脚光を浴びることの無かったド平凡脳を今まで以上に働かせる。
とはいうものの昔話の大半は勇者に生活を脅かされそうになり、魔王一家とどんちゃん騒ぎしてるしか印象がないんだが。
そういえば、娘もいたか。
へんな愛称で呼ばれてたよな、確かシィールちゃん……ん?
そこで何かが引っかかった。
シィールってどこかで聞いた事あるんだよな。
自分に関係があるという魔王のヒントを頼りに前世での死ぬ間際辺りの記憶も辿る。
「どうした動きが鈍いぞ、降参の言い訳でも考えておるのか」
「うっせえっ!」
あくまでも転生されたこの世界でも前世の性別が受け継がれているという仮定を軸にした憶測だが後もう少しで何か掴めそうだ。
悪戦苦闘をしていると少し横でキハリが何かへんな動作を取っていた。
「ヒントよ、よく目に焼きつけなさい!」
脚をくっつけて手をまるでヒレのようにバタバタと揺らしている。
というか今、寝間着を着ているの忘れてないか。
大変目のやり場に困って仕方がない。
(協力してくれるのは嬉しいが別のモノも揺れ…コホンっ…とりあえずおかげでわかったぜ)
「答えはアザラシだ!」
休みなく可動していた体を静止し堂々と解答した。
「正解じゃ、やっと気づいたようじゃの。
がっはっはっ!!」
キハリのヒントが決定打になったが答えに辿り着くのは時間の問題だった。
それは不良を始めて殴った日に頑和が放った言葉。
あの時ははっきりは聞こえなかったが後に本人に聞いてみたらその動物が好きなのだと教えてくれた。
殴るオレの姿がまるでアザラシがショーで華麗にパフォーマンスするように見えたかららしい。
愚行の例えにされたアザラシには申し訳なく思う、これは頑和の言った言葉だけど。
「じゃあつまり魔王、あんたの娘は頑和の生まれ変わりなのか?」
衝撃の事実が明らかになろうとしていた。