第13話 無防備
昨日、寝室に案内されてから電源が切れるように瞼を閉じて、ぐっすり眠ることが出来た。
マットレスはマシュマロのように柔らかく、毛布は肌触りの良い羽毛が表面に編み込まれた珍しい物だった。
寝ていたベッドはセミダブルくらいで2人でも少しだけ間隔を開ければ入れるスペース。
そんな展開を羨まないわけないがこれからの人生でそれ実現するのは無理なんだろうなと悲壮感に駆られる。
目を擦って視界がハッキリしてくると目の前にとんでもない光景が飛び込んできた。
それは何故かこちらへ顔を向けてすやすや寝ている家政婦キハリがいたからだ。
横寝をしている彼女の黒レースの寝間着から2つの穏やかな放物線を描いたお山が無防備に晒されている。
おまけに背筋が曲がってこっちへ見せつけているような体勢のためあまりにも無防備過ぎる。
「なっっ、何で一緒に寝てんだよっ!」
朝一番の刺激の強さに耐えかねて思わず本日の第一声を上げていた。
その声に釣られてグッと背伸びをして目を覚ます。
「むにゃむにゃ〜そんな慌てちゃってどうしたのー?」
「どうしたもこうしたもないだろ、なんだその露出の多い寝間着は!?」
「ふふ、大人っぽいでしょ」
「知るか!で、何で一緒のベッドにいるんだよ」
「いい抱き枕が視界に入ったから、つい?」
「ふざけるな、自分の部屋へ帰れ」
通常の男ならキャッキャする場面だろうが今はそんな気分ではない。
昨日の夜、神殿広場で聞かされた自分以外もこの世界へ転生している可能性について早く確認したい。
足を伸ばしてベッドから降りようとすると頭を両手で捕まれ強引に顔の方へ持っていかれた。
さっきの能天気な雰囲気とは打って変わって
神妙な面持ちで話し出す。
「ホントはさ、切羽詰ってそうだから一緒
にいてあげたの…お礼は?」
「聞こえなかったか、帰れ」
ムスッとしたキハリにまともに取り合わず、掴まれた顔を優しく振り解き、1階へ向かった。
辿り着くと魔王が玉座の前に四つん這いでよちよち歩いている。
(昨日の今日で一体何が?…)
啞然と静観しているとこちらの視線に気づく。
「目覚めたか小僧よ、いい朝だなー、こんな一時にはパステケイクを朝食で頂きたいものだ」
またまた専門用語か、、、パスて…ケーく?
パステケイクとは乾燥栽培で育つライケイクという緑色のギザギザとした実が特徴の穀物から作れる料理の事である。
完成品はモチモチとした白く粘り気のあるモノの上にカラフルな甘く香ばしいソースをかけた感じだ。
しかし残念ながら3人の中で料理を振る舞える者はいなかったのでそこら辺のわけわからん雑草で空腹を凌いだ。
腹も膨れた所でさっそく訓練開始。
さっきは幼児退行でも辿ってるのかと肝を冷やしたが四つん這いスタイルがどうやら属性の基礎中の構えらしい。
これは無属性基本のだけど。
「まずはこの体勢をキープして己が1番強いと思う生き物をイメージするんじゃ」
3m離れた位置から魔王のポーズを真似して目を閉じ集中する。
前世では動物にとりわけ興味があったわけではないがとある個性に関心したヤツならいた。
それは……
「にゃ〜ん!」
ちょこんと頭上に生えた耳、手にはぷにぷにした質感の肉球、暗闇で光る瞳、マタタビを与えればゴロゴロと喉を鳴らす。
そして念願の猫になれ──
「ってちがーーうっ!!」