第10話 神殿専属メイド
──逢魔が時になったので今日はひとまず魔王の根城にしている神殿へ連れてこられた。
斜路を歩くと逞しい柱身が建物の骨組みとしての役割を果たしている。
すぐ奥にある柱身から人2人分の間隔があり、真正面には一見入口に見えないが隠しの回転式扉があった。
室内へ入るべく、身長測定の如く背筋をピーンと伸ばして壁に引っつく。
(、、、、うーん作動しない、老朽化もかなり進んでそうな建築物だしな、ここへきて故障したのか?……。)
「なあ、このドアのガタきてんじゃ──」
言葉を言い切る前に扉が突然、轟然たる音を響かせながら動き始めた。
これまた何とも微妙なタイミングで。
危うく回転の際に指の1、2本無くす所だった。
安全面について物申したかったがすぐに注目は別の視点に移った。
室内に視界が切り変わるとそこには殺風景な空間が広がっていた。
床は白黒の大理石のような物が嵌められていて奥には周囲の雰囲気から浮き気味の豪勢な椅子がポツンと置かれている。
笠木と座枠にはそれぞれ赤黒色のクッション、肘掛けから束にかけては長骨を繋ぎ合わせたような仕様だ。
まさに魔王専用の椅子と言わんばかりの特異さ。
そこへ向かって数10m程歩いた所で突然魔王が高らかに笑い出した。
「がっはっはっはっ!!!」
「え、?なに急に!?」
「これより貴様の心に問う、好きなおなごはいるか?」
「何だよそれ…まあいるよ、正確にはいただけど」
「ほうほう、貴様も恋する乙女であったか」
「乙女じゃねえ野郎だ、勝手に性転換しないでくれ」
「こりゃあすまんのう、じゃあその想いがどれ程のモノか見定めてもらおう」
「どうやって?だって頑…彼女はもう転生前の世界で死んでるんだ…オレの気持ちは冷めてるさ」
「死んだらもうどうでもいいの?それって冷たいんじゃない?」
「わっっ!?」
背後から不意打ちに声をかけられ思わず驚き、後ろを見てみるとそこには1人の少女が立っていた。
大きな琥珀色の瞳に金髪頭部には螺旋状に生えた角、そしてサイバーメイド服を着用している。
「いきなり声掛けてごめんね!私はこの神殿で家政婦をやってるキハリって言うの、よろしくね!」
「よ、よろしく…」
身長はオレより20cmくらい小さくて発する声の端々には元気が溢れていた。
「いきなりだけど3つの質問からあなたの恋に対する想いの強さを測らせてもらうわ、よろし?」
「お、おう」
「本音を聞き出すにはまず、私があなたの意中の人にならないとね」
「そんな事できるわけ──」
すると彼女の体が青白く燃え始め、みるみる別の容姿に変化した。
それは短期間であったが確かにオレの心を鷲掴みにしていた唯一のクラスメイトの姿であった。
「かたく…な?」
「ふーん、これが君の好きなコか、なんだか素朴だね」
奇跡の再会を果たせたかと思った刹那、口角が緩みかけたがそれはぬか喜びに終わる。
「がっかりした?でも悪く思わないでね、これはどうしても外せない工程だから」
「いいさ、それよりも早く始めてくれ」
それから家政婦少女との問答が始まった。