白虎の使者
「うわぁ!!凄い!凄いよ兄ちゃんー!」
「落ち着け」
「うわぁ」
コロシアムに入ってまず感じたのは、熱気。
どこを見ても客はみなコロシアムの中の選手に目を向けており、確かに私を見る人はいない。
選手は遠いが、それでも戦う姿、その迫力がよく伝わる。
「すごい…」
「お、ティグル様がでてくるな」
「わっ、剣!剣を持ってます!」
「ティグル様は剣士なんだから、剣は持つだろ…」
呆れたような声を向けられるが、意識はもうコロシアムの中に向けられている。
コロシアムの中で繰り広げられる激しい戦いに勝敗がつき、二人の選手は会場を後にする。そして向かって左側の奥からキラキラと反射する白銀の髪を揺らして、ティグルが現れた。右奥から現れた相手はバルバードと呼ばれる戦斧のような武器を持ち、細長い剣を腰に刺したティグルと向き合う。
戦闘開始の声を皮切りに、向き合っていた二人の姿が消える。瞬く間に武器をぶつけ合った音が大きく響いて、火花が散った。息をするのも憚られるほど激しい戦闘に、目が離せない。
「お前、ティグル様とはどんな関係なんだ?」
暫く繰り返される剣撃に目を奪われたままでいると、ラオが小さな声で話しかけてきた。
「どんなって…、入学式に会っただけ」
「へぇ、それだけ…。じゃあたまたまってことか?お前、『使者』のティグル様と話が出来たなんて幸運だな」
「使者…?使者って何ですか?」
「な、お前そんなことも知らなかったのか?!」
信じられないとでもいうような声を上げて、勢いよくラオがこちらを向く気配がする。それに応えるように顔をあげると、恐る恐るといったようにラオが口を開いた。
「じゃあ、あの方が何者かも知らないで話を…?」
「はい。名前も知らなかったし、そういえば学年も知らないなぁ」
「嘘だろ…。どんなど田舎にいれば、そんな…」
「…もしかして、ティグル…さまは、有名な人なのですか?」
「ああ。大陸で、いやこの世界で生きる者ならみんな知っているはずだ」
「へぇー」
そんなことを言われても知らないものは知らない。気の抜けた返事に呆れたように息を吐いてから、ラオは静かに口を開いた。
「ティグル・バートン様は、『白虎の使者』だ。この世界を護り導いて下さる三柱の神々の一柱、白虎様の魂廻者なんだ」
「魂廻…、死んでもなお魂は消滅せず、新たな肉体に宿り廻り続けるっていうあれですか?」
「そうだ。魂廻については流石に知っていたようだな」
「でも、本で読んだだけで…魂廻はただの思想に過ぎないと思っていました…。なぜ、彼に魂廻が起きていると分かるのですか?」
「ティグル様の、瞳は見たか?」
「瞳…」
彼と出会ったときを思い出す。陽の光を浴びた白銀の髪と、陰になっても輝き続けた惹き寄せられるあの瞳。あの瞳の色は…
「金…、金色でした。どんな暗いところにいても、光を放つような美しい…」
「そうだ。輝き続ける金の瞳。それが、神の魂の廻りを受けた者の証だと言われている」
「神の魂…」
「魂の廻りというものは、誰にでも等しく起きている。だが、神の魂は違う。その金の瞳という証をもって、神から国を導く使命も与えられているんだ」
「そんな…。じゃあ、金の瞳を持つ人が一度に何人も出て来たりしたらどうなるんですか?その人たち全てがみんなで国を導く『使者』となるのですか?」
「そうだな…。使者は、多くて三人までしか生まれない。各大陸に一人ずつだ。例外が起きたことは、歴史書を見る限り一度もないらしい」
「そうなんですね…」
「そもそも神は三柱だからな。金の瞳は、神の魂を持つ者にしか宿らないんだよ」
魂廻。使者。
初めて知ることばかりだ。ティグルは神の魂を持つからあんなに綺麗で、こんなにも目を奪われてしまうのだろうか。
コロシアムでひらりとジャケットが舞って、強い斬撃を放つティグルを見つめる。
白銀の髪、金色の瞳、そして剣の腕前。彼の持つ要素は、神話として語り継がれている「白虎」と同じ特徴である。
隣に並ぶラオの髪も白銀と似ているが、ティグルと比べると灰色がかった色合いだ。
また、彼と会いたいと思っていた。話をしてみたいと。
けれど、彼について知れば知るほど遠ざかっていくようだった。
コロシアムで戦う彼からゆっくりと目を離して、背中を向ける。
「もういいのか?」
「はい。そろそろ戻って、勉強しなきゃ」
「…そうか。教えるの、今日は無理だが放課後は基本的にいつも空いている。大体図書館の今日居たところにいるから、好きな時に来てみろ」
「分かりました。宜しくお願いします!」
「あぁ。またな」
「はい!また!」
新しい言葉が出て来ました〜
魂廻はオリジナルの言葉です。