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四神物語  作者: かの
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試験


 入学して二週間がたった。

 正直に言おう。まったく授業が分からない。ラオと話してから、毎日早起きをして問題を解いて、授業を受け、夜更かしをして教科書を読んでいるが、まるで授業に追いつける気配がない。

 森に住んでいた時は、よく古い本をおばあさまに教えてもらいながら読んでいたから古語はわかるけれど、それ以外がまったく分からない。

 論述、政治学、神学、歴史学、数学、物理学と、今まで全くと言っていいほど触れてこなかった学問にどれから手をつければいいのかも正直分かっていない。ただがむしゃらに目についた科目の教科書を読み漁っているだけだ。特に数学は基本的な計算は出来るが、公式なるものがページの序盤で書かれているのを見てからは言い知れない恐怖を感じるようになっている。

 それでも、分からないなんて泣き言は言ってられない。私にはそんな時間などないのだ。

 ニ週間後、入学してからちょうど一か月が経つ頃に実力を測るための試験が行われる。


 白花を目指すうえで、試験はとても重要なものだ。

 特に普通科の生徒にとっては、武術科や技術科と比べて成果を出せる機会が限られているため、学業の成果を表せる試験はアピールのチャンスなのだ。

 …とはいっても、毎試験ゴールドが上位者に与えられる訳ではない。規定によるとゴールドは学年末に行われる試験で一位になると一つ貰うことができるのだという。

 つまり、今回の試験の結果で良い結果を出したとしても審査に影響はされないが、それでも白花を目指すなら上位を狙っていかなくてはいけないだろう。


「よし、やるぞ、やるぞ!」


 これまでこんなに筆を握ったことはなかった。筆が赤く膨らんだタコが当たって痛みが走り眉を寄せる。

 私は成果を出さないといけない。

 ここに私を導いてくれたジェラフ先生のためにも、私がこの学校に通い続けるためにも!

 頑張ります!先生、母さま、おばあさま!






「うそだ…」

 二週間と1日後の朝、廊下に大きく張り出された髪の前で崩れそうになる体を自分でなんとか立て直す。

 血の気がひいて、顔が青ざめる感覚がする。

 コソコソとそこかしこで噂話が聞こえてくる。


「さ、最下位…?」

 あんなにやったのに…。なんとか一通り主要科目は目を通して理解よりも丸暗記にかけた。順位は低いだろうとは思っていたが、まさか本当に最下位になるなんて…。

 寝不足で吐きそうだし、ショックも相まって目眩がする。


「1位、ラオ・デニー…?」

 ラオって、あの、嫌な笑い方をするあの子もそうだ。姓は知らないけど、何となくあの子だという確信があった。


「ま、こんなもんか」

 右前の方から、男の子にしては少し高い声が聞こえた。


「ラオ凄いなぁ、何点だったんだ?」

「ん、古語だけ凡ミスして98だったな」

「え、それ以外満点なのか?!まじか!」


 やっぱりあのラオが一位なのだ。古語だけ、98?敢えて他の科目に言及しないのは全て満点だと、そういうことなのか。すごい…


「はっ、基礎中の基礎みたいな問題ばっかだったしな。あんなアホみたいなテストで最下位になれる方が凄いんじゃねぇか?」

 わぁー、すごい刺さってる。彼の言葉が私の心にグサグサと突き刺さっている。絶対に私がここにいることを分かって言っているのだろうか…分かっているんだろうな…。


 拳をぐっと握りしめる。

 すごく悔しい。白花がどう、とかじゃなくて、それ以前の問題だ。自分の足りなさがこうして目に見えると、苦しいけれど本当によく分かる。

 

 足音を立てないようにして顔を伏せて教室へと戻る。

 席について、教材の準備をしてからノートにこれからの勉強の計画を練り直す。もっと、もっとやらないと。

 頭の中は成績のことで一杯だった。だから、先生が教室に入ってきたことにも気づかなかった。

 下を向いて暫くすると、クラスが突然わっと騒がしい声をあげたので、眉を寄せて顔を上げる。


「武術…祭?」


 目に飛び込んできたのは、黒板に書かれたその文字。

 なんだろう…、はしゃぐクラスメイトたちを見ていると、先生が大きく手を叩いた。


「はい、皆さん落ち着きなさい。知らない人はいないと思いますが、武術祭は武術科がメインとなるトーナメント式の格闘大会です。技術科は設営を担当しますが、我々普通科はこの日は休みです。間違えて教室に来ることがないように。出店が開かれますが、そこへ行くのは自由です。ただし、大会を座席で見学したい人は申請が必要なのでこの後私の元に来るように。以上」


 先生が厳しい声で必要なことを告げると、ガタガタと席を立つ音が響いて殆ど全員が先生の元に集まり始めた。

 ここまでの流れが早すぎてよく分からなかったが、クラスメイトたちが話している内容を聞くにどうやら武術祭はこの学校の名物行事らしく、大陸中から見物客が集まってくるビッグイベントなのだという。

 戦いを見て何がそんなに楽しいのだろうか。

 状況を理解してもいまいち納得は出来ず、その日は丸一日勉強だなとノートに日付をメモする。


 ふと、あの白銀の髪の彼が剣を腰にさしていたことを思い出す。

 もし武術科なのだとしたら、武術祭に出場するのだろうか。

 ぼんやりと考えて、まぁ自分には関係ないことだと首を振った。






入学してから一か月が経ちました!

授業もはじまっていますが、実はある授業だけまだ始まっていません…。

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