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四神物語  作者: かの
5/19

クラス



 ウェスタリア王国王立学校は、王国が建国された年から存在する歴史ある学園で、貴族や平民全ての国民の入学を歓迎する三年制・全寮制の学術機関である。

 学科は三つで、学問一般を学ぶ普通科、剣などの武術を学ぶ武術科、専門的な技能を学ぶ技術科に分かれている。どの科も学年ごとに1クラス50人の2クラス編成であり、入学にはかなり厳しい試験が課せられる。

 そして狭い門であるためか、規定の年齢の全国民に入学資格はあるものの試験を突破できるのは殆どが幼い頃から教養を詰め込まれてきた貴族である。それでも今年は例年よりも平民が多く入学をしたようで、今年度の普通科の貴族と平民の比率は、9:1だそうだ。


 入学式のあと、校舎の案内と寮の案内をされた。

 寮はなんと個室で、今まで見たこともないくらい綺麗に整備された清潔感のある部屋だった。


 そして、1日休みを挟んで今日は初授業の日である。

 恐らく迷うことはないが、少し早く出て散歩がてら少し見て回ってから教室に向かおうと思う。


 部屋を出て鍵を閉めて、黒い革靴を軽く鳴らす。

 さすがは王の支援の元に創られた大陸最高峰の学術機関というべきか、設備が全て最新の物になっている。

 学園の校舎は本校舎の他に第一、第二校舎があり、基本的に専攻する科ごとに校舎が分けられている。私が籍を置くことになった普通科は本校舎、剣術科は第ニ校舎、技術科は第三校舎に教室があり基本的にはそこで授業を受けるが、授業によっては校舎を移動することがあるという。

 それぞれの校舎は大きなグラウンドを囲うように建っていて、本校舎の裏には剣術科のためのコロシアムも設置されている。案内されたときにも思ったが、本当に大きな学校だ。

 ザッと見て、人通りが少ない経路を覚える。

 あまりゆっくりしすぎてもまた遅刻ギリギリになってしまうので、都会的な雰囲気を感じる石造りの道を歩いて本校舎に向かう。

 風がそよいで気持ち良さに目を細めると、森の中にいるときとは違う風の香りに、ここがどこか別の世界のように感じる。同じ大陸で生きていたのに、どうして生活も人も風でさえもこんなに違うのか。


「これから、なんだなぁ」


 声になる前の息が空に溶けて、足音が響いた。



**


『普通科1年A組』

 私のクラスだ。生徒数は51名。なぜこんなに中途半端なのかというと、受験が終わって合格者ももう決まっていた中途半端な時期にジェラフ先生が無理やり私の推薦入学をねじ込んだからだ。

 席に座って、担任の先生を待つ。クラスメイト達は打ち解け始めてきたのか、お喋りをする声が聞こえる。

 周りは着実に友達ができ始めているようだが、私は不思議なことに誰とも目が合わない。

 友達は今までもできたことがなかったし別に居なくてもいいか…と思っていると、廊下に揺れる銀色の髪が目に入った。

 …そういえば、あの時彼の名前を聞きそびれてしまっている。

 まだ先生が来るまで時間があるし、お手洗いがてら挨拶に行こう。

 廊下に出ると、一人で歩く銀色の髪の男の後ろ姿が見えた。


「あ、あの」

「ん、…っお前…!」

「あ」


 思ったより緊張して少しどもってしまったけれど、勇気を出して話しかけた。

 しかし、振り返った顔は金色の眼を持つ彼のものとは違っていた。


 …人違いだ。



「お前、俺に声をかけたのか?」

「はい…、でもすみません人違いでした」

「…はっ、お前みたいな黒髪が誰に話しかけるってんだよ」

「…それは、どういうことですか?」

「身の程知らずって言ってんだよ」


 そう変わらない身長なのに妙に威圧感の強い態度でにやりと笑う彼に言葉が出ない。

 なんなんだこの人は。凄くストレートに嫌ってくる。嫌な笑い方だ。

 クラスのみんなは聞こえるように噂はしても、私に話しかけてくる人はいなかった。私と話すことも嫌なのだろうということは分かっていたけど、誰とも喋らないことは寂しくもあった。しかし、しかしだ。いざ面と向かって話して悪口を言われると、噂とはまた違う心に刺さるものがある。


「お前、その黒髪。ジェラフ先生の特別推薦なんだろ」


 腕を組んで見下ろすように向けられた視線が身体を貫く。小さく頷くと、その目は更に鋭くなったように感じて萎縮してしまう。


「俺はお前を認めねぇ。必死で勉強してきた俺たちと、間違っても肩を並べられるなんて思うんじゃねぇよ」

「…それは」

「忌々しい黒髪。実力なんてない無能。お前、この学園に来ることを軽く考えてんじゃねぇのか」

「それは違います!」

「は、どうだか。その不吉な髪を憐んでチャンスをくれた、お優しい先生に出会えてよかったな」


 私より少し目線が高い少年は、憎々しげに睨みながら鋭い言葉を突きつける。

 これほどまでに純粋な悪意を正面から浴びたことはあっただろうか。言葉は乱暴だけど、この少年が言うことはそのほとんどが正しいものだ。それが分かって、酷く恥ずかしくて悔しい。


「ふん。まぁ、いいや。俺にもう声なんかかけるなよ。間違ってもな!」


 くるりと背を向けて、少年は隣の教室に入って行った。

 おー遅かったなラオ、という声が聞こえ、彼の名はラオだと知る。

 ラオ…。彼の言った言葉が深く胸にささった。

 学校に来ることを軽く考えてなんかいない。けど、急な入学が決まりバタバタしていたからとはいえ、ろくに教科書も読めずに今私はここにいる。

 白花を目指してここに来た。けど、何処かでまだ甘く考えていた部分があったのかもしれない。

 先生が「なれる」と言ってくれた、あの言葉に甘えていた自分を見つけてしまった気がして凄く恥ずかしかった。





ラオくんはすごい努力家です。

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