9
なんとなく立ち寄ったCDショップで視聴していたら、肩を叩かれた。
振り返ると、そこには黒髪を金髪に変えた小野塚が立っていた。
「よっ!」
なんて手を上げる彼女に驚きながらも、懐かしさを覚える。
「最近どうよ。」
当然のように話し出す彼女はあの頃と変わらない。
最後に話したのはどれくらい前だっただろうか・・・・・・
「まぁ、ぼちぼちやってる。」
とそっけなく答えるわりに、心はざわついていた。
中二の秋。
結局部活も辞め、何もすることが無くなった放課後。
校舎をぶらついていると綾に出くわした。
「虎ちゃん、何してるの? 」
「いや、別に」
「そっか、じゃあ一緒に帰ろう。私、これ持って行かないといけないから音楽室で待ってて
先に帰っちゃだめだよ」
俺の返事も聞かずに、綾はプリントを持って廊下を走って行く。
そういえばあいつ音楽部だったなぁ、なんて今更思いながら音楽室へ
廊下で待っていようかと思ったが、ピアノが目についてしまいそのままピアノの前まで来てしまった。
鍵盤を押せば響く音に、懐かしくなってつい指が動いてしまう
「へぇ、意外。ピアノ弾けるのね」
綾かと思って見てみるとそこに居たのは小野塚だった。
「えっ、泣いているの? 」
そう言われて初めて自分が泣いているんだと気づいた。
なんとも言えない空気になって
「あれ、由乃ちゃん。」
綾が来たのをきっかけに音楽室から出る
「ちょっと、虎ちゃん。」
綾の声を無視してその場を立ち去る
帰り道で綾が何か聞いてくるかと思ったが、何も訊いてくることはなかった。
それから季節は過ぎ三年になった。
三年になっても、特に変わったことはなかったけど
ただ、クラス替えで小野塚由乃と同じクラスになってしまった。
小野塚とは、音楽室の一件以来何も話してはいない。
正直関わり合いにはなりたくなかったのだが、どうやらそういう訳にもいかないようだ。
彼女は当前のようにクラスの委員長というポジションに着いた。
面倒なことはしたくない者にとってはとてもいいことのように思えるが、そのなり方があまりにもキレイすぎた。
初めて同じクラスになった僕には結構衝撃的だった。
彼女を知っている生徒たちは当然のように彼女の言うことを聞き、
教師も彼女がすることに何も口出しすることなく、見ているだけで、完全に彼女のクラスになっていた。
たかだか中学三年生の女子が、こうも簡単に人を動かす。
一体自分は何をみせられているんだろうか。
そんなある日、放課後の教室で一人席に座っていた。
「おっ、ちゃんと待っててくれたんだ。」
という小野塚、彼女から放課後待っていてほしいと言われ僕はここに居る。
「まぁ、別にやることもないし」
「やることなくはないと思うけど、私たち受験生だし。須藤君には簡単だったりするの? 」
「そういうわけじゃないけど」
「そうだよね。先生が嘆いていたよ」
これは一体何の時間なんだろうか? 僕はこれから何をされるのだろうか?
そんな不安ばかりが頭を巡る。
「まぁそんなに身構えなくても大丈夫。ただ少し話してみたかっただけだから
で、最近どう」
「どうといわても」
「そうね、須藤君には取り繕っても仕方ないよね、率直に言って私の事どう思ってる? 」
「どうって、まぁすごいとは思ってる」
「すごい? どういうところが? 」
「クラスをまとめたりとかそういうのが」
「すごいねぇ。私ってそんなにすごいかなぁ」
何なんだろうこの圧力、耐えられそうにない。
「正直言えば、少し気持ち悪い」
「ははは、気持ち悪いか。そうか。まぁそうだよね。それが普通の反応なのかもね。
うん、なんかいいね。こういう反応は今までなかったな」
「やっぱりそうか、須藤君て変わっているよね。普通そういうのって考えない人の方が多いよ。面倒なことは誰でも
したくないし。やっぱり流されてしまうものでしょ、楽な方に」
それからというもの小野塚とはちょくちょく話すようになった。
とはいっても「どう思う? 」という彼女の質問に答えているだけなので会話ともいいがたい。
それは突然だった
「ねぇ、ちょっと家来ない」
そんなことを言われて、断る理由もなくついていくことにした。
というよりは断れなかったという方が正しいのだろう。
小野塚の部屋は無駄なものが一切なく、無機質で、生活感のない部屋だった。
「適当なところに座って」
お茶を持ってきた小野塚
ねぇ、と言われずいぶんと距離が近い事に気づいて、そのまま口をふさがれた
次は舌を入れられ、僕は彼女に羽交い絞めにされていた。
そんな自分がとても滑稽に思えて笑ってしまった。
「ごめん、嫌だった? 」
荒い息で彼女が訊いてくるから笑いながら首を振った。
それからセックスするまでにはそんなに時間はかからなかった。
「思っていたよりも、普通だったわ。こんなものなのね」
彼女はそんな感想をもらしていたが
それからしばらくはそんな日々が続いた。
「もう終わりにしましょう」
突然彼女がそう言ったので僕も了承した。
それから彼女は学校ではいつも変わらなかったが、二人で話すことは一切なくなった。
唯一卒業式で「じゃあね」と言って別れたっきりだ。
「高校どこっだっけ? 」「ああ、綾と一緒か。付き合ってんの? 」「それはそうか、大学は? 」
矢継ぎ早に訊いてくる彼女に未だに心みだされている。
「そっか相変わらずね。虎わね、周りは良く見えてるのに、自分のこととなるとからっきしだめね。
そうだ、家寄って行く? 」
「やめとく」
「それがいい、じゃあね」
彼女はあの時と同じように笑いながら去って行った。