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群青、行く春。  作者: クサナギカナデ
7/10

7

 初めて彼女に会ったのは、瑞希と一緒に通ったヤマユリ園だった。

 

 あれは恋だったのか、憧れだったのか、あの感情はただ彼女が好きだったのだろう。

 

 三人での新しい生活が始まった

 家族三人、川の字になって眠るような狭い部屋で、すっかり年季の入ったアパートが僕たちの城だった

 圭子さんは昔の知り合いと会社を興すようで、朝から晩まで飛びまわっていたけどよく笑うようになった。

 

 僕は家の事は一通り出来るようになり

 瑞希はいつも僕にべったりではあったけど、邪魔する事はなく二人で圭子さんが帰ってくるまで過ごしていたが

 さすがにアパートで二人では危ないといううことで、近所に子供の面倒を見てくれる所があるのをみつけてきたのが

 ヤマユリ園


 僕は別に二人でも大丈夫だと思ったが、圭子さんが心配するので行くことにした

 瑞希と一緒に学校からそのままヤマユリ園へ向かう。

 園の中では学校で見知った顔がいくつかあったが、気にすることなく過ごしていた。

 

 

 ここでは基本的に何をしてもいいようで、僕は瑞希が興味があるものを一緒にすることにしていた。

 初めのうちは室内で出来るものを選んでやっていたが

 瑞希は物覚えがよく、なんでもすぐに覚えてしまう。

 いままで知らなかった妹の才能に少し驚いたががうれしかった。

 

 瑞希はいろいろとやった結果、身体を動かすことが良かったらしく外で走り回っていた。

 出来ることなら室内で目の届く範囲で怪我なく過ごしてほしかったが、仕方がない。

 僕はそんな瑞希を眺めながら過ごす日々が続いた。

 

「君は何もしないの? 」

 そう声をかけてきたのが、さやかさんだった。

 

 彼女はここで子供たちの面倒をみる役割の人で何もしないでいる僕に声をかけてきたのは当然だろう。

 でも僕にはここで何かをする事に魅力を感じていなかった。

 瑞希の付き添いでここに居るだけ、それが僕がここにいる理由でそういう認識だったから。

 

 だからそっけない態度で対応していた。

 それでも彼女は僕にかまってくるので、仕方なくピアノを選んだ。 

 理由は目線が高くなってよく見渡せるからだ。


 それからというものさやかさんからピアノを教えてもらった

 さやかさんは経験者らしく、基礎をしっかりたたきこまれた。

 最初はしかたなくやっていた僕も、弾けるようになってくると楽しくなってきた。

 

 瑞希も僕がピアノをやり始めると室内で遊ぶようになったので、

 そうなると僕も少しは真剣にやるようになっていた。

 『虎君才能あるよ』なんて言われたらもう少しがんばってみようかなんて思ったりした。

 

 

 基本的にここでは親が迎えに来てくれるのだが、圭子さんが迎えにこれないときはさやかさんと一緒に帰った。

 さやかさんは僕たちと同じアパートに住んでいたからだ。

 たまに、一緒にご飯も食べたりした。

 

 そんな日々もすぐに終わりが来た。

 圭子さんの仕事の関係で引っ越すことになった。

 それは別にいい、こうなることは分かっていた。

 ただ、もうさやかさんに会えなくなることが何故かとてもつらかった。

 

「虎君、君はもっと自分のことを考えないといけないよ。

 君はやさしすぎるから、強く生きてね」

 

 最後にそう言われたのを今でも覚えている。

 そして今でも僕にはわからないままなんだ。

 

 



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