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鵺の集う街で  作者: 神崎真
鵺の集う街でIX ―― A meeting by chance is preordained.
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プロローグ

 コンクリートの床がぽっかりと抜けてできた暗い穴の中で、子供達は身を寄せ合うようにしていた。

 ほとんど身動きも取れぬほどの近さにありながら、互いの表情すらも満足に確認できない。頭上に載せられた薄い板切れと、さらにその上から隠すように被せられた穴だらけの布の隙間から、かろうじて差し込む細い光。そればかりが頼りで。

 ここまで導いてくれた仲間は、自分の入る余地がないことに気づくと、すぐに板で穴を塞いでしまった。そうして、絶対になにがあっても出てくるな。音や声も立てるな。年長の者達が戻るまで隠れていろと言い含めて、己は別の場所を探すと離れていったのだ。

 しかしそれからすぐ、見知らぬ集団が建物へ踏み込んでくるのが判った。

 荒々しい叫び声と、周囲のガラクタを蹴り飛ばす音がどんどん近付いてきて、子供達は懸命に気配を殺す。

 この貧民街(スラム)に住む大人に、まともな者などいはしない。捕まればどんな目に遭わされるか知れたものではなかった。気晴らしに殴る蹴るは当たり前。たとえ幼かろうが、男女の区別なくさまざまな欲の捌け口とされ、そのまま殺されることすら珍しくはない。

 震えながら身を潜めていた子供達は、しかしいっせいに息を呑んだ。


「見つけたぜッ!」


 すぐ近くで発せられた歓声に、恐怖で身動きひとつできない。


「まずは一匹か!」

「もっといるはずだ。探せ探せ!!」


 押し殺したような悲鳴は、紛れもなく仲間のものだった。別の隠れ場所を見つけることができなかったのだろう。

 肉を殴打する、聞き慣れた音が幾度も聞こえてきた。


「オラッ、他の連中はどこ行きやがった。言えよ、言えってのっ!」


 板一枚を隔てて感じられる暴力の気配に、ひとりが身じろぎをする。耐えかねて飛び出そうとしたのだ。それを他の子供達が必死にしがみついて止める。


「……ちょっと、あんまり傷つけるんじゃないよ」


 そんな声に安堵するよりも早く、続く言葉にみなが凍りつく。


「キズモンじゃあ、ぼったくられちまうからね」


 今回のこれは、ただの気晴らしや乏しい物資を奪いに来た襲撃などではない。売り飛ばす商品として、自分達そのものを連れ去ろうしているのだと、幼い彼らにも理解できたのだ。

 人さらいの噂は、何度か聞いたことがあった。実際、少し離れた別の通りを縄張りにしていたグループが、一晩で全員姿を消したのはついこの間の話だ。売られた先で、どんな運命が待っているのかは判らない。重労働で使い潰されるか、それとも玩具になるのか。あるいは色を売るという店で、客を取らされるのかも ――


「別にイイじゃねえか。人間種(ヒューマン)なら、どうせ用があんのは内臓(なかみ)だけだろ」

「逃げられんのも面倒だし、足でもいっとくか」


 総毛立つような鈍い音と叫び声が、コンクリートの廃墟に(こだま)する。


「ほーら、早く言わねえと、もう一方もへし折っちまうぞ」

「年上連中が戻る前に、さっさとチビ共をかき集めてえんだ。手間かけさせんなってー、のッ」


 なおも続く罵声と暴行に、子供達はもはやただただ耳を塞いで、小さくなっていることしかできなかった ――

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