表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鵺の集う街で  作者: 神崎真
鵺の集う街でIII ―― Too much of a good thing.
35/95

プロローグ

ある程度話が進んだので、投稿を再開します。よろしくおねがいします。

ここから第二部とも言えます。

 【 good thing 】


1.良い・望ましいこと、幸運

2.良い思い付き


 ―― much of a good thing.

 意味:たくさんの良いもの。




 【 too much 】


1.過剰な、過度な

2.手に負えない、迷惑なこと・もの


 ―― too much of a good thing.

 意味:度が過ぎてうんざりさせるもの。ありがた迷惑。




  プロローグ


 次々と披露される珍奇な品々に、そのつどパーティー会場は賑やかに湧き返っていた。

 豪奢に着飾った紳士淑女を称する人々が、夜な夜な(つど)っては、表面ばかりの笑みを浮かべつつ、心にもない賞賛の言葉を交わし合う空間。

 そんなものになど、まったく興味はなかった。しかしこの街で暮らしている以上、どうしても避けては通れない付き合いというものがある。

 必要最低限の場のみを選び、礼を失さない程度に装って、足を運んだ証の挨拶を残したら早々に退出する。いつも、そんなふうにしてやり過ごしていたのだけれど。

 帰ろうとする足を止めたのは、何気なく流した視線に、ふと興味を惹かれるものが映ったからだった。


「 ―― あなた御自身は、こういった催しを開かれないのですね」


 目を向けた先にあったのは、真昼のような輝きを降らせる照明のもとで、美しく輝く一対の瞳だった。

 穏やかな口調の青年が、話しかけてくる。


 ―― 灼熱の黄金と、凍てつく氷の蒼。


 一瞬、義父が電脳世界で使用していた分身(アバター)が、そこにいるかのように錯覚した。

 黄金の鱗で全身を(よろ)った東洋のドラゴンは、瞳もまたきらめく金属質の光を放っていた。その目には、誰の姿もはっきりとは捉えられておらず。どんな相手と言葉を交わす時にでも、常に変わらぬ孤高さをたたえていた。

 義父の死後は、己が受け継いだプログラム。ハンドルネームに合わせ、鱗を銀に変え、瞳の色も氷蒼(アイスブルー)に変更している。だがそれ以上は特段手を加えもせず、そのまま使用し続けていた。操作も特に問題なく行えているはずだったが……それでもどこか、何かが足りていない。そう、常々思っていた。

 その、足りない何かを、あの眼差しは思い出させてくれるような気がする。


 注意して観察してみれば、左は黄金というよりも金褐色だ。右の目も、わずかにだがくすんだ灰を帯びている。

 しかし、銀を思わせる頭髪の色も相まってか、その姿はさながら義父の分身(アバター)と己のそれを、重ね統合させたかのような印象(イメージ)を彷彿とさせた。

 なによりも、周囲に存在する何者をも、目にしているようでいて見てはいない。どこか遠いどこかを眺めているかのような、その表情こそが。


 ―― 一刻でも早く形にしたい。この閃き(インスピレーション)を忘れぬうちに。


 脳内にプログラムコードを呼び出し、変更すべき箇所とその内容の候補を次々とリストアップしてゆく。そうしながら彼女は踵を返し、右手の杖を動かして、叶う限りの速さで歩き出した。会場の出口を目指すその背中を、青年が追いかけてくる。


「お待ち下さい!」


 ゆっくりとしか進むことのできない彼女であるが故に、高い背に相応の長い手足を持つ青年は、たやすく肩を並べてきた。


「……あなたの誕生日は、確か来週でいらっしゃいましたね」


 柔らかだが、妙に耳へと残る声で、彼はそう問いかけてくる。


「あなたが、賑やかな場や虚飾に満ちた会話を好まないことは、よく存じ上げています。それでもどうか、わたしにも機会を与えて下さいませんか ―― ?」


 その口調には、どこか必死さすら感じさせて。

 わずかに首を傾げながらそちらを見上げた彼女へと、青年はひとつ息をついて温和な笑みを浮かべてみせた。


「どうかあなたに、贈り物をさせて下さい。あなたのためだけに、わたしが選ぶ一品を ―― 」


 胸元に手を当てて、そっと静かに一礼してみせる。

 その仕草は、どこまでも洗練された、優雅なもので……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ