終:くるくるくる
目が覚めると、朝だった。
波は、相変わらず砂浜に優しく打ち寄せている。
眠ってしまったようだ。
少し重いまぶたを右手でこする。
砂はさらさらとしていて、私のまぶたにわずかについた。
砂がついていなかったところで、軽く拭うと、近くにウサギの気配を感じた。
波音が響く。
砂浜にはウサギと私の足跡が残っている。
円を描いて、いたるところに残っている。
昨日、私とウサギがいた証が、そこにあった。
赤い花びらは道からはずれ、辺り一面に散らばっている。
その横で、ウサギが赤い花びらをはんでいた。
ウサギがこちらを向いた。
ウサギは少し前から起きていたようで、もう元気になっている。
「うーん……」
私は立ち上がって伸びをして、スカートの砂を払った。
あまり汚れていない。
久しぶりにお風呂に入らずに夜を明かしたが、全然嫌ではなかった。
ウサギの元へと歩き、すっとかがむ。
「さ、帰ろっか」
ウサギは何も答えなかった。
私はぼんやりとした目でウサギを見つめ、抱き上げてゆっくりと立った。
駅に向かおう。
私は、昨夜来た道を引き返すことにした。
赤い花の広場を抜け、一本道をゆく。
足取りはとても軽い。
鼻唄を歌いながら、草むらを抜けていく。
ふと、あの木が立っている場所に行きたいと思った。
一本道をそれ、あの木を目指して歩く。
木まではすぐに辿り着いた。
昨夜の光景が思い出される。
今となっては、いいオモイデかもしれない。
私はその場で空を仰いだ。
葉と葉の隙間から、太陽の光が濡らすように輝いていた。
私はそれが嬉しくて、鼻唄を歌いながら、動かずにいた。
ウサギが、私の腕からするりと滑るように、地面に降りた。
私のことを一瞥して、何かに導かれるように草むらの中へと入っていった。
ウサギの姿は、見えなくなった。
帰ろう。
私は思った。
「ありがとう、ウサギさん」
最後に私は、ウサギの声を聞いたような気がした。
『 』