背が低い
純平は身長が低いことに悩んでいた。低いと言っても165センチはある。学校にはもっと低い生徒も結構いる。なぜ純平がこれほど悩んでいるかと言うと、とある日にとある女子の会話を聞いてしまったからである。
「ねえねえ、恵のタイプ教えてよ」
クラスの女子がよくある会話をしていた。タイプというのは男性のタイプのことだろう。恵はしばらく考えて、「自分より身長が高い人がいいかな」と答えた。
それを聞いた瞬間、純平の気分はどん底に落ちたのである。
純平は恵のことが好きだった。子供の頃からよく遊んでいたし、仲が良かった。なので、脈があるのではないかと思っていた。
恵はモデルのような体型をしている。もちろん背は高い。純平よりも高い。よって、純平は恵のタイプから除外されることが決定した。
恵のタイプを聞いて以来、純平はずっと悩んでいた。それでも純平は諦めきれない。悩みに悩んだ末に告白することに決めた。そして玉砕すればすっきりすると思っていた。
数日後、純平は恵を屋上に誘った。緊張はしていたが、決心は固まっていた。
「恵、俺と付き合ってくれないか」
さあ、恵よ断るがいい。俺は覚悟は出来ている。この日のために精神修行もしてきたんだ。きっと大丈夫だからすっぱり断るんだ。純平は何度も自分に言い聞かせた。
恵は驚いたような顔をした後、優しい声で答えた。
「いいよ、嬉しい」
目をつぶっていた純平に奇跡の言葉が聞こえてきた。目を開けると恵は赤くなって、少し涙を浮かべている。素直に喜べばいいところだが、先日の会話が気にかかる。
「自分より背が高い人が良かったんじゃないのか?」
純平の言葉を聞いて、恵は笑った。純平は恵の笑顔も可愛いなと思いながら、なんで笑われているのかわからなかった。もしかしたら、からかわれただけかもしれない。純平は喜びよりも不安を感じていた。
「私が自分より背が高い人がいいって言ったのは、純平のせいだよ」
恵の話に自分のことが出てきて、純平は驚いた。自分が恵に何をして、恵のタイプが決まってしまったのか検討もつかない。焦りだした純平に恵は続けて言った。
「純平は私と一緒に歩いている時、いっつも私を見ては不安そうな顔をしてた。きっと純平は背が高い女の子が嫌いなんだって思った。自分より背が低い人はみんなそう考えてるのかなって思っちゃった。だから、背が高い人がいいって言ったの」
なるほど、たしかに純平は自分より背の高い恵を見ては、男としてのプライドが保てないと思っていた。自覚はなかったが、それが不安となって現れていたのだろう。
「じゃあ、背が低い人が嫌いってわけじゃないのか?」
純平は念の為、もう一度確認した。情けない男だと思われるかもしれないが、そこははっきりさせておかないといけない。
「うん、だって私が初めて好きになった人はあなただもの。背が低いからって嫌いになれるわけないよ」
恵はそう言って涙を流した。純平はそれが嬉し涙なのか、俺がなかなか信じないことに対する悔し涙なのかわからなかったが、やらなければならないことはわかっていた。純平は恵を抱きしめた。
「ほんとはもっと包むように抱きしめたいんだけど、手が短いから勘弁してくれ」
恵は純平の言葉に首を振って、「バカ」と言った。
二人はキスをした。純平は少し上を向き、恵は少し下を向いて。