そのろく:雑木林にカブトムシを取りに行こう
まだ真新しい建売住宅のドアチャイムを押す少年。
”ぴんぽーん”
そして少年は家に向かって声をかける。
「ひーろくーん。
準備できたー?」
その声に答えるように二階の窓をあけてそこからから少年が顔を出してから手を振った。
「はーい、今いくよー」
今日は土曜日でお昼に学校が終わったから二人は住宅街からちょっとはなれた場所にあるクヌギがたくさん生えた雑木林に虫捕りに行くことにしたのだ。
頭には帽子をかぶり長袖に長ズボンをはいて、長くつをはいて準備はオッケー。
そして今日カブトムシを取るために用意するのは、はちみつと真っ黒になったバナナに筆と小皿と虫取り網に虫かごに懐中電灯あとは水筒にあせふきタオルにばんそうこう。
絆創膏は万が一怪我したときにあると便利だからね。
「じゃあいこうかー」
「うん、れっつごー」
二人は自転車の前カゴに虫を集めるための道具を入れて自転車を走らせる。
駅前から少しはなれた場所は新しい建売住宅がたくさん立っているが駅前はむしろ昔からある家の方が多い。
そしてそういった住宅街を抜けると田んぼや空き地や雑木林が現れる。
雑木林の中に入り込む小道を走る二人の前にそれは急に現れた。
「うわ!お墓だ」
「このあたりってお寺もないのにあちこちに
小さいお墓があるのは不思議だよね」
時折森のなかに急に現れる地蔵や小さなお墓はちょっぴり怖い。
もちろん昼間からお化けが出るようなことはないのだが怖いものは怖いのだ。
そして古くからある土地では寺がない森や山の中にお墓がぽつんとあるのも決して珍しくはないのだ。
「あ、でも良く考えたら僕のおじいちゃんの家も隣の隣はお墓で
昔は死んだ人をそのまま棺桶に入れて燃やさないで
埋めてたって聞いたな。
だからお墓に火の玉が良くでたんだって」
「うへぇ、ひろくん。
お墓の前でそういうこというのやめてよ」
「あ、うん、ごめんね」
そして貯水池の奥にある林の中がカブトムシやクワガタムシがいっぱいいる場所。
貯水池の緑色のフェンスの脇に自転車を止めて二人は虫を集めるための道具をカゴから取り出した。
「じゃあはじめようか」
「うん、早くしないと日が暮れちゃうからね」
二人は雑木林に入っていってクヌギの木をよくみていく。
「あ、いたいた」
「お、カナブンが居るなら夕方にはカブトムシも来そうだね」
「うん」
クヌギの木の幹が黒くなって樹液が染み出ているところには昼間はカナブンがいる事が多い。
カナブンは昼間に動くけどカブトムシは日が暮れてから動くからね。
「カナブンも捕まえる?」
博は雅人に聞くが雅人は首を横に振る。
「捕まえないよだって角がなくてかっこよくないじゃん」
「うーん、そうかな、そうかも」
僕たちは樹液のとこにいるカナブンをどけて、そこに黒くなってる腐りかけのバナナを押し付けて塗り込んだり、蜂蜜を水でちょっと薄めて塗っていく。
「これでいっぱいとれることまちがいなしだね」
「きっとそうだね」
幾つかの木にそういったカブトムシ用の罠を張っているとだんだん日が暮れて薄暗くなってきた。
夕方になってカブトムシなどが動き始める前に二人は自転車のもとに戻ってちょっと休憩。
水筒の水を飲んで、足元の土を虫かごに入れながら日が暮れるのをゆっくり待つ。
「そろそろいいかな?」
「うん、そろそろ大丈夫だよ」
二人は懐中電灯をつけてゆっくり雑木林に戻る。
「お、いたいた」
「いっぱいよってきたね」
蜂蜜やバナナを塗りたくった木の幹にはカブトムシがいっぱいいた。
「どれが一番強いかなー」
「俺はこいつにしよっと」
「あ、とられたー」
「へへーん早い者勝ちだもーん」
二人はワイワイ言いながらオスとメスを一匹ずつカブトムシのの体の部分を親指と人指し指でつまむように挟んで捕まえる。
「ちゃんととれてよかったねー」
「うん、前に幼虫を探した時はシャベルで真っ二つにしちゃったからね」
「真っ二つは可愛そうだったよね」
虫かごにカブトムシを入れた二人は雑木林を後にする。
「お墓の前は早く通っちゃわないとね」
「怖いもんねー」
そして週が開けたらカブトムシを学校に持っていってみんなに自慢するのだ。




