そのさん・利根川の土手でダンボールスキー
「ひろくーん、よういできたー?」
「うんできたよー」
今日、雅人と博は利根川の土手で遊ぶつもりだ。
河川敷を走り回ったり川の水をぴちゃぴちゃしたりするのもそれはそれで悪くないが、二人が持っているのは近くにあるスーパーマーケット”マルエツ”の裏でもらってきた厚めのダンボールである。
ハサミで切り開いたダンボールにカッターで穴を開けて引っ越しに使うビニールひもをつけた”ダンボールソリ”とろうそくを抱えて二人は利根川の土手まで歩いて行く。
今の季節は土手には青々と草が茂っているのでその上を滑り降りるのはとても楽しいのだ。
花やしきや後楽園ゆうえんちにあるジェットコースターには負けるかもしれないけど、ダンボールそりならお金もかからないし何度でも滑れるのがいい。
博はまだ暑い中だが長袖長ズボン、雅人は半袖半ズボン。
「雅人くんその格好だところんだ時痛いよ?」
「へへん、僕はころんだりしないからだいじょうぶだよ」
そんなことを言いながらようやく土手の上までたどり着いた。
「ちゃんとろうを塗らないとあんまり滑らないからね」
「そうだねー」
二人はろうそくをダンボールの裏にゴリゴリこすりつけていく。
ダンボールにはっきり見えるほどついたら準備OKだ。
「これくらいやればいいかな?」
「多分大丈夫じゃないかな」
土手の上の平らな場所の橋の上にダンボールそりをおいてその上に座りダンボールの前の部分を折って紐をつかむ。
「じゃあいくよー」
「どっちが早く降りれるかなー」
「競争だぞー」
土を蹴って斜面に降りれば後は重力で自然と滑り出す。
「うわー」
「はやーい」
土手の斜面はそこそこ急なのでなかなかの勢いでダンボールは滑り落ちていくのだ。
平らな場所に降りても少しの間滑り続けてやがてとまった。
「よーしもう一度」
「うん、もう一回」
二人はダンボールの紐を掴んで土手を駆け上がる。
紐がなくても滑り落ちていくのだけならダンボールの端をつかむだけでも十分なのだがこうやって土手を駆け上がる時に紐があると楽なのだ。
「よーし、もういっかーい」
「いっくよー」
そしてもう一回が延々と続くのはもうお約束だ。
しかし、何度もやっていればたまには失敗することがある。
「うわっ」
雅人のダンボールの紐が切れてしまいひっくり返ってしまったのだ。
斜面を転げ落ちる雅人。
「まーくん、大丈夫ー?」
博は滑り降りた後聖人にあわてて駆け寄った。
「あー、いてー」
雅人は転げ落ちた拍子に膝やら肘やらを擦りむいて血が滲んでいた。
「だから長袖のほうが良かったのに」
「でも服が破けたらそれはそれで怒られるだろ?」
「まあ、そうだね、今日は帰ろっか」
「そうだね」
二人は土手にダンボールを投げ捨てて家にもどった。
そして肘と膝の傷口を水で洗ってから救急箱を開けて中身を見る。
「とりあえず赤チン塗っとこうか」
博士は雅人の傷口に赤チンを塗った。
「あいてて、赤チンしみるなぁ」
赤チンを塗ると傷口付近が真っ赤でむしろ大怪我をしたようにみえるため雅人はその夜お母さんにとても怒られた。
そして風呂に入ると傷口にお湯がしみるから次からは長袖を着ようと思う雅人だった。