そのに・駄菓子屋の瓶ジュースと冷たい氷菓
「あついねー」
「ほんとあついねー」
学校帰りランドセルを背負った博と雅人はひたいの汗を拭いながらお互いにそんなことを言い合った。
「駄菓子屋で何か買っていこうよ」
「うん、そうしよう!」
二人は暑いのに駄菓子屋へ向かって走り出した。
子供は元気である。
そしていつもの駄菓子屋にたどり着いた。
駄菓子屋と行っても実際は米屋でもありプロパンガスなども売っている田舎の総合商家なのだが子どもたちにとっては駄菓子屋さんである。
「こんにちはおばちゃーん、今日もあついねー」
「何にしようかなー」
子どもたちを出迎えたおばちゃんも薄着だ。
なにせのこの時代にはエアコンはまだまだ高級品で設置している家も少なかった。
「あらあら、あなた達は元気ねぇ」
先ずは瓶の飲み物がはいっている冷蔵庫から聖人が瓶コーラを取り出す。
「はい、おばちゃん30円」
「ほんとは40円だけどすぐ飲んでっちゃうんでしょうから30円ね」
聖人は冷蔵庫の栓抜きを使って瓶コーラの栓を抜くとそのままラッパ飲みをする。
「ぷはー、暑い時はコーラは特に美味しいねえ」
一方の博は何を飲もうか迷ってる。
「うーん、炭酸じゃない飲み物はなんで少ないんだろう」
そういう博に雅人がいう。
「だって、炭酸がはいってたほうが美味しいじゃん?」
「でも、炭酸を飲むと歯とか骨が溶けるってお母さんが言ってたよ?」
「それだったら僕の歯と骨はとっくに溶けちゃってるよ」
笑いながら雅人はコーラを飲み干すとおばちゃんに空になった瓶を手渡した。
「はい、おばちゃん、瓶」
「はいはい」
「あとはなににしようかなー」
聖人が冷凍ケースを開けて中身を見はじめた頃に博は冷蔵庫から瓶を取り出した。
「おばちゃん僕はプラッシーちょうだい」
「はいはい、30円だよ」
「はい30円!」
この時代は瓶の代金が十円、中身が30円なので本来は40円だが瓶を返すのが前提の場合最初から30円で飲ませてくれたりもしたのだ。
「んーやっぱり僕はプラッシーが一番好きだなー。
あんまり売ってないけど」
そして聖人が冷凍ケースを開けて中を覗き込むと色とりどりのポッキンやあんずバー、ホームランバーなどがはいっている。
「おばちゃんこれちょーだい」
雅人が取り出したのは緑色のポッキン。
ソーセージのような形状の透明なプラスチック容器に入った氷菓の正式名称は「チューペット」だが
それで呼ぶ人間はほとんどいない。
「はいはい、10円だよ」
「はい10円!」
雅人はポッキンの先を噛みちぎってそれを吸い出し始める。
「ん、冷たくておいしい」
博もプラッシーの瓶をおばちゃんに返すと冷凍庫の中身をみはじめた。
「はい、おばちゃん、瓶かえすね」
「はいはい、ありがとうね」
瓶は洗って工場に戻されてもう一度再利用される。
「チューチューも美味しいけどあんずバーも美味しいよね」
博はあんずバーを手にとっておばちゃんにいう。
「おばちゃん、あんずバー頂戴」
「はいはい、10円だよ」
「はい10円!」
博もあんずバーの端を噛みちぎって、袋の上からかじり出しはじた。
「んー冷たくて美味しい」
二人が店先の木製のベンチで座って氷菓を食べているとミンミンゼミが大きく”ミーンミンミンミン”と泣き始める。
「ごちそうさまー」
「ごちそうさまー」
二人は立ち上がったあと屑入れに残ったゴミを入れておばちゃんに別れの挨拶をした。
「気をつけて帰るんだよー」
「大丈夫だよー」
「宿題もやるんだよー」
「大丈夫だよー」
そして家の前で二人も別れる。
「じゃーねー、ひろくんまた明日ねー」
「まーくん、ばいばーい」
帰ったら宿題をちゃんとやらないと怒られてしまうけど、こうやって駄菓子屋で飲み食いするのも美味しくて楽しみなことなのでなかなかやめられないのだ。