異世界に転生したら村人Cだった
俺は小島よしお。偶然にも某芸人と名前がかぶっているが他意はない。気にしないでくれ。高校三年生で、身長172センチ体重53キロのいわゆる一つのスレンダー系男子だ。将来の夢はバスケットボール選手になること。そう、SLAM DUNKの影響だ。
「よっおはよっよしおっ!」ふいに背中を叩かれ振り向くと、無垢な笑顔で笑いかける俺より一頭分位小さな女の子の姿があった。そう、何を隠そう無駄に小さな「つ」を会話の途中に入れてくる童顔の美少女が俺の幼馴染みであり、俺が恋してやまない憎らしい奴なのだ。名前は高塚つかさ。年齢は自分と同じ18才。
「よう、おはよう、つかさ。今日は俺の好きなポニーテールなんだな。」そう、何を隠そう俺はポニーテールが好きなのだ。
「そうだぞっ!今日はお前の為にわざわざポニーテールをしてきてやったんだぞっ!ありがたく思えっ!」何やらつかさは高飛車な態度をとっている。
「何がわざわざだ。ポニーテールなんてちょちょいと頭の後ろに結ぶだけのお手軽ヘアーだろうが。誰がありがたくなんて思うものか。」俺は恋している相手だろうがなんだろうが、反論すべきことはきちんと反論する主義なのだ。
「お前ーそんなこといっていいのかー、そんなこと言ってるとよしおが小学五年生の時に授業中にお漏らしをしてしまったという黒歴史をまた広めちゃうぞー。ってよしおーっ!!」
「うぉぉおーーーー!」
よしおはマンホールの中に落ちていった。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥っか!?大丈夫かっ?ベル!?おいっ!!」何やら肩をゆさられている。
「うーーーん。」
「おっ気付いたか!?大丈夫かっ?いきなり倒れるから心配したぞっ!」
「うん?」目を開けると目の前には見知らぬ年端もいかぬツインテールの女の子が心配そうに俺の目を覗きこんでいた。誰だ?この子は?一体俺は?ここはどこだ?
「君は?ここはどこ?」素直に俺は疑問を口にした。
「ベル?どうしちゃったんだっ!?頭でも打ったか?よし、今からあたしがヘーゼル先生のところに連れていってやるからな!」女の子は青ざめている顔をしながらも着丈にそういった。
「いやいやいやいや、ベル?ヘーゼル先生?なんのこと?さっぱりわからないだけど。」なにがなんだかさっぱりだ。
「ベルはあんたの名前。ヘーゼル先生は村のお医者様。そして、あたしはあんたの幼馴染みのエレナ。とりあえずヘーゼル先生のところに行けば何とかしてもらえるから、あんたは黙ってあたしについてきなさい!」俺はエレナに強引に手を引かれつつとりあえずなすがままヘーゼル先生とやらのところへ連れていかれることにした。その間に頭の中を整理しよう。俺の名前は小島よしおだよな。ベルではない。そして、なんだ、この体はエレナに手を引かれている俺の手はまるで子供の手ではないか。そして、目線の高さからしてこのエレナという女の子と対して変わらぬ身長らしい。大体140~150センチ程度か?というかこの子が俺の幼馴染みだと?俺の幼馴染みは愛しのつかさだし、この子は誰だ?ここはどこだ?記憶喪失ではない。夢か?
「ねえ、エレナ、本当にここはどこなんだい?」
「ここはイシュンゲルド村。アストラ王国の南東の小さな村よ。っていうか、ベル、どこまで覚えているの?」
「‥‥いや、何にも覚えていないんだ。というか、俺の名前は小島よしおで、高校三年生で、日本という国の神奈川県横須賀市という所に住んでいて、幼馴染みは高塚つかさという娘で俺はその娘に恋をしていて、エレナのことも今日はじめてあって、、、」俺はしどろもどろになりながらそう答えた。
「‥‥‥可哀想なベル。あたしがあんたを絶対に元に戻してあげるからね!」目を輝かせながら、エレナは決然とそう言った。俺の話を聞けー。
「着いたわね!ここよ!」目の前にはなんとも古びた三角屋根の藁と木で出来た小屋があった。キャンプファイアーをするにはもってこいだ。
「先生いるー?」エレナはノックもせずに扉を開けて中に入っていく。親の躾はどうなっているんだ?
「おー、エレナじゃないか、久しぶりじゃのう。よーきた、よーきた。会いたかったぞい。」満面の笑みをたたえながら、本当に嬉しそうに白髪の眼鏡をかけたおじいさんはエレナを出迎えた。一応白衣をきているからこの人がヘーゼル先生らしい。片手には何故か大根を持っているが。
「あっ糞坊主!よくもぬけぬけと性懲りもなくワシの目の前に現れよったな!」ヘーゼル先生は俺のことを見つけると怒りの形相を浮かべ、つかつかと俺の目の前までくると大根を天まで掲げ渾身の力で降り下ろした。
「バッカーーン。」凄まじい爆発音と共に大根が砕け散ったかと思うと、俺の意識も同時に霧散していった。
「うーーーん。」ここは?ベッドの上みたいだが‥‥
「あっ気付いたみたいね。よかったー。本当心配したんだから。大根からあんな音がするんですもの。大根が出す音じゃないわ、あれは。でもともかくもあなたが気付いて良かったわ。あっそうだわ。もしかしたら、あの衝撃で逆にあなたの記憶、戻ったんじゃないかしら?よく言うじゃない、ショック療法って。ねぇ、どうなのベル?」
「うーん、やっぱり戻ってないみたいだよ。っていうか、一体全体なんだってあの糞爺ぃはいきなり俺の頭を、あんな大根なんかで。大根は人の頭を叩くものじゃないだろ。くそっぶっ殺してやる!」俺は喋っている内にだんだんと事の事態を思い出し、腹がたってきた。ふと、壁際の方に目を向けるとあの爺ぃが正座になって仏壇に手を合わせていた。俺は立ち上がって、爺ぃの真後ろまでいった。
「やい、糞爺ぃ!さっきはよくも人の頭を大根でおもいっきり叩きつけてくれたな!」俺は腕捲りをして、仕返ししてやるつもり満々で爺ぃを怒鳴りつけた。面倒臭そうに爺ぃは振り向くと泣いていた。汚いじゃないか、人の頭を大根で叩くだけ叩いといて自分は泣くなんて。俺は面食らったと同時に先ほどまでの怒りが急速に萎えていくのを感じた。
「なんじゃ、糞坊主か。もうええんじゃ。あの大根でおあいこじゃからな。」そう、片手をあげると爺ぃは外へと出ていった。いや、よくねーし。
「ベル、よく聞いて。あなたが大根で叩かれたのはしょうがないことなのよ。だってあなたがあの仏壇の中の人を殺してしまったようなものですから。」
「!?」仏壇には優しそうな笑顔で笑っているおばあさんの写真が飾ってあった。あの人の奥さんか。そうか、それは悪いことをしたな。いや、俺じゃないけど。でも、どうして俺が。俺というよりこいつ、ベルなんだろうけど。
「そう、あの日は満月の明るい夜だったわ。私たち二人はいつものようにそっとそれぞれの家をこっそりと抜け出して深い森のなかでかくれんぼをして遊んでいたの。私たちはそうすることでいけないことをしているというささやかな背徳感を楽しんでいたのね。でも、あの日は運が悪かったのね。ベルが鬼をしていてあたしはとてつもなく大きな御神木の中に隠れていたのよ。まーお決まりの隠れ場所だからすぐに見つかるとは思ったけど、私たちは散々そこで隠れんぼをしていたものだからもう既に新たな隠れ場所なんて思い付かなかったのよ。あの秘密の場所を除いては。ベルにもういいよの合図を送ってからしばらくたってかしら。女の人の悲鳴が急に聞こえたの。私はそこからすぐに悲鳴の聞こえた方へ走ったわ。そしたら、あなたが青ざめた顔で呆然としているじゃない。あたしはどうしたの?って問い詰めたわ。すると、あなたは震えた指で真っ直ぐに指を指すの。あたしは嫌な予感がしたわ。その先には真っ黒な人がちょうど入れるような穴が開いていたの。まさかと思ったわ。その穴に近寄って恐る恐る覗きこんでみると、女の人が入っているじゃない。私はなにがなんだかわからなかったわ。いや、実はその穴は私が隠れる場所がなくなった用に掘ってわからないように隠しておいたものなんだけど、絶対に人が通らないような場所に掘っておいたつもりだったのに!どうして?ってね。ひとまずこの人を助けなくっちゃって私達は協力してひっぱり出したわ。みるとこの人はヘーゼル先生の奥さんじゃない。脈拍を計ってみたけどそのときにはもう息をしていなくて。大して深くもなかったのに、歳のせいか打ち所が悪かったのか。ベルに事の成り行きを聞いたわ。そしたら、あなたが私を探している最中にヘーゼル先生の奥さんに見つかってしまったらしいのよ。あなたはびっくりして逃げてしまったらしいの。でも、先生の奥さんは追いかけてきて、そこで悲鳴があがって。そう、本当の原因は私にあるのよ。だってあの穴は私が掘ったものだから。あなたにはちゃんと話したわ。でも全ての責任はあなたが全部かぶるって。だからお前は黙ってろって。私はそんなことはできないってあなたに泣きついたの。でも、やっぱりヘーゼル先生や親の前になってどうしても言い出せなくなってしまって、結局全てあなたのせいになってしまったわ。いや、してしまったわ。でもあなたは笑って気にするな、もともとお前と俺とでは出来や評価が違うんだからって。俺はこれ以上評価は落ちないからなって。うぅー。」エレナは一息で話終わると、泣き崩れた。