男、令嬢に転生す。
どうも!元気?俺は元気!じゃないかもしれない!
いやー、大変な事になったもんだ。俺転生しちゃった。いや、別に前の世界に不満があった訳じゃないんだよ?ただ卒論が書き終わんなくてさ、提出明日なのになんも書けてねーの、んであ~終わったわ~留年だわ~って考えてたらコレ、変な部屋に1人で立ってる訳よ。
一目で高級品とわかる女性物の家具に囲まれた部屋は広過ぎて一人用とは思えない。そして俺の目の前の鏡に写ってるのは金髪にアメジストのような綺麗な紫の瞳をもつ超美少女、笑えばいいのに気だるげな目をしている。俺みたいだな。いや、俺じゃね?
首を傾げるとあちらも首を傾げる、ニッと笑うとあちらも笑った。自分と全く同じ動きをしている美少女というのはなかなか面白い光景だ。
しばらくそんな事をしながら遊んでいると扉がノックされて声が聞こえてきた。
「お嬢様、そろそろにございます。」
「ほへぇ!?」
唐突に聞こえた声にビックリして変な声が出てしまった。
「お嬢様?」
俺……の事なんだろうな……あ、天井にまで装飾が……キレー
上を見上げて現実逃避をしていると耳元で声がした
「お嬢様!」
「はにゃあ!」
また変な声を出してしまった。
「あの?お嬢様?」
隣には心配そうにこちらを見つめる初老の男性、この人なんで執事のコスプレしてんだろ。レイヤーなのかな。
「そろそろ学校のお時間ですが…」
「はぁ、え?学校!?」
「はい、今日は火曜日にございます。どうしました?お加減でも優れませんか?」
あ~……なんか思い出して来たぞ……
俺が行っているらしい学校にさっきの執事コスの人に車で送られていると今までの記憶が甦ってきた。遠坂大河としての記憶ではなく、『シオン=アルベルト』としての記憶だ。
うん、侯爵の一人娘で今十七、まぁ間違いなくここは日本じゃないな。好きな食べ物はサクランボで、学校では生徒会長をやっている。よし、記憶は甦ったんだしこれで大丈夫……大丈夫……
「大丈夫じゃねぇぇぇぇえええ!!!!」
車の前座席の背もたれに頭をぶつける。
「お、お嬢様!?」
車を運転しながら執事コスの人、改め執事のアルフレッドがバックミラーを覗き込んでくる。
「はぁはぁ、いや、大丈夫です。」
俺声高いな~いや、女子なんだから当たり前なんだけどさ。手鏡を見て乱れた髪の毛を整える。落ち着け…落ち着け…
「落ち着いてられるかぁぁぁあああ!!!!受け入れられねぇぇぇえええ!!!!」
またゴスゴスと頭を背もたれにぶつける。最早セットなんて気にしてられない。
「お、お嬢様!?本当に大丈夫でごさいますか!?」
「大丈夫!ちょっとヘドバンしたくなったダケだから!」
「お嬢様はロックミュージシャンか何かなのですか!?そろそろ学校ですよ!?」
もう一回手鏡を見て髪を整える、ふーー……ん?ヘドバンが通じた!?
とりあえずなんでこうなったかはともかく目の前にある事をこなしていこう。まずは学校だ。
校門をくぐる、笑顔をキープ笑顔をキープと、いきなり人の波に飲み込まれた。
「シオン様!おはようございます!」
「シオン様!おはようございます!」
「ごきげんよう!シオンさん!」
うぎゃー!?心の中で絶叫するがこんな所で挫けてはいけない。全員にごきげんようを返しながらやっとクラスにたどり着く。やっぱりちょっと記憶が完璧に戻ってないな……少し迷いかけたぞ……
ずっと笑顔というのは本当にストレスがたまる。まぁそれでも勉強は人並みに出来る方だから当てられても一応答えられた。そして!何よりも良いことがあった!それは、『美少女見放題』という特典だ。
体は女、頭脳は男、その名はシオン=アルベルトな俺にとってこれはデカい。
この学校は名家の子供ばかりが集まっているらしい、しかもほとんどが美男美女!それにかなり上手いことやってきてたらしく。このシオンという少女は人望が厚い。昼食時にご一緒にいかが?と聞けばどんな美少女も二つ返事でついてくる。いやー、眼福眼福。
そんな日々が、一週間ほど過ぎたある日、クラスメイトにまた明日を言い、生徒会室で1人、資料をまとめる。手伝いましょうかとも何十人かに聞かれたが、こういう作業は1人の方がはかどる。
(……いや、俺普通に馴染んでんじゃねぇよ!!)
冊子をまとめながら心の中で叫ぶ。
目の前にある事をこなす生活をしてたらあっという間に過ぎてしまった!これではダメだ、早く元の世界に戻る方法を……
そんな事を考えながら頭を抱えていると後ろから突然抱きしめられた。
「何か考え事かい?シオン?」
!?
正直驚いた、今までこのシオン=アルベルトの後ろについてくる人はいたものの、手を触れるような者はほとんどいなかったからだ。しかも呼び捨て!イケヴォ!俺を呼び捨てに出来るとすれば侯爵以上、いや侯爵よりも上の位……公爵、もしくは王族?そして姿は見ていないもののイケメンオーラが溢れまくっている!
頭の中の人物図鑑に公爵、王族、イケメンで検索を入れるが諦める。なんせ全校生徒2000人のマンモス高だ。流石に無理がある。
「どうしたのシオン?最近会いに来てくれないじゃないか」
黙り込んでいる俺を不信に思ったらしい。甘えるように顔を埋めてくる。え?てか知り合い?
「もしかしてこの前のプレゼントが気に入らなかったとか?」
なんか女慣れしてそうな喋り方が癪に障ったので振り返る、チャラ男なんざ叩き出してやる。と思ったらうわーぉスッゲー!!
金だと思っていた髪は黒でスッと通った鼻梁、瞳の色は吸い込まれそうな…そう、黒に限りなく近い青、宇宙色とでも言おうか…賢そうな人だ。心が男の俺でも思わず目を奪われた。
「ん?僕の顔に何かついてるかな?」
顔に手をやる姿すら様になってるってどういう事だよ、嫉妬する気すら無くすわボケ。すると相手は唐突にため息をついた。
「分かったよシオン、この前のプレゼントが気に入らなかったんだね?今度違うのを持って行ってあげる。」
そう言い、椅子ごと俺を180度回転させて向き合うといきなり俺の額に口づけをした。あまりの事に数秒固まってから勢いよく立ち上がる。
「おま…あなた、何してくれてるんですか!」
一瞬、素が出そうになったぜ。危ない危ない。しかし、その男は悪びれる様子もなく言った。
「自分の許婚にキスをするのはいけない事なのかい?」
「い、許婚!?」
そんな記憶出て来なかったぞ!しっかりしてくれよ!
その時、校内アナウンスが入った。
「ヴェルノ=オストロア、ヴェルノ=オストロア、先生がお呼びです、職員質5番扉までお越しください。」
「おっと、行かないと。またね、シオン」
イケメンオーラを残しながら去っていったヴェルノ=オストロアを睨んだ後席に座る。許婚…ねぇ…結婚相手って事だよなぁ…男と?結婚?
「普通に嫌だわ」
そう呟いて机を指で四度叩く。スッと音もなく近寄ってきた影は新聞部の副部長であり、私の間諜でもある。
「ヴェルノ=オストロアについて調べて、交際履歴から交友関係、学業、何でもいいわ。弱味を何としても探り当てなさい。」
影が頷いて気配が消えたのを感ると業務を再開した。
「シオン!」
うわ、来たよ。登校時、アルフレッドの運転する車を降りると校門の前にヴェルノが手を振りながら呼びかけてくる。いつもの私の取り巻き達は許婚という事を知っているのか、察して寄ってこない。来いよお前ら!今は来てもいいんだよ!
「おはようございます、オストロア様」
わざとよそよそしく挨拶を返す。当たり前だ、私はお前と結婚なんざしたくないんだ。
「うん、おはよう!」
めげないなこいつ、腕を組むようにヴェルノが手を差し出してくるが無視して歩く。すると少し強引に肩を抱き抱えられた。離れようとしたがそんな華奢な体のどこにそんな力がと思うほど強く押さえられる。そしてそっと耳打ち
「僕の事が知りたいならスパイなんて寄越さずに直接聞けばいいのに」
ぎょっとして顔を見るとニコリと微笑み返された。
放課後、仕事をしながらチラチラと前を見る、目の前にはヴェルノがニコニコしながらこちらを見ている。
「かわいい、」
「……」
「お喋りしたいな~」
ヴェルノの顔を睨む、いわゆるジト目ってやつだ。
「あまり回りくどいのは好きじゃありません、手短に行きましょう、あなたと私の結婚はあなたの家にメリットはありません。何故私と結婚しようと思ったのですか?」
「家が決めたからさ、でも僕は…」
「ダウト」
書類をまとめて封筒に入れる。
「間諜がいなくてもある程度の事は調べられますわ。今回の結婚はあなたの家、しかもあなたからの申し出だったらしいではないですか」
椅子から立ち上がり棚に封筒をしまう。
「私の家は侯爵、あなたの家は公爵、もちろん資産もそちらの方が上ですわ。それに…」
棚のファイルを確認しながら後ろに座っているであろうヴェルノに向って話を続ける。
「血を絶やさない為かとも考えたんですがお兄様がいらっしゃるそうじゃないですか、では…なぜ?」
振り返ろうとしたその時、口を手でふさがれた。
「!?」
振り向こうとしてももう一方の手で押さえられる。
「ならもう僕の心は分かってるだろ?」
「むー!むー!」
「君が好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで…たまらないんだ。」
俺の口を抑えていた手を放すと目の前に持ってくる。
「見て」
パチン
指が鳴った瞬間世界が暗転した。
気付いた時には元の様に生徒会室の椅子に座っていた。ヴェルノはおらず、やろうと思っていた書類も終わらせてある。夢?そんな馬鹿な。
「なんなのよ、あの人」
無意識にそう呟いていた。
週末は服の選別をして過ごすことにする。残念ながらこの世界に特撮ヒーローはいないらしい。
「これはあんまり趣味じゃないな…こっちは…どうなんだろ?これ?ちょっと着てみるか……」
ドレスに袖を通して大きな全身カガミの前に立ってヒラヒラと少し動いてみる。う~ん、保留、かなぁ……
「僕が贈ったドレスだ。」
「ぴにゃあ!?」
この場にはいないはずの声がして心臓が飛び出るほど驚いた。
「な、な、なんであなたが!?」
手には大きな箱を持っている、なんだろう。
「婚約者の家に遊びに来ちゃだめなのかい?」
首をかしげるヴェルノにビシッと指を指しながら叫ぶ。
「家なら構わないかもしれませんが、部屋はダメでしょ!」
「君のお父様もお母様も快く部屋に入るのを許してくれたけど?」
抵抗しろよ!通さないだろ普通!まぁ仕方ない。基本格下は格上に逆らってはいけないのが世の常だ。
「ではお帰り下さいな、顔も見れたし声も聞けた。十分ではないですか。」
素っ気なくそう言うとヴェルノはため息をついて髪をかきあげる。お?そろそろ嫌になってきたな?
「君は何が気に入らないのかな?」
ここでさすがにあなたの性別ですなんてのは言えないしな…そうだ!
「私との結婚のメリットです。あなたの心の底が分からないから嫌なのです。」
こう言って相手が本音を漏らしたならしめた物、父と母に速報告して婚約を断ってやる、私は一人娘だ。泣いて嫌がればなんとかしてくれるはずだ。漏らさなくてもいい、こんな娘、嫌になるだろう。
だがあっちが出してきた答えは予想だにしないものだった。
「君が好きだから、それじゃ…だめ?」
「私は半熟派ですわ」
「それは黄身だね」
「ソースをこぼしてしまって…」
「それはシミ」
「鮮度が1番!」
「……あ、刺身か、苦しくなってくるのが早いよ!」
くそ、なんてしぶとい奴だ。ため息をついて椅子に腰掛ける。立ったままニコニコしているヴェルノを見ていると、ある案が生まれた。危険な賭けだが、やるしかない。
「なら私の足にキスして下さい。」
足へのキスは服従の証、あちらはこちらよりも格上、最大級の侮辱だ。ヴェルノは怒り、婚約は破産、私はめでたく男との結婚から逃れられる、後は野となれ山となれ。そう思い心の中でほくそ笑んでいると、突如左足の靴を脱がされた。そしてヴェルノは少し手で素足を持ち上げると躊躇うこと無く俺の足に唇を触れた、私の会心の一撃は容易く打ち砕かれたのだった。
唖然としている私を見て今まで見た事もない悪い笑みを浮かべると口を開いた。
「君が何を企んでいるかは知らないけれど、僕は君の事を放すつもりなんて毛頭ない。」
私の足を、ヴェルノは立ち上がるのと同時にゆったりと持ち上げる。足の高さと反比例して私の体は沈んでいく。もう1度ヴェルノは私の足に唇を付けると今度は犬のように舐めまわしていく。
「ふぇ?……ぁ……んっ……はっ…」
驚いたあまり反応するのが少し遅れ変な声が漏れる。そんな私の様子を満足したのか、ひとしきり舐めると手を放した。
椅子にうずもれたまま呆然自失となっているわた…俺を横目に持ってきた箱を開けて中からドレスを取り出すヴェルノ。
「ほら、この前の約束通り、違うドレスだよ?」
綺麗な青に黒いレースがついてて、目立たない程度に金の刺繍がなされている。
「綺麗…」
ほぅと見とれているとヴェルノが怪しげに笑う。
「どうせなら着て見せて欲しいな」
ぎょっとして許婚サマの顔を見た、ヤバイ、目の前で着ろと目がおっしゃっとる。
「ほら、着せてあげるから」
しかし、ドレスは俺のベッドの上に丁寧に置かれた、いや、着せるんやないんかーい!違うことする気まんまんやないかーい!そんなツッコミを頭の中で繰り広げている間にもじりじりと近付いてくる。ヴェルノの赤い舌がチロリと動いた。
「いやいやいや、ダメダメダメダメ!」
逃げようとするも後ろは壁、逃げきれない。そのまま壁ドーン!しかも肘!肘!顔が近い!
そのまま顎に手を添えられて顔を上げられる。うっぎゃーまた悪い顔をしていらっしゃる。
「いいよね?」
何が!?急展開すぎて目が回る、そのせいか言ってはいけないはずの事を言ってしまった。
「わ、私男だから!」
時が止まった、気がした。あちらも固まる。こちらも固まる。そのまま二人とも数秒硬直した後、ぽふと胸に手を当てられた。
「何やっとんのじゃ!!」
思わず下腹部に蹴りを入れてしまう。うめき声を上げてうずくまったヴェルノに駆け寄る。元・男だからな、あの痛みはよく分かってしまう。
「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!」
近寄ってしゃがみこむと…
「なんでまた触るんですか!」
「いや、結構大きかったもんで…」
変態発言しながらもやっぱりかっこいいなぁ。ずるい。
ヴェルノは服についた埃をはらうと立ち上がった。
「で、どういう事かな?」
「あ……それはですね……」
自分のベッドに2人で腰掛けてからかくかくしかじかと今までの話をする。いやでも絶対信じてくれないよな。男だったのが女に転生したなんて…結婚を避けるための嘘だと思われるに決まって…
「君もか!」
「は……?」
ありえない言葉に動きを止める。するとヴェルノに思いっきり抱きしめられた。
「君も転生者!しかも前の世界の性別と違う体にだなんて!」
……なんですと?彼の話をまとめるとこうだ。彼は生きてる時は本田葵という女性だったが、事故に合って死亡、転生して男の体に入ったと
「最初は許婚を決めろ、なんて家から言われてね。でも僕はこころは女だから女性と結婚なんてもちろん嫌だった。でもね、君を見た瞬間それが全部ひっくり返ったんだ。」
「はぁ…」
「僕が女性を好きになるなんて、と最初は思ったけど、やっぱり性別なんて些細な…」
長々と続く話を聞き流しながら思う。目がコワイ。愛情を語る人は普通こんな目をするのだろうか…なんていうか…光がないよね、うん。
「それで、僕の告白は受けてくれるよね?」
唐突な言葉に飛び上がる。
「はい!?なんでそんな話に…」
するとヴェルノは今来ているドレスの裾からまるでそれが当たり前でもあるかのように手を這わせてくる。
「聞いてなかったの?悪い子だな、だから、君は女性の体を持っていて、男の心を持っている。僕は男の体を持っていて、女の心を持っている。だから君が気にする必要は無い。と言ったろう?」
そういう問題じゃないんだな~、あんた女の心を持ってるとは思えないほど馴染んでるし、反論しようと口を開いた瞬間人差し指で口を押さえられる。
「それに、君はもう『俺』よりも『私』というのに慣れてしまっていないかい?」
そんな馬鹿な。俺、と呟くも、何か違う。そう、この世界に来て、最初は私という一人称に違和感を覚えていたように…
「心が段々女の子になっているんだよ、じわじわとね?」
じわり、じわりと手が奥深くまで侵入してくる。嫌だ、やめろ。
「大丈夫、僕がしっかりと教育してあげる…」
春、麗らかな日差しの中、テラスに机と椅子を出してお茶を飲んでいたヴェルノ=オストロアにパタパタと台所から走ってくる少女がいる。
「ヴィー!ヴィー!私、今日とっても上手にアップルパイが焼けたんですよ!」
誰あろう、婚約者のシオン=アルベルトその人である。後ろからは使用人が走るのを止めさせる為に追いかけている。
そんなシオンの可愛らしい様子を見ながらヴェルノはニッコリと笑った。
(いやはや、手間をかけてじっくり調きょ…躾…じゃない、教育したかいが合った。)
もちろん、遠山大河が入る前のシオン=アルベルトも魅力的だったが、少し感情が乏しかった。
「それは良かったね、シオン。さて、もちろんシオンの手ずから食べさせてくれるんだろう?」
私の言葉を聞いて顔を真っ赤にするシオン。
私の向かいにある椅子に座ろうとしたシオンに首を振り、自分の膝をポンポンと叩く。
それの意味を解したシオンが耳まで真っ赤にしながら言う。
「で、でもヴィーの服が皺になっちゃいます……」
そう、今のシオンは笑ったり赤くなったりと非常にかわいい表情をするようになった。高嶺の花だった彼女は、もう私の手から離れられない。
「構わないよ。ほら、おいで?」
転生する直前に、実は聞こえてきた言葉がある。「あ、ミスった」と、
シオンに甘い甘いアップルパイを食べさせられながら思う。なにがミスなものか、私はとても幸せだ。
「「あ、危ねーーーー!」」
天界では二人の神がホッと胸を撫で下ろしていた。
「あー、最初入れる体をミスった時はどうしようかと…」
そんな最高神の頭を死神が大鎌の柄で殴る。
「お前が調子乗って人間をポンポン転生なんてさせるからだ、自業自得だ。バカタレが。」
「いやでもね?真反対の人間を使うっていう私の策が成功した訳だよ。ふっふっふ。」
「なにドヤ顔してんだよ!ったく…お前の策(笑)もあの男があの女に惚れなきゃ意味無かっただろうに…」
そこでハッと最高神の顔を見つめる。
「お前、まさか!」
「あー、ちょっとだけだよ?ちょっと好意を操作しただけで…」
さっきの数倍の力で最高神の頭を殴る死神
「お前はまた妙な細工をしたのか!人間界に極力手は出すなと言っておいただろうが!」
「痛たたた…私の聡明な頭脳が…」
天界からアップルパイを食べさせ合うシオンとヴェルノを見下ろしながら死神が呟く。
「いや、しかし…あの男もあの女に惚れられるとは可哀想に…ん?そうか、今は女だったか…で女の方が男に…あぁ!くそ!ややこしい事この上ないな!」
最高神の首根っこを掴んでズンズンと去っていく死神、雲の下からは幸せそうな二人が写るのみだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます!気をつけてお帰りください。