「二人の戦闘で思ったことを言ってくね」
二人が股間の話を終え、僕らはさっきまで試合をしていたスペースの中央に腰かける。
「……ルカって審判してたんだよね?」
ナナカが腰を掛けるなり周りを見回してそういった。
「そうだけど?」
「審判しながら……この数のゴブリンを倒してたの?」
僕らの周囲には緑色の皮膚を持つゴブリンの死骸が散らばっている。
丸焦げにされたもの、体に穴をあけられたもの、粉砕して肉片だけを散らばしたもの……。
そのすべての死骸に言える共通点はゴブリンという種族と、死んでいる場所がすべてスペースの外側ということくらいだろうか。
ナナカもオレンも苦虫を噛み潰したかのような顔をしているがせいぜい周りに散らばっているゴブリンの数は百体ちょっとだ。
「何か?」
「いえ、なんでもありません」
「あ、オレン。もし物足りないなら僕が次は相手するけど……」
「また今度でいいっす」
なんだか二人の態度が素っ気ない気がする。
まあ、それで何か困ることがあるかといえば僕の機嫌がいささか悪くなる程度なので放っておこう。
「あ、忘れるとこだった」
僕が少しムッとしているとオレンがポンと手を叩いた。
「試合の直前に言っていたことって本当か?」
「ん?」
「ほら、ナナカが魔王から一本取ったてやつ」
「本当だよ」
先ほどとは反応が違い、オレンが少し顔をしかめただけだった。
さすがに試合の後なら少しは納得できたのだろう。
「まあ、大体オレンも察しはついているだろうけどナナカは正面から仕掛けに行ったわけじゃないからね」
ついでに、ナナカを召喚したところから彼に会うまでの経緯を話しておいたほうがいいかもしれない。
ナナカを召喚させてすぐに現れたように、また魔王が完全に回復する前に動いてくる可能性がある。
そのことと一緒に僕はオレンに今までの経緯を伝えた。
*****
静かに耳を傾けていたオレンは僕が話し終えるとすぐに口を開いた。
「なるほどな。つまり、魔王はまだ回復しきってないけれどいつ俺らの前に現れるかもわからない、と」
「そういうこと。だからできることは早めに増やしておきたいんだ。僕らの戦闘技術の底上げとか」
「そうだな……。そこらへんナナカはあまり心配しなくてもいいかもしれないな」
「へっ?」
急に名前を呼ばれたナナカは驚いてオレンを見る。
オレンはその視線に気づいて照れくさそうに笑った。
「運動神経は男に劣らないほどだぜ、お前。そんだけ運動能力高けりゃ動きさえ覚えれば戦闘技術もぐんぐん上がるってもんさ」
「そ、そうかな」
「うん。そこは保証するよ」
嬉しそうな笑顔を浮かべながらうつむいたナナカを僕らは微笑ましく見つめる。
「じゃあ、二人の戦闘で思ったことを言ってくね」
「おう」
「うん」
「まず、オレンは剣の扱いは本当にすごいと思う。多分これだけ扱えるのは数えるほどしかいないよ。……ただ、不意を突かれるとすぐ自分のペースを保てないっていうのは痛いね」
実際、ナナカが姿を消したとき彼は動揺して周りを見ているつもりでも彼女が現れたとき反応に遅れた。
そして無理やり動いたせいで相手に隙を見せてしまい、見事にそこを突かれてしまっていた。
「……なるほどな」
オレンはそう呟くと何やら一人で考え出してしまった。
彼に言いたいことはそれくらいだし、一人で反省点をまとめるのも必要なことだろうからあえて話しかけることはせず、ナナカのほうに話題を切り替える。
「で、ナナカはさっきオレンが言っていたように運動神経は文句なしだよ。特に反射神経は。ただ、なんで武器使わないのか……」
「あ、忘れてた!」
「……」
あっけらかんと言われて僕は言葉を失う。
微妙な空気になってしまったのを咳払いして話し続けることで何とかしようと試みる。
「あと、基本敵に背中見せちゃだめだからね」
「あー……はい」
「そうそう、なんでオレンの後ろに回り込んだとき隙を突かなかったの?」
僕はナナカが姿を消す直前のことを思い出した。
ナナカは少し首をひねる。
「隙が無かったんだよ」
「え?」
「あの時、オレンの袖の中に大きな針みたいなのがあるの見えて、それを私に突き付けようとしているのが見えたからそのまま一度オレンに見つからないように隠れて隙ができるの待ってたんだ」
そういえば、ナナカから一本取ったオレンは金属の何かをナナカに突き立てていた気がする。
「な、なるほど……」
距離が遠かったからだろうか、僕はそれに気づくことができなかった。
なんだか悔しくなってくる。
「それで木の上に登って様子見てたけどなかなか隙が見つけられなかったから、適当に大き目な枝折って少し離れた木に投げつけてオレンの意識をそっちに向かせようとしたんだよね」
「それは良かったかもね。それにナナカは気配を消すのがうまいみたいだから」
「え、そうなの?」
……無自覚か。
僕はそれなりに生物の気配を感じるのは得意な方だ。
だから魔王が来たときにも多少早く反応できた。
そんな僕にも感じることができないほど気配を消していたのにそれがさらに無自覚で行われているとなるとナナカには素質があると認めざる得ない。
「まあ、今はこんなところかな。また定期的に試合をしてダメ出しさせてもらうよ」
とりあえず当分はナナカに戦い方の基礎を教えなくてはならないだろう。
「オレン」
「……ん? 呼んだ?」
随分考え事をっしていたのか少し間が相手から返事が返ってくる。
「ナナカに剣を教えてあげてくれないかな?」