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千歳の少年魔導士は再び勇者を呼び寄せる  作者: 千秋 颯
第一章 二人目の勇者と赤髪の剣士
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「じゃあ、もう一回さっきの森、神隠しの森まで戻ろうか」

「……誰?」

 僕の口から出たのはそんな言葉。

 ……ボケが始まっているとかではない、と思いたい。

 僕の言葉を聞いて、赤髪の青年は肩を大きく落とした。

「そりゃあ、ないよ……」

「え、ルカの知り合いじゃないの? じゃあ不審者?」

「違う違う!」

 青年はナナカの言葉に首を何度も横に振る。

「俺は、オレン・アンドル。……八年前、ルカに剣と魔法教えてもらってたんだけど、覚えてないかぁ」

「――オレン!?」

 僕は青年の顔を凝視した。

 千年前の記憶ならば忘れていることもおそらくたくさんあるがまさか一五、六歳くらいの少年のことを忘れてしまうほどにボケてしまったのかともちらっと考えたが彼と会ったのは八年前のことであり、出会った時より随分と成長しているために見ただけでは思い出せなかったのだとわかり安心する。

 オレンは僕が名前に反応したのを見て嬉しそうに顔を上げた。

「ルカ、思い出したか⁉」

「うん」

 確かに彼は燃える炎を連想させるような赤髪だった。

 ……だが、さっき彼は「やっと追い付いた」と言った。

 何故僕を追ってきたのかがわからない。

「……オレン。君はさっき僕を追ってきたみたいなことを言わなかった?」

「おう。あ……そっか。俺のこと忘れてたみたいだし、俺がルカを追ってた理由も忘れてるのかぁ」

「う、うん。なんかごめん」

「いんや、そんなに大したことじゃないから、忘れたなら別にそれでもいいよ。それより、俺をお前の旅の連れにしてほしいんだ」

「え? 別にいいよ」

「即答!?」

 オレンは僕があっさりと頷いたことに驚いているようであったが、僕としては魔王を倒すために人数がほしいところだ。

 自分から魔王を倒すためについてきてくれるという存在はとても貴重だし、オレンは僕と面識もあるため警戒する必要もないため迷う必要はなかった。

「でも、僕と来るってことは魔王と戦うってことだよ?」

「ああ。構わないよ。俺はルカの力になりたくて来たんだからさ」

「そっか」

「んーと……話がよくわかんないんだけど、結局ルカの知り合いで間違ってないんだよね?」

 僕らの会話を見ていたナナカはコーヒーを飲み切ってから言う。

「そうだね。こっちはオレン・アンドル。八年前に僕が訪れた村にいた男の子だよ」

「どーも。まさか、ルカがほんとに少しも成長してないとはねぇ」

「……うるさいなぁ。僕だって弟みたいにピーピー泣いてた八歳が僕の身長を軽々と抜いて現れるなんて悲しいよ」

「な、泣いてねえし!!」

 オレンは顔を真っ赤にして叫んだ。

 顔にすぐ出るところは相変わらずの様子。

「オレン、立ってないでこっち座りなよ」

 僕はわざと落ち着いた様子をオレンに見せつけながら空いている椅子に座るよう促した。

 オレンは顔を赤くしたまま黙って僕の隣に座る。

「……それで? そっちの女の子は、ルカの彼女かな?」

「ぶふっ……」

 グラスに口をつけてジュースを飲み始めていた僕はオレンの言葉に不意を突かれて口の中のものを吐き出しかける。

 オレンはそんな僕の様子を見てしてやったりと言わんばかりににやにやとしている。

 一方ナナカはきょとんとした後に何度も首を横に振った。

「いやいや、ルカは確かにかわいいけど、それただの犯罪だからね」

「だよねー」

「……かわいくない」

 オレンのにやにやとしている顔を横目に僕はナナカの言葉と彼の今の性格に対してそう呟く。

 八年前のかわいさは一体どこへ行ってしまったのか。

「ナナカも言っているけど、そんなんじゃないから。こっちはアマミヤ・ナナカ。僕が召喚した二人目の勇者だよ」

「え、ゆう……」

「静かに」

 僕はオレンが驚いて叫びそうになるのを彼の口を覆うことで防いだ。

 こんなところで注目を浴びるのはごめんだ。

 ……もはや騒がしすぎいて手遅れかもしれないが。

 僕が静かに口から手を放すとオレンは小声で言う。

「どういうことだ? ルカが魔法に失敗したのか?」

「「違う」」

 僕と、何故かナナカの声が重なった。

「失敗したら『向こう側の世界』の人間は人の形を保てない。つまり彼女は本当に勇者なんだよ」

「え、ちょっと。それ初耳なんだけど」

 ナナカが顔を引きつらせる。

「勇者召喚に失敗すると召喚された勇者は皮膚は溶け、ほぼ液状の物と化し、眼球だけが……」

「ちょ、ちょ、ストップ!!」

 僕の話の途中にナナカが顔色を悪くしながら割り込む。

「もういいから……。つまり、ルカはそんなことになるかもしれないの知っていて私を召還したんだね……」

「え、何言ってるの?」

 僕はナナカの言葉の意味がよくわからず、首を捻った。

「僕が失敗するわけないじゃん」

「……」

「……相変わらずの自信家だな、お前は」

 ナナカが黙ってしまったのを憐れんだ目で見ているオレンが苦笑した。

「自信家じゃないよ、事実だから」

「はいはい。……でもこれはちょっと大変かもしれないな」

「うーん……」

 僕はオレンの言葉に少し唸る。

 オレンが言いたいことは大体理解できる。

 「女の勇者となると、基礎体力や技能的なものが心配だ」と言いたいのだろう。

「僕も最初はそう思ってたんだけど、それは大丈夫な気がしてきてるよ」

「なんか考えでもあんのか?」

「そうじゃないけど……」

 僕はナナカが魔王の後ろに回り込んだ場面を思い出した。

 決して油断していたわけではない魔王の後ろに回り込むことは簡単なことじゃない。

 だが、こればっかしはオレンに言うだけでは信憑性に欠ける。

 というか、僕が見栄張っているように聞こえるだけだろう。

「……オレン。一回、ナナカと模擬戦でもやってみてよ」

「……んっ?」

「え? 女に怪我させる趣味はないぞ」

「……怪我させることができるかな?」

「舐めんなよ、ルカ。俺だってお前がいなくなってから強くなったんだ」

 ……あれ。

 オレンの雰囲気が変わり、僕は怒らせてしまったことを悟った。

「別にオレンを舐めているわけじゃない。ただ、ナナカもどこにでもいるような女の子じゃないんだと僕は思う」

「え、どこにでもいそうなか弱い女の子だけど……」

「――ナナカは黙ってて」

 どうやらナナカは前向きに物事を考える人間かと思ったが自分を下にみるところがあるようだ。

 だからと言ってここで僕の言葉を否定されたら本当に僕が見栄を張っているようにしか思われない。

「ひどいなぁ」

 ……か弱い女子は魔王から一本取ったりしないんだよ。

「二人がどれくらい先頭に向いているか、あと、今備えている実力を知るための模擬戦だ。もしそれで二人のどちらかが圧勝してしまった場合は僕が負けたほうの代わりになって勝ったほうと戦う。あくまで二人の実力を知りたいだけだから」

 後付けでもっともらしい理由を付け足したが、実際二人の実力を知るいい機会だなと自分でも納得する。

 ……まあ、一番は僕が召喚に失敗していないことを証明させたいという理由だけど。

「じゃあ、もう一回さっきの森、神隠しの森(シルバウェイ)まで戻ろうか」

神隠しの森(シルバウェイ)……!?」

 オレンが息をのむ。

「ん? 僕がいる限りあの森から出られなくなるとか、そんなことはないよ? ……それとも」

 僕は先ほどオレンが浮かべていたような意地悪い笑顔を浮かべた。

「こわ……」

「――そんなんじゃねぇよ!!」

 オレンは僕に実力を下に見られるのが相当嫌なようだ。

 ……まあ、たった数か月の間ではあったものの、僕と彼は師弟の関係だったわけで師匠に実力を下に見られるのは嫌なものなのかもしれない。

「じゃあ、安心だね」

「ねえ、さっきの森にもなんか隠してることない?」

 ナナカの質問に聞こえなかったふりをして僕は席を立つ。

「じゃあ、行こうか」

 ナナカが頷いて立ったところでオレンの制止が入る。

「おい、待てよルカ」

「……何?」

 文句なら勘弁してほしいと思ったが、振り返って見た後ろにいるオレンは呆れたように肩をすくめていた。

「お前、そんな血だらけの状態で町をうろつく気か?」

「あ……」

 すっかり忘れていた。

 というか、ナナカには治癒魔法も状態回復魔法も使えないために血だらけで歩くことになりそうだと結論付けていたが、八年前のオレンに僕が初めて教えた魔法は治癒魔法と状態回復魔法だった。

 ……人を傷つける魔法より人を助ける魔法を上手くなってほしいっていう僕なりの思いだったのだけれど、その願いがどこまで届いてるかはわからない。

 まあ、つまりオレンがいれば僕や僕の服を回復させることができるということだ。

「『治癒サニチューム』、『状態回復レクペア・プリエ』」

 僕を包みこむ橙色と青色が混ざった色はどこか暖かかった。

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