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千歳の少年魔導士は再び勇者を呼び寄せる  作者: 千秋 颯
第一章 二人目の勇者と赤髪の剣士
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「いってきます」

 僕はだんだんと明るくなりつつある空の下、静まり返った通りを歩く。

 海までつながる川の水が僕の立っている道のすぐ隣を流れている。

 その川に沿って三十分ほど歩いていると、町の外へ出るための門が見えてきた。

 そこを潜り抜けて地平線の奥まで伸びる川と道から僕は外れる。

 

 道から外れると川の流れる音はどんどん遠ざかっていって、代わりに大きく広い森へとたどり着く。

 『神隠しの森(シルバウェイ)』と呼ばれるこの森に人はほとんど近づかない。

 本来ならば花が咲き、果実が実り、紅葉して銀世界へと変わるこの森は自然豊かでその自然の美しさを見ることができると観光地になるほどだった。

 それが今となってはここに来るのは僕のみとなってしまった。


 たまに迷い人がここへ足を踏み入れてしまうことはあるが、『神隠しの森(シルバウェイ)』とこの森が呼ばれるようになった時からその中で誰一人としてここから出られた者はいない。

 ここに足を踏み入れた人間が戻ってこないのには理由があるのだが、どうやらそれを知らない他の人間は彼らが神隠しにあったように見えたことからそう呼ぶようになったらしい。

 僕はそんな森の中へ躊躇うことなく足を踏み入れる。


*****


 生き物の気配すら感じられない森を僕は一人で歩く。

 ある程度進んでいくと霧が現れ、それは森の奥深くへ進んでいくほど深くなっていった。

 目的地まであと少しというところで僕は後ろから何者かの気配を感じて右手に持っていた僕の胸あたりまである杖を持ち上げる。


「『氷の矢(アロラ・シーズ)』」


 ため息交じりに呪文を唱えると僕の頭上三メロほどのところに約百本の氷の矢が現れた。

 僕は振り返ることもないまま杖を後ろに軽く振って気配のした場所に集中して氷の矢を降らせる。

 後ろで「ギャッ」という短い悲鳴が聞こえたが僕は気に留めもせず目的地へ再び足を進めた。



*****



 朝日が昇ってきて少し森の木々から木漏れ日が漏れ始めたころ、僕はやっと目的地にたどり着いた。

 森の奥深くには直径十メロほどの複雑な魔法陣が地面に浮かび上がって、淡い光を放っている。

 この魔法陣の中には僕以外の他の生物は皆入れないようになっていた。


 そしてその魔法陣の真ん中には大き目の水晶と台座が置いてある。

 それは僕が昔作ったもので、台座は大分苔がついていた。

 僕はその台座に書かれている文字をみる。


『この世界の平和のため勇敢に戦った勇者たち、ここに眠る

 ミカミ・トオル

 アメリ・プーケ

 レンス・ルセンダ

 エネーア・トイノフ』


「……ごめん、なかなか来れなくて」


 水晶と台座、もとい大昔の勇者たちの墓に僕は語り掛ける。


「でも、また行かなきゃなんないんだ。――今度こそ、必ずっ……」


 僕は奥歯を強く噛みしめる。そのあとは声にならなかった。

 代わりに僕は立ち上がって墓に笑いかける。


「僕は大魔法使いだからね、今度こそ自分の使命を果たさなきゃ」


 そして僕は頭に乗っかっていた三角帽子を両手で持ち上げて、水晶に引っ掛ける。


「いってきます」


 僕は最後にそう言うと、勇者たちの墓を後にした。

この世界の長さについての単位についてです↓

キメロ……キロメートル

メロ……メートル

センメロ……センチメートル

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