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Hateful blue  作者: 結桜 閑
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理想のGF

 肌を刺すような鋭い痛みで少年は浅い眠りから目覚める。


 ぬくい布団から抜け出して目をこすると、午前1時。深夜特有の静けさはゆっくりと脳味噌の回路を冷やしながら、時計の秒針を穏やかに見守っていた。

 机のど真ん中を占拠している未提出の課題の山が視界に入る。ここまで来る前に何とかしようと思えばいくらでもできたはずなのだが、特別何のアクションも起こさなかった。

 「やればできる子」だと信じられてきたのは精々中学一年生くらいまでの話で、流石にもう周囲から期待されることはなくなった。字面だけ見ればなんとも情けない話だが、正直言って期待されすぎるのも好きではなかった。

 基本的に自由人な僕は周囲から干渉されることを大いに嫌う。反抗期が一般的な時期に来なかったため、二十歳に差し掛かった今になってからズルズルとクズみたいな性格をこじらせているわけだ。

 はっきり言って自業自得だ。しかしこんな性格になりたくてなったんじゃない。この想いをぶつけるものがどこにも見当たらなくて、眉間にしわを寄せた。

 暖冬とはいえ、夜の冷え込みだけは笑い飛ばせない。

 少し暖を取ろうと思い、テディベアがプリントされたふかふかの毛布を身体に巻き付けてから石油ストーブの電源を入れるべく重たい腰を持ち上げたのだった。

 部屋の中がほんのりぬるく肌に馴染んできたころ、僕はレポートを綴ったものを脇の方に寄せて、埋もれていた一冊のノートを引っ張り出した。ノートの表紙にはでかでかと中学校三年の頃の出席番号と氏名が書かれている。


「今で何人くらいかな」


 ぽつりと唇から漏れた言葉に苦笑が混じる。

 このノートには自分が創作したキャラクターのイラストが描かれている。

 小さい頃から友達を作るのが苦手だった僕は、中学に入ったら少しはマシな交友関係を築けるかなと若干の期待はしたが、それも期待のままで終わってしまった。そんなこんなで現実世界に軽く嫌気がさし、部活や同好会を心の拠りどころとして日々を過ごしていた。

 紙の上に自分だけの世界を創ろうと考えついたのは、高校受験を控えた年の七月末のことだった。投げ出しがちな自分にしては割と本気の計画だった。

 まず、前提としてこの新世界の主役は自分であること。法律は適宜決めることにして、基本は自由な世界である。

 ペラペラとページを繰る指先。一ページにつき十人から十五人ほどの人物のイラストが描かれている。どのキャラクターも皆個性豊かで、どこかしら自分の好きな性格や容姿をざくざく盛り込んでいた。


「パン屋の優しいお兄さん、難しい公式をたくさん教えてくれる数学の先生、歌がうまい双子の女の子、いつもお菓子ばかり食べてばかりいるメタボの男の子、猫耳の似合うメイドカフェのお姉さん、魔女見習いの女の子、星を食べて生きているおじさん、それから」


 一人ひとり数え上げればキリがないくらい本当にたくさんのキャラクターがいた。どっぷりと過去の思い出に浸り、自然と表情はやわらかくなる。

 書き込まれたページを過ぎ、白紙のページにたどり着くと彼はおもむろにシャープペンを握った。


「今日のテンションはそんなに悪くないから、思い切ってガールフレンドでも考えてみようかな」


 なんてことを思いながら妄想の藁にやる気の炎を着火する。すっかり夜型になった生活スタイルに混乱した脳味噌はすっかり覚醒していた。

 髪はロングの黒髪が好ましい。美人かどうかは判定に困るが、スタイルがやや良くて私服がかわいい子がいいな。頭は自分より良くて、でも計算がちょっぴり苦手な子。あと、そうだな。か弱いよりは武術に長けている方が何かあったときでも安心だし、趣味は似ていたほうがいいから元美術部の設定にでもしておこう。

 ひとりでブツブツ呟きながら、妄想を紙の上にイラスト化させていく。

 完成した少女の全身像はモノクロ故にどこか凛々しく、気品のある大人びた顔だちをしていた。設定は二十歳前後という、僕自身と同じくらいの年頃にしたはずなのに、自分より数倍は年上に見える。

 まず僕自身年相応の顔つきをしていないため、酒を買いに店へ行くと必ず年齢確認に引っかかる。理不尽なものだ。


「それにしても中々可愛いな」

 

 自らのイラストを自画自賛してひとしきり眺め終えると、また睡魔が襲ってきた。中学の技術の時間に作った木製のペン立てにペンを戻すと、平面的な少女の太ももに顔をうずめるようにして、少年は再び眠りの底に落ちていった。


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