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乗用動物

「そういえばサクよ。お主馬には乗れるのだろうな?」


「えっ?馬なんて今まで一度も乗ったことないけど?」


 作治は正直に答えた。高校への通学は電車だし、近所のコンビニへ行くときは自転車だし、春日部イオンに行くときは両親が運転する自動車である。どこにも馬の入る余地はない。


「かーっ。なんと情けない。妾は5年前ポニーを乗りこなしたというのに。これだからニホン人は三等民族なのだ」


 アミーラは額を押さえた。


「いや、馬に乗れる日本人の方が少ないと思うけど・・・」


「まぁよいわ。掃除が終わったら北の修道院まで行くからな」


「修道院?」


「妾の母が住んでおる。店で売る商品を一通り用意しておいてくれてあるそうだ。つまり荷車で行くから妾が御者役を引き受けよう。サク、お主は荷物代わりに荷台に乗っているがよい」


「いや、そんなんでいいのかよ?」


「荷台に乗って5日ほど。雨なりなんなりの問題があれば7日から10ほどかかるやもしれん。まぁ駿翔竜ならば1日もかからんらしいのだが」


「駿翔竜?」


「ニホンには空を飛ぶ乗り物がないのか?」


「あるよ」


「ほう?ではそれは羽根の生えた馬の牧場か、それとも竜の卵の産卵場所かへ?」


 ヘリコプターや飛行機をアミーラにどう説明すればいいのか。作治は何も言えなかった。たぶん、いや間違いなくこの世界にはないだろう。少なくともイスカンドリアに来てから空を飛ぶ機械を作治は目撃していない。


「まぁ所詮は三等国家だからのう。なくてもそう落ち込むことはない。だから空を飛ぶ乗り物のない人間の国に妾の母が以前魔王領で使われている駿翔竜を人間達の国でも使おうと発案したのだ」

 

 アミーラはテーブルに腰かけながら、作治に雑巾がけするように命じた。て、いうかそのテーブルまだふいてないだろ。スカート汚れないのか。


「まぁ空を飛ぶ竜があれば便利だろうからね」


「それで、万一街の住人に喰らいついてはならんよう、あらかじめ餌をたらふく食わしてから試験飛行をしたのだが」


「僕が世話係でもそうするよ」


「イスカンドリアの街を5、6回旋回している最中、空中で竜がうんこをしおってな」


 椅子を拭いていた手が、止まった。


「・・・・マジ?」


「羽根がある生き物で、地面に足をついてうんこをするのはニワトリくらいなものだ。そしてその竜のうんこが当たった家の住人が大層激怒してな。家を土地建物ごと買い取れ。引っ越し費用も払えと」


「当たり前だろ」


「その建物というのが」


 アミーラは、床を指さした。


「この家でな。通りに面した日当たりのよい家なのに、買い手がつかないのだ」


「当たり前だっ!思いっきり事故物件じゃねぇーかっ!!」


 作治は壁を思いっきり叩いた。


_____________________________________


 ファンタジー世界でよく見られる乗り物として、馬があげられる。

 だが、軍馬ウォーホースとなると少々事情が違ってくる。

 仮面ライダー鎧武、暴れん坊将軍などの撮影などに馬が使われているが、あれらも特別な訓練を受けた馬である。

 というのも自動車、バイクなどの騒音。さらに間近で起きる撮影用爆薬の音を物ともせず疾走する必要がある。

 ファンタジー世界は弓矢、鉄砲、大砲に加え、攻撃魔法まで飛び交うのだ。

 それらに怯えぬよう、更なる調教を兼ねた立派な馬でなければ怯えてしまい、戦場から逃げ出してしまうだろう。

 高貴な人間が乗るなら見た目の美しさが要求されるだろうし、単なる荷馬車を牽くだけ見てくれなど気にする必要などない。

 二頭牽き、四頭牽きの馬車馬に力強く、荷車を牽いてもらうべきだ。

 馬や馬車は現実世界でも法律上自転車扱いで、乗ること自体には免許は必要ない。

 だが、実際に鞍に跨り、手綱を引いて操れるかどうかは話は別だ。

 クトゥルフ神話TRPGでは乗馬技能を持っていないと馬から振り落されたり、馬車が谷底に落ちたりする。

 純粋に長旅をするだけならば、荷物だけを馬に載せ、自身は歩いて手綱を引いた方がいいだろう。

 まぁファンタジー世界ならばともかく、現代社会に生きる我々には乗馬技術など不要な物だから何も心配はいらない。合唱バトミントン部のピンチを救うため、ヒロインが愛馬に乗って学校まで馳せ参じたり、三人組のアイドルグループがコンサート会場から警官隊の包囲網を突破して見事エクソダスッ!したり、首のない馬に乗った黄色いヘルメットを被ったアイルライド人女性が池袋の街を疾走するようなことなど絶対にありえないだろう。

 少なくともラノベやアニメのヒロインの技能としては不要な能力のはずだ。

 砂漠を旅するならラクダが考えられる。乾燥に強い動物ではあるが、乗り心地は悪いらしい。

 ファンタジー世界ならばペガサス、ドラゴンといった空を飛ぶ乗用動物も考えられる。

 ただしこれらを手に入れる機会があったとして、不用意に乗り回すのは考えものである。

 戦場で突出したペガサスナイトが弓兵に射抜かれ、撃ち落とされるというのはよく聞く話だ。

 鉄板より分厚い鱗を持つドラゴンならばどうか。

 他の乗用動物と違い、ドラゴンの多くはおそらくは肉食だろう。旅の途中道端に茂っている草を食べさせていればいいやー。

 そんな風にいくわけがない。おそらくは膨大なエサ代がかかるはずだ。

 動物園のアフリカゾウの餌代は一日当たり一万円ほど。体格の大きくて立派なドラゴンならば、この金額よりも遥かに大量の肉類を消費するはずだ。

 そこらの肉屋で買った豚の細切れ300グラムで満足してくれる竜などいないだろう。

 さらに食料調達のタイミングも問題で、腹ペコなら牧場を襲ったり、街を襲ったりしかねない。

 それにしても不思議なものだ。軍隊が飼育している飛龍が逃げ出して手あたり次第街でエサになりそうなものを食い散らかしたという話を私は聞いた事がない。

 ファンタジー世界の住人達はよほど動物を飼い馴らすのが上手なのだろう。

 なにしろ我々日本人は犬の糞の躾すら満足にできない連中がとても多い、三等民族なのだから。


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