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時計

 時計の物語を始めよう。

 本編どころかオープニングすら始まっていない。

 だが、関係ない。

 だってこれは時計の物語なのだから。

 時計の針を回す。

 ぐるぐる。ぐるぐると。一ヶ月ほど先へと。


 アミーラの道具店には人類諸国連合各地から運ばれる商品だけでなく、魔王領から輸入される珍しい品々も並ぶ。

 マルレーネはそのうち一つを手に取って、品定めする。


「サク様。これはなんでございますか?」


 小さく。尖った物体をマルレーネは持った。


「それはザンジバル産の竜の牙だよ」


 作治は女中服の娘に商品の説明をする。


「竜の牙?こんなものを何に使うのでございますか?」


「魔術触媒になるんだ。ドラゴントゥースウォリァーと呼ばれ、骨でできた即席モンスターが召喚され、術者に命令され戦う。但し性能は牙の大きさ×質×術者の力量、って感じかな。街の外をうろついているスケルトンより弱い奴が出来上がる事もあれば実物大ドラゴンの骨格模型が出来上がることもある」


 学生服の少年は竜の牙について説明した。


「流石は魔法学科の生徒ですね!」


「普通学科だ」


「他には何かないのですか?」


「他には?えっとそうだな」


 店に並ぶのはアビニシア産の豹の毛皮や不死鳥の羽根なども並ぶ。作治が亀甲のクシを手に取ったところで邪魔が入った。


「ならばこういうのはどうじゃ?」


 飛び出した邪魔者はカウンターにいた、フランドル衣装の一二歳くらいの少女。


「マグリブ産のガラス工芸品だ」


 少女は商品棚に飾ってあった美しいガラスのコップを指で弾いた。


「まぁ!素敵な音色ですね・・・」


「ふっ。よい音色であろう?お前の主に届けてやるといい。これは、とてもよいものだぞ」


「どこの骨董好きの将軍ですか」


「将軍ではないぞ。妾は道具店の店主アミーラ。そしてお前の御主人様のアミーラだぞ。それをゆめゆめ忘れるでないぞ?」


「はいはいわかってますよ」


「ところでサク様。アミーラ様」


「なんですか」


「なんじゃ」


「お店の前にお知り合いの方々がいるようなのですが」


「知り合い?」


 作治とアミーラは店の外へと出て行った。


「げぇえええ!!!???こいつらはっ!!!???」


「へへへ。ようやく俺達に気づいたようだな。だがもう遅い」


「今日がお前たちの命日だぜっ!!!」


「たっぷりと仕返しさせてもらうぞっ!!!」


 時計の針を戻そう。

 ぐるぐる。ぐるぐると。一ヶ月ほど後ろに。

 空き家に。二人の人物が入ってくる。

 一人は十二歳の。フランドル衣装を着た少女。

 もう一人は学生服を着た少年。


「とりあえず二階の空き部屋に荷物を置いてくるのだ」


「なんで僕が?」


「かーか弱い少女に肉体労働を強いるとは。デリカシーのないやつめ。これだからニホン人は三等民族なのだ」


「へいへい。アミーラさんの分までおいてきますよ」


「むっ。あそこに柱時計があるな」


「でも動いてないよ」


「サク。お主時計は直せるか?」


「そういうのは宇宙最強のエンジニアにでも頼んでください」


「時計も直せないとは所詮ニホン人は三等民族ということか。まぁよい。後で街の細工職人のところにでも持っていくかのう」


 これは時計の物語。

 あら不思議。本編前に始まり終わる。オープニング前に始まり終わる。

 そしてオープニングと本編が始まる。

 だってこれは時計のお話だったのだから。

________________________________


 童話シンデレラには12時を知らせる文字盤のついた丸い巨大な時計が登場する。ああいったものが登場し始めたのは13世紀頃だそうだ。

 中世ヨーロッパで機械工学が大幅に発達し、高炉製鉄法が産まれ、様々な機械が創意工夫されていった。太陽や水などに頼らず、延々と正確な時間を刻み続ける時計は正に技術文明の象徴であったのだろう。

 時計の素材は当然ながら鉄製であり、サイズの関係で1~2トンほどあったらしい。教会の塔に設置され、礼拝の時間などを知らせるのに使われた。Clock(時計)の語源はドイツ語の鐘Glockeだとも言われている。

 こうした時計の設置には時間と経費がかかり、一三六五年にベルビニャン宮殿に設置された時計には九ヶ月の歳月と日本円にして一億円の費用がかかっているらしい。

 従って時計のある街、教会はそれなりに裕福だと考えてよい。

やがて時計は小型化、軽量化されていき、壁掛け時計。置時計。懐中時計へと進化していく。

 だがそれらはすべて近代以降の話である。

 少なくとも時計小型化技術に必須なゼンマイの発明は中世も終わりな一五世紀だ。

 まぁゼンマイで動く自動人形を造る様な職人なら生活費を工面するために時計作りをしているのかもしれないが、中世ヨーロッパ風ファンタジー世界では現代のようにパーティメンバーが時間通りに待ち合わせ場所に集合するなどという事は不可能だろう。

 なにせ彼らは時計を持っていない。

 ほら、あそこを急いで歩く紳士服を着たウサギさんも。


  ピロピロピロピロピロピロピロピロピロ


「あ、アリスさんですか?すいませんちょっと遅刻しました。御茶会は先に始めて頂いて貰って結構です。はい。途中でケーキか何か買ってこい?わかりました。ではできるだけ急ぎますので」


  ピッ


 ウサギさん。あんた何もってんの?


「これかい。古代遺跡から発見された携帯電話の複製品だよ。あんたもひとつ買ったらどうだい?」


 世の中本当に便利なったものである。

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