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わからないんだ

 ゆらゆらと揺れるものを見つめている。


 壁に突き立ったひとつのもの。


 何があったのかなんか覚えていない。




 ただ、涙がこぼれる。






 くやしい。





 座り込んでいるのに視界は狭く息が切れる。


 突き立ったきょうきだけがさえざえとそこに見える。


 わからない。



 何も知らない。



 なにもなかった。



 ちょっと意識が飛んだだけ。


 教室には誰もいない。


 そばには誰もいない。


 なにもなかった。



 私は荷物を片付ける。


 もう、下校時間だ。


「後でな」



 通りすがりにあなたがそう言って走っていく。



 そんな、……気がした。



 パラリと新しい世界を広げる。

 好きなアニメ好きな小説好きな漫画。

 寒天を溶かしてお手軽スイーツ。

 溶け残る寒天の歯ごたえはご愛嬌。



 なにが、あったんだろう?



「どうした?」



「わからない」



「そっか」



 いつの間にか居たあなたを見上げて、出来の悪い寒天を差し出す。

「食べる?」

「ああ」


 そして何をするでなく共に過す。


 誰も何も言わない。

 言ってても私に聞こえてないだけ?

 そうなのかもしれない。

 でもわからない音と言葉で言われても私はわからない。


 わからないこともわからない。



 誰もいない教室で呆然とへたり込む。





 ザワメキが痛い。


 わからないのに胸が痛い。

「じゃあ、帰る。また明日な」


 あなたはそう言って軽く私の肩に触れて帰っていく。

 その暖かさが嬉しい。

 そしてゆっくりとわからない物に侵食されていく。



気持ち悪い。



 世界はこわい。

 


 雨に濡れた。急に振り出した雨。

 赤く染まる肌は痒みを帯びて、堪えることなどできずに引き毟る。

 雨を洗い落とし、消毒薬を引っかき傷に流し込む。

 この痛みは嫌いじゃない。

 何も考えずにいられるから。


 壁に突き立ったきょうき。赤い液をこぼしてうずくまる誰か。闇の中ノイズが走るように記憶が錯綜する。


 どうして私は理解できないんだろう。

 わかることができないんだろう。

 できない。いけない。どうしようもなく醜い。


 記憶に留まらない過去。

 記憶に残らない人々。

 記憶に残るのは人に対する恐怖感。




 歩道橋から下を見るのは好き。

 吸い込まれる。全部吸い込んでくれそうで。

 落ちたらどうなるんだろうって夢想する。


 高いところは好き。

 見下ろすことで得ることのできる感覚があるから。

 笑ってしまう。


「おはよう」

 あなたの声に私も「おはよう」そう返し、学校への道を歩く。


 世界は簡単に楽になるのを許してくれるほど優しくはない。






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