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  後日:神官一本釣り

フェイさんの悪巧み

「号ォ外ー!号外だよっと」


 威勢のいい声と共に、灰がかった安い紙切れが何枚も宙を舞う。

 小脇に大量の紙束を抱えた男が、声を張り上げて走り回る。


「なななァんと!教会所属のありがたァい神官様が逮捕さるる!しかも被害者はいたいけな子供たち!肉欲を捨てきれぬ神官様のイケナイ性癖が大暴露!?これは!一体、どういうことだァー!?」


 ところどころ声が裏返りながらも絶叫し、目が合った人間にビラを渡して回る。

 裏路地を走り抜け、道端に座り込んだ浮浪者に事の次第をまくしたて、市場で食事の調達をはかる多種多様な輩にビラを投げ散らし、広場で退屈そうな顔をしていた冒険者たちにすれ違い様押し付ける。

 多くの者はその嵐のように走り去って行った若者をぽかんと見送った。

 後には、号外とやらを押し付けられ困惑する主婦、面白そうに目を輝かせる子供たち、興味を持って紙切れを拾い上げるゴシップ好きな人々。


「号外だよー!教会の不祥事!神官様は変態だったー!?詳しくは号外を読め!」


 ひとつ向こうの通りから、やけに通りのいい声が聞こえてくる。

 どんどん移動していることから、ずっと走り続けているのだろう。元気な事じゃのう、と困惑したままの老人が呟いた。




「待てっ、貴様!止まれ!」

「止まらんぞォ!報道に自由を!国民に真実をォ!」


 ビラを撒く男を追いかける、騎士服の男たち。

 道往く人は一体何事かと目を見開いている。

 その騒動に気を引かれてビラを拾い上げる人々へ、後続の騎士団員たちが声をかけビラを回収して行く。

「くそ、一体何人いるんだ……」

 騎士の一人がぼやく。

 たった一人がバラまいているものと思われたビラは、複数人の男たちによって撒かれている、らしい。

 らしい、というのは、その男たちは皆全く同じ格好をしている為――服装、髪型、ビラの持ち方、喋り方まで――一体何人いるのか、判別がつかないのだ。

 一人を通りの端まで追い詰めたと思えば、騎士たちの真後ろから「号外ィー!!」と声が上がり、虚を突かれた隙にするりと路地裏に逃げ込まれる。

 二手に分かれて追いかけて行けば、その先で新たにビラを配っている男を発見し、また二手に。

 と思えばビラを撒き終え身軽になった男は泳ぐように滑らかに人混みに紛れ込み姿を消し、あるいは猫のように軽少な動きで建物の屋根の上に消える。

 軽業師も真っ青な芸当を見せつけられ、通りすがりの野次馬からはやんやの喝采が上がる。

 良いものを見た、と赤ら顔で大笑いする連中を余所に、騎士団員たちの顔は険しい。

 険しくならざるを得ない理由が、彼らにはあった。



===



 この国には四つの騎士団があるが、国民たちに馴染み深いのは白槍、黒盾と呼ばれる騎士団だ。馴染み深い理由は単純で、この二つの騎士団のみ、平民でも入団できる事、また市街警備などでよく国民と触れ合うからである。

 とはいえ、他二つの騎士団が主に貴族で構成されている為、雑多な任務などをよく押し付けられるという、雑用係扱いされている騎士団でもある。


 突然非常招集をかけられ、すわ何事かと慌てて集合した黒盾の騎士たち。

 彼らに今回与えられた任務は、街を走り回って大法螺を吹く不届き者を捕らえよ、という非常に曖昧なものだった。

 法螺とはどのような、と首を傾げるも答えは与えられず、口答えの許されぬ階級社会に不満を抱きつつ、街に降りた彼らが見たものは——。


 多くの国家の中枢に食い込む教会の、神官の不祥事を声の限りに叫んで回る男が一人。


 ひらひらと足元に落ちてきた紙切れには、教会所属の神官の性癖が赤裸々に記されていた。

 しかも被害者——無理矢理に欲のはけ口にされていたのは年端も行かない少年少女が多い、我らが神に仕える者が己の醜い肉欲に負けいたいけな子供たちを犠牲に云々、と続いている。


 これはマズい。

 頭の回る数人が、そう呟いた。


 更に続くところには——青薔薇の騎士団の活躍により、今まさに変態の毒牙にかからんとしていた少年も救い出され——


 ここで、頭の回る数人が頭を抱えた。

 あの貴族のお坊ちゃんどもが……!だの、教会に余計なちょっかいを……!などと呟いている。


 更には——美しい翡翠の目を潤ませ、震える可哀想な少年の証言により、神官のさらなる罪深き所業が発覚、無駄な抵抗をする神官を取り押さえ、「正義は勝つものだ」と断じた青薔薇騎士団の勇姿——


 ここで、黒盾の騎士団のほぼ全員が首を傾げた。


 青薔薇の騎士団、教会に喧嘩売ってないか?


 繰り返すが、教会とは、多くの国家の中枢に根を張る、一大勢力である。

 そんな組織——しかも、神は絶対、神官はその代理人とされている宗教——に、お前は正義じゃないとのたまったのだ。

 喧嘩を売っていないどころではない。

 思いっきり横っ面張り飛ばしたようなもんである。

 これはマズい。

 どんだけマズいかって、下手すれば戦争が起きるくらいマズい。

 黒盾の騎士団副長は、痛む頭を押さえつつ声を張り上げた。



「全、団員に告ぐ!!いいか、これ以上の情報の拡散——否!”偽の”!情報の拡散を防げ!あの大法螺吹きを捕らえるんだ、急げ!!!」





青薔薇騎士団:(一般的な認識)

貴族のお坊っちゃん達が箔付けのために入る騎士団。

マジメに騎士やってる人もいるが、圧倒的少数。

でも優男が多いので若い女性には人気。

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